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ハウリンメガネが縦横無尽に吠える「メガネの遠吠え!」(第32回) 『フェルナンデスの倒産』は衝撃なのか?

2024-07-20 10:20:00 | 『ハウリンメガネ』コラム集

ご機嫌よう読者諸賢。ハウリンメガネである。

先日のトランプ前大統領銃撃事件はとんでもないインパクトのニュースだったが、それと時を同じくして、ギター業界でもかなりのインパクトのニュースが全国を駆け巡った。

ご存知であろう。フェルナンデスの倒産である。

私が中学生だった90年代末。

街の楽器店に用もなく立ち寄っては、店内の一番目立つ位置に飾られたギブソンフェンダーUSAを憧れ100%の目で眺め、それらの近くに漂う舶来ギター独特の匂いに「これがアメリカの匂いかぁ」と意味もなく鼻を膨らませていた私だったが、当然それだけでは飽き足らず、店内のギター、ベース、エフェクター、果てはドラムコーナーまで全て舐め回すように見ていた。

そんなあの頃、楽器店に行けば必ず並んでいたのがフェルナンデスの日本人アーティストモデルであった。

時代はビジュアル系全盛期

当時はフェルナンデスESPがビジュアル系アーティストモデルメーカーの二大巨頭として君臨しており、この2メーカーのアーティストモデルだけで楽器店の1コーナーが埋められていたほどであり(正確にはESPは下位ブランドのエドワーズとグラスルーツが多かったが)、その片翼を担う勢いを誇っていたのがフェルナンデスというブランドであった。

元々はフェンダーやギブソンのコピーメーカーとしてグレコやトーカイと並び名を馳せていたフェルナンデスだが、90年代初頭からアーティストモデルのリリースに力を入れ始め、同年代末にはアーティストモデルメーカーとしての立ち位置を確立。象形フォルムのお手軽エレキとして人気を博したZO-3の知名度も相まって、日本でも屈指の人気ギターブランドとしてその地位は揺るぎないものと思われたが……近年の売上不振には勝てなかったようだ。

今回のフェルナンデス倒産にはハウリンメガネもさぞかし驚いたであろう、と思った方もおられるだろう。

確かに驚きはしたが、このニュースを知ったときの私の率直な感想は「とうとう来たか」であった。

楽器業界の内部事情に疎い私だが、そんな私の目から見てもフェルナンデスの凋落は明らかだった。

なにしろ新品のフェルナンデスのギターが楽器屋で売っていないのである。

中古でこそある程度見かけるのだが、新品コーナーを見廻すとヤマハやアイバニーズはあるのに、フェルナンデスのギターもベースも見かけない

音楽雑誌やWebの新製品ニュースを見てもフェルナンデスの名前を見かけなくなって久しい……と思っていたところに届いたのが今回のニュースだったのである。

残念ながらフェルナンデスの倒産は驚くことではない

なぜなら倒産直前のフェルナンデスの製品ラインナップを見ると「これいいな」というギターがないのである。

思うにフェルナンデス最大の問題はアーティストモデルZO-3以外の魅力的な製品をリリースできなかったことにある。

アーティストモデルというのはある意味でファンアイテムに等しく、よほど楽器としての普遍性を担保していない限り、ファン以外のプレイヤーが手に取ることは無きに等しい(ユーザーの多いクラプトンストラトはアーティストモデルという以前にストラトという普遍的なギターだし、エドワード・ヴァン・ヘイレンモデルとして売り出されたミュージックマンのアクシス[及び後継機であるピーヴィーのヴォルフガング]はその使い勝手の良さからハードロックギタリストのニュースタンダードとして今でも販売されているが、こういった例は稀有なケースである。そう考えるとレスポールはレス・ポール氏のシグネチャーとして作られたのに完全なスタンダードとなっているのだからすごい話だなぁ)。

手に取るプレイヤーが少ないということは販売本数が少ないということ。つまり、楽器メーカーが商売を継続するには普遍的な製品が必要なのである(その意味でZO-3は大変普遍的な製品だと思うが、やはりお手軽ギターというのがネックであったのか……)

ヤマハやアイバニーズは楽器メーカーとして常に新製品をリリースし続けているし、その中から新たな売れ線モデルも生まれているが、残念ながらフェルナンデスはそれを成せない状態が継続。ついに倒産に至った、というのが今回の話であろう。

 ……モノ自体はね、悪くないんだ。本当に。

だって私も一本手放さずに持っている(笑)!

90年代以降のフリップ先生がフェルナンデス製のレスポールタイプ(サスティナー付きの先生用ワンオフモデル。ちなみにサスティナーもフェルナンデスがリリースした製品)をメインに使っていたのを知ってから「サスティナー付きのレスポールタイプでいい感じのやつがあったら欲しいなぁ」と思い続けてウン年。

ある日デ○マートをぽけっと眺めていたところで目に入ったのが冒頭写真のバーニーフェルナンデスがギブソン系のモデルを作る際の別ブランド)製レスポールタイプ、RLC-105X

X JapanのPata氏モデルらしいのだが、私としてみれば「サスティナー付きの上に初期フリップ先生のレスポールカスタム的ルックス(先生ご自身のフェルナンデスはゴールドトップ)!これは……素敵!」と、近畿圏内の楽器店の商品だったこともあり、えっちらおっちら電車を乗り継ぎわざわざ試奏しに行ったのである。

で、弾いてみたところびっくりするほど素直なサウンド。

ピックアップの出力が高すぎるということもないし、サスティナードライバー兼用のせいで音が悪いと言われがちなフロントも、いやいや、言うほど悪いか?というレベルで十分使える(確かにレスポールのフロントらしい太い音ではないけれど)

そしてなによりサスティナーが面白い。電力による磁力駆動で実際に弦が振動して延々と音が伸びる様はフィードバックで音を伸ばす感覚に近く、これがクリーントーンで小音量でもできるというのはかなりの新感覚(なにせクリーントーンでサスティンを伸ばしたままボリューム奏法ができてしまうのだ)

ギターとしても作りが丁寧で弾きやすいし、ゴトー製のペグはいい具合のトルクで正確に回るし、と、「おお、90年代の日本製ギターもやるやつはやるもんだねぇ」と即決で購入(そのせいでしばらくもやしが主食になったが……)

サスティナー回路がアウトプットを通るため、サスティナーを使わなくても電池がヘタると音がヘタれるのが難点だが、それを補って中々捨てがたいマイギアなのです(こういういい具合のギターを粛々とリリースしていれば倒産せずに済んだのかしら)

しかしこれ、サスティナーが壊れたらどうすりゃいいんだろうか

フェルナンデスが製造販売している部品なのだから、それが倒産したということは供給もできなくなるわけで……困ったなぁ。どこかライセンス買い取って生産してくれんかしら(メーカーが倒産するというのはこういう事態につながってしまうのである)

色々と思うところはあるが、今回のフェルナンデスの倒産は決して特異な事ではない。

ただでさえ格差が拡がり、民間の可処分所得が減り続けている(=楽器を買う人口も減少する)上に海外からのコストプッシュインフレによって必要経費が暴騰している今の日本で楽器メーカー、楽器店という事業を維持するのは決して楽なことではないはずなのだ (この辺りは「編集長」に書いて頂きたいものだが・・・)

せめて自分のできる範囲で好きなメーカーや楽器店を買い支えようと努力はしているが……厳しいなぁ!

今の日本は需要過多によるインフレではなく、外貨の高騰によるコストプッシュインフレ(正確にはスタグフレーションか)なのだから、政府が緊縮財政を継続している限り、民間の事業は厳しくなるばかりだろう(楽器業界に限った話ではなく)

楽器業界を潰さない為にも今こそ政府は積極財政に舵を切るべきである、と断言したところで今回はここまで!

また次回!

<ハウリンメガネ筆>

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