将軍の大奥泊まりが今宵復活する
御寝所に将軍を迎えるのだ
そのお側に召されるのは
かつては伊勢慶光院の尼君
お万であった
■お万は部屋でまず入浴をする
お湯係の女中が受け持つ
★洗顔用として絹糠袋に糠とふるいにかけた鶯の糞を混ぜてある
★上半身用糠
★下半身用糠
■化粧からお寝間着まで藤尾が受け持つ
★寝間着は白一色、白はこの人の美しさをひきたてる
★帯は緋縮緬で石竹色
★仕上げは香をお寝間着に焚きこめる。爪の切り屑ほどの蘭奢待の小片を香炉にくゆらすと、ほのかにゆらゆら立ち上る薫は、媚薬のように人を酔わす。髪に襟に袂に香炉を藤尾がかざしてその香を移す
■お万は部屋を出た
介添の藤尾が片手にボンボリ
お供の女中二人も左右からボンボリで足もとを照らした
こうなったら、一日も早くお世嗣の生母になってほしい。4代将軍の母君に
■将軍と寝所
宿直の御年寄とお客あしらいが将軍の話し相手をする
午後10時、将軍は寝所に立ち、宿直の中臈2人が将軍の寝衣に着替える手伝いをする
寝間16畳いっぱいに蚊帳が高々とつられる
夏布団は裏は白
枕元には世継ぎ生誕のおまじないの犬張子の紙入れ、オシドリを描いた蒔絵の乱れ箱が置かれる
乱れ箱は女性の長い髪が枕から流れ乱れるのを受け止めるためのものである
■二の間→下段の間→寝所
お万は御寝所に続く二の間につく
二の間にはお万の部屋から届けられた明朝の着替えや化粧品一色が揃えられてある
ここで足袋を脱ぎ、お寝間のすそを長く引き帯を直す
二の間を進むと下段の間
下段の間と寝所の間の襖は開けておき、寝所への明かりをとる行灯が置かれれる
藤尾が将軍のいる蚊帳のすそをあげて、お万を入らせる
お万が蚊帳へ入ると藤尾はさっと身をひるがえし下段の間を抜け出て「おしずまりませ」と挨拶し襖を閉める
次の間で藤尾と御年寄・初島は御寝所の御番の一夜を明かす。これも大事な職務なのだ
■将軍とお万二人きり
お万は将軍と二人きり
お万は見事に将軍の心を射止める言葉をつぶやき、時には涙をこぼし
家光を骨抜きにさせた
家光の今まで接したお振もお琴も性の奴隷として仕えるのみで心がどこにあるかわからぬ女たちだった
今こそ初めて打てば響く魂のある女性を得たのだ
家光は陶酔して我を忘れた