読者諸賢、イチババンバンバン!
ハウリンメガネである。
12月8日。
ジョンが逝った日…
この日は毎年Mash氏がジョンの話を
「熱く熱く書く」ことが通例になっていたのだが
「メガネのジョンが読みたい!」という
氏の一方的な希望(笑)により
今回は私に白羽の矢が立ったというわけである。
というわけで
今回は私なりのジョン・レノン論を交えつつ、
彼の盤について語ろう。
以前、ジョージのクラウドナインのレビューでも触れたが、
私がビートルズを意識しだしたのは高校生の頃だ。
だが、ジョンを知ったのはもう少し前で中学生の頃になる。
その頃、「世紀末の詩」というTVドラマ(野島伸司脚本)があり、
そのテーマ曲としてジョンの「Love」と
「Stand by Me」が使われていた。
当時まだハードロックやグランジに熱中していた私だったが、この2曲についてはスッと耳になじみ(ドラマで効果的に使われていたのも大きいが)、街の図書館でジョンのベスト盤(CDだけどね)を借りて、カセットテープにダビングしたのを覚えている。
(確か1年ほど聴いているうちにテープがワカメになってしまい(この例え、今の人に通じるのかね?)、
高校生になってからCDを買い直した覚えがある。
筆者の地元の図書館はなぜかロックに強く、
ニルヴァーナやらガンズやら
とにかく沢山借りたもんだったなぁ...閑話休題)
そんな私も少しずつビートルズ、そして
ジョン、ポール、ジョーズ、リンゴのソロ作品と
順々に聴き込んでいくのだが、
ジョンのソロにだけ強く感じることがある。
それは「ビートルズの不在」だ。
ポールのソロにも、ジョージのソロにもリンゴのソロにも感じない
そんな「ビートルズの不在」を何故かジョンのソロにだけは色濃く感じてしまう。
(無論これはジョンの作品が不出来といっているのではなく、ただただ大きな空白を感じるということなのだけど)
ポールたち3人のソロ作品には
「もうビートルズに縛られなくていいんだ!」という一種のリラックス感すらあるが、
それに対しジョンの初期のソロ作は
「お前らがいなくても俺はやれるんだ!ヨーコだっているし!」
と3人(特にポール)に強がってみせている気配がある。
だが、それはそのまま裏返しに
「僕はもうビートルズには戻れない」という事実を強烈に浮かび上がらせてしまう...
はっきり言って痛々しいのだ。
それが一番顕著なのは「ジョンの魂」だろう。もちろん大好きな盤なのだけど、やはり聴くとそれを強く思う(リンゴだけが参加している分、余計に)。
多分、ビートルズが終わって最も寂しかったのはジョンだ!
そして、その強がりが薄まりだす時期の名盤、
それが今回ご紹介する72年作
「Sometime in New York City」(US org)である。
この盤、世間的にはなかなか評価が辛く
「ヨーコの歌が邪魔!」やら「メッセージが政治的過ぎる!」やら、
まあ、ヨーコ嫌いのビートルマニアや、
ソロ初期の頃のジョンのイメージが好きな人はそう言うかもね。という評価が多い。
確かに筆者もヨーコの歌が全て好きかと訊かれれば答えに窮することもあるし(あの不安定にピッチを揺らす歌い方が苦手なのだ。逆にピッチの安定している時のヨーコさんの歌は嫌いじゃない)
政治的過ぎると言われれば
「そりゃそうだ。だってこの時のジョンはそれがやりたかったんだから!」
と言うしかない。
よって今回注目すべきポイントは政治性、メッセージ性ではない。
重要なのは、この盤、ジョンが「黒い」ということだ...!
ビートルズからソロにいたるまで、ジョンから黒いフィーリングを感じることはまずないと思う。
だが、この盤だけ、なぜか妙にジョンが黒い。
何回も針を落とし、[A-1]Woman is the Nigger of the Worldの冒頭、一音目からむせび泣くサックスを聴いて考えた。
これ、この盤でバックを勤めたエレファンツ・メモリーのノリにジョンが触発されたのではないか?
(エレファンツ・メモリーのメンバーについて少し調べてみたのだが、ほとんど情報がない。
どうやらニューヨークのスタジオバンドだったところをジョンとヨーコが気に入り、参加することになったようだ。
なお、今作の後、チャック・ベリーに気に入られ彼のアルバムにも参加している模様。なるほど、黒いはずである)
黒い音はまだまだ続く。
エレキのスライドが効いた[A-3]Attica Stateや、
途中のピアノソロが思いっきりリトルリチャードしている(笑)[A-5]New York City。
タイトなリズムに乗せてアイルランド問題に端を発する血の日曜日事件を歌った[B-1]Sunday Bloody Sunday
(途中Come Togetherっぽいタメが入るのが心憎い!
この曲、コーラスでのヨーコの歌がグルーヴィーでいい!
なお、U2にも同名の曲があるが、この曲を元ネタにしたとボノが語っている。
ちなみにポールもこの事件を題材にした
「Give Ireland Back to the Irish」というタイトルのシングルを出しているが、これアナログだと入ってるアルバムないのよね。45回転で聴け!
そして個人的にこの盤の白眉は[B-3]John Sinclair!
これ!これよ!
ウッドのドブロと思われるスライドが真っ黒なフィーリングをかもし出す中、一切負けないジョンの歌声!これ、正しくブルースである!
(なお、このスライドをプレイしているのがエレファンツのウェイン 'Tex' ガブリエルなのかジョンなのかは不明。ジョンがこのスライドをプレイしているとしたら彼の隠していた黒さに筆者はもう驚くばかりである)
そしてヨーコのシャウトが炸裂する[B-5]We're All Waterでエンディング!
(この曲でのヨーコさんのシャウトを聴いていると「白木みのるさん」を思い出すのは筆者だけだろうか...ちなみに「白木さん」の歌を聴いた事ない方、ぜひ聴いてみてほしい。あの人、凄まじいシャウターだから)
...とまあ、これだけでも十分お腹いっぱいだが、
まだ、Disc1が終わっただけだ。
そう、本作はスタジオ録音のDisc1と
ライブ録音のDisc2のダブルアルバムなの!
そしてここからがまた凄まじい。
C面(Disc2のA面)は
69年のユニセフチャリティイベントにジョンとヨーコが参加した音源になるのだが、その時のプラスチック・オノ・バンドの面子がとんでもない。
クラプトンとジョージ、ビリー・プレストンにキース・ムーン。クラウス・フォアマンにボビー・キーズ、デラニー&ボニー...と錚々たる面々が顔を揃えている(一部偽名でクレジットされているが、わかる人が見ればバレバレなのが茶目っ気があっていい(笑))。
C面は2曲だけだが、はっきり言って、2曲でも重いくらいだ。
原曲の10倍はヘヴィに黒く仕上がった[C-1]Cold Turkey。この曲のエンディングでジョンが声の続く限りシャウトを繰り返すのだが、まるで曲のタイトルをそのまま表現しているような(Cold Turkeyは隠語でクスリの禁断症状を指す)狂気じみた叫びがブルースを感じさせてくれる。
そしてヨーコといえばこの曲!
といってもいいであろう[C-2]Don't Worry Kyokoではひたすら繰り返されるヨーコの叫び声と、
それに呼応するようにひたすらレスポンスし続けるバンドのサウンドがトランシーな16分間に導いてくれる(おそらくだが、この曲で聴けるシンバルをほとんど使わず、太鼓で押し切る重戦車のようなドラムはキース・ムーンと思われる。ちなみにCold Turkeyのタイトなドラムはおそらくジム・ゴードン。予想でしかないが)。
そして最後のD面(Disc2のB面)では
71年、フィルモアイーストでのザッパ&マザーズとの競演が収録されている。
全曲通してパワフルなジョンの歌声に
[D-2]Jamragで顕著なフリージャズのように変幻自在にリズムを行き来するマザーズの仕上がりっぷり[D-3]Scumbagでのジミヘンが乗り移ったようなザッパのギター。
[D-4]Auでのクレイジーなノイズに最後のジョンとヨーコの挨拶など!
聴きどころは沢山あるし、いいんだけどね...
黒いジョンの魅力がばっちり出たA,B,C面の後に聴くと...ロック過ぎる!つらい…
D面だけは別の作品として聴いた方がいい!
(というか、このD面、ザッパファンにはもちろん、ロック好きにも名高い、ザッパのフィルモアイーストの内、ジョンとヨーコがゲスト参加した箇所だけカットアップしたものなので、まさしく別作品だ)
以上、評価の低さに首をかしげるしかない!
そんな充実のダブルアルバムである。
ここまでに書いてきたとおり、エレファンツの黒さや、プラスチック・オノ・バンドのヘヴィさ、
ザッパ&マザーズのロックネスと盤を引っくり返す都度、様々な要素が現れる本作だが、一貫しているのはジョンの歌の良さだ。
力強いシャウトから柔らかな歌い方まで
ビートルズの時から歌い方のバリエーションの広いジョンだが、その声に感じるのはやはり優しさだ。
何をテーマに歌っても、どれだけ声を枯らしても、ジョンの声はなぜか優しい。
それはジョンが優しい男だったからに他ならない。
寂しがりやのリバプールの優しい不良少年。
きっとそれがジョンの根っこだった。
最後に筆者がイチバン!好きなジョンへのリスペクトソングの一節を引用して今回のレビューを結びたいと思う。
拝啓、ジョン・レノン
あなたがこの世から去りずいぶん経ちますがまだまだ世界は暴力にあふれ、平和ではありません
(真心ブラザーズ「拝啓、ジョン・レノン」より)
ジョンがこの世から去って40年近く。
まだまだ暴力のあふれるこの世界で僕らは何ができるんだろう?
サンキュー!ジョン!
あなたの残してくれた道しるべは今もターンテーブルの上で輝き続けているよ。
以上、ハウリンメガネでした。
追伸
Mash氏が告知してくださったように、
今月は「メガネスペシャル」ということで、
来週も原稿が載る予定だ。
さて、来週は何をやるでしょーか?
ヒント、2018年12月現在来日中の超大物バンド
(ニヤリ(笑))
乞うご期待!
ライブ会場でも当然ハウル!
声を掛けてくれ!