■まずお万の方は藤尾の意見を引き出すために言う
「私、大奥へ入る前に上様のことを知って心を定めたいの、、
上様はどのような気性の方?私は天下思うままになされるような強い気質と察しますが、、」
藤尾は習慣的にありふれた家光賛美論を語るが、お万の方は藤尾の言葉尻をとらえて質問の矢を放つ
藤尾は一語一句注意して家光賛美論の証明をしなければならなくなる
情報収集した家光人間像の結論としては「大きなお坊ちゃん将軍」だった
■次は家光の趣味が知りたい
「上様の趣味は?」
蛍や金魚。絵画か、、
家光についての知識を断片的にもこれだけ得れば、あとはお万の方自身がやがて家光の全貌を把握するだけだ
それからは徳川家の性格を知るため春日局に勧められた本を読み始めた「三河物語」である
■お万の方大奥へ入る日のこと
大安吉日
江戸城の日常では、将軍は9時に大奥にわたり、父母の位牌所の仏間に拝礼する。御台所不在の大奥では春日局を相手に雑談。しかし今は春日局も旅の留守なのでそのまま将軍は戻って行く
今日はお万の方を初めて大奥に迎える特別な日であり、かつ、将軍がお万の方に対面するする特別な日である
■昔はもう引き返すすべのない道ばかりだった、、
けれども慶光院は思う
「引き返すすべがない道ならば、女のこの宿命を生かしきる!過去は紫衣と共に脱ぎ捨てました。剃っていた髪は長くなりました。大奥という与えられたわが運命を強く強く生かしたい」、、彼女は自らに誓願した
大奥六千三百余坪
二百数十人が
異常な思いで
慶光院を待っていた
伊勢の美しい聖女慶光院までもが、上様の側室として還俗するしかなかった宿命の「お万の方」を待っていた
権力には仏に仕える尼僧でさえもあがなえないことの真実を見て、わが運命を納得させたかったのである