水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (44)変化

2019年08月01日 00時00分00秒 | #小説

 変化・・氷が解(と)けて水に変化するように、この世では当然、起こり得(う)る現象である。大相撲の立ち合いで、『突き落としっ! …突き落としでホニャララの勝ちっ!!』と、場内アナウンスで流れる分かりやすい変化の一例もある。^^ ただ、以前からある、いいものや素晴らしいものは、解けずに氷のままであって欲しい…と望むのは私だけだろうか。それだけ世の中の変化が激しい今の時代・・とも言えるのである。しかし、変化したからといって必ずしもよくなるとは限らない。いや、返って悪くなる場合も多々(たた)あるのだ。長閑(のどか)でいい風情(ふぜい)で歩いていた道が車のラッシュで歩きにくくなったり、豊穣(ほうじょう)の実りを見せてくれた田畑が雑草で覆(おお)われたりする時代は、氷が解けて泥水になったような悪い変化だろう。^^
 とある役場の職員の会話である。
「君はいつも早く提出してくれるから助かるよっ!」
「いえ、それほどでも…」
 他の職員に抜きん出て、課長へ決裁書類を早々と提出した職員が、まんざらでもない、したり顔(がお)で、後頭部を掻(か)く。しかし、このしたり顔の変化が悪かった。
「と、言いたいがだっ! よく聞きなさいよっ!! 君の場合は間違いが多過ぎるっ! 結果、決裁がいつも一番、遅くなるのが玉(きず)に瑕(きず)なんだよな、実はこれが…」
「はあ…」
「ははは…だからね。遅くてもいいからコツコツと間違わないようにやりなさい・・ということだ」
「はあ…」
 職員は萎(な)えた蛞蝓(ナメクジ)のような姿で自分のデスクへUターンした。
 このように、変化したからといって、必ず結果が良くなって助かる・・ということではない。大相撲だって堂々と負けていただいて、変化がない方がいい。独り相撲の方には関係ない話だが…。^^

                                


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