■春日局は一つの仕事に取りかかった。それはお万に似た町娘を見つけ大奥へ入れる準備をすることだった
お蘭(19歳)
大奥へ入ってからは
春日局の部屋で行儀作法を見習わせ、御三の間に勤めさせ、やがて中臈に進ませ、将軍の側室にさせる計画だ
■9月9日
易の陽数が重なる重陽
菊の節句を祝う
大奥でも将軍は普段使わない広間に出て、お目見え以上の女中全部に将軍から丸餅と菊花1枚を添えて賜り、将軍は春日局の献ずる盃に菊の一片を浮かべた菊酒を召し上がった後、女中一同にも酒・肴を下さる
この日のために高級奥女中は、おかいどり(多分ドラマでよく見る色鮮やかな上着着物みたいなやつ)を新調する
■席順
★将軍→上段
★春日局→下段右
★御年寄以下→春日局に間をおいて左右
★お万→下段左(春日局と相対)
↓
おかいどり模様はどの雛型見本にもない意匠
※白綸子(絹織物)
※右前すそから袖へ
肩から背へ
大きく区切って紫紺地の匹田絞
※匹田絞りの中に直径一尺の大輪の白菊黄菊の花弁が四方に走り巻くのが背から片袖へと、裾の前後に三輪ずつ染めぬかれてある
※斜め半身は地白のまま
■春日局、呉服頭のお奈美を呼ぶ
大奥のデザイナーでもある
春日局
「今日のお万のおかいどりは、おいくら?それと絞り模様はあなたの考えか?」
お奈美
「藤尾殿が御自分の給料もみなお万の方さまにつぎこんでいた程の金額です。絞り模様はお万の方さまの御指定です。御用達呉服商人も感服しておりました」
春日局
「今後は絞職人の手間のかかる匹田絞は禁止にします。それと近くこの部屋にお蘭と申す女中が来て御三の間に出仕するが、御三の間の儀式にはおかいどり着用につき、費用をかけず、見事に人目を引く美しいものを仕立てるよう願います」
無理難題
お万が美しく見えるのは衣装のみならず、それを着る中身の麗質なのに、それに気づかない嫉妬に燃える春日局であった
■お万の逆襲
お万が藤尾に言う
「菊の祝いの席の春日局は御機嫌が良くないように見えたが、このおかいどりのことだろう。もうこれは脱ぐので藤尾の古いのを着ます。上様に何か言われたら『春日局のご機嫌を損ねないための用心です』と申し上げますわ。。冗談ですよホホホ」
翌朝、御仏間礼拝に将軍を迎える時、お万は藤尾のおかいどりを借りて着ていた
将軍は「昨日の菊の模様をなぜ着ないのか?」と聞かれ、お万は答えた
「匹田絞は大奥の御法度とは知らず、過ちを犯しましたので申し訳なく、今日は藤尾のを借りました」
春日局はあわてふためいて「お万の方さまが知らないゆえの過ちを誰がとがめましょう。御遠慮なくお召し遊ばせ」
将軍は春日局の仕業と解ったのか「その通りじゃ、春日局の親切に申す通り遠慮はするな」
お万は見事に疋田絞戦の勝利者となった