お万は将軍の寵愛をよそに「おしとねすべり」を決意した。それは側室の定年制度で30歳が定年。お万はまだ20歳そこそこ
「寵愛は寝間とは限らない。心ばえを愛されたい」とお万は願った
お万は二人に和歌や古典の手ほどきをしたり、呉服の間にさまざまな注文をした
お万の父が突然亡くなった。お万は喪中にあたり大奥に出勤停止し部屋に引きこもった
お万はこの喪中期間に、将軍にお玉を献上した。お玉は将軍の寝間に召された。お万の喪が明けてもお万は1年の喪に服すことを将軍に願い、許された。お玉は引き続き将軍に召されることになった。そしてお玉は懐妊した
ある日お万は将軍に告げた
「大奥取締の仕事を今以上に心をこめて勤めたく、ただひたすら大奥取締の仕事に従いたく、、上様、なにとぞお許し下さいませ、、」
つまり将軍側室の退職を願い、大奥取締の仕事だけに専念したいと申し出たのだ
家光、おおいに不機嫌に言い放つ
「私が嫌いか?」
お万は笑って
「何を面白いことを言われます?」
家光は嫌われてはいないと安心し
心なだめられた
そして、語る
「私の母もあなたのように美しかった。幼い私は母に愛されたかったが、母の愛は弟国松に傾いた。私は母の愛を一身に受けた弟が憎かった。妬まれるより妬む方が悲惨で、母に愛されなかった痛手は今も残っている。私がこの年齢になっても未だに望むのは、母の愛を受けて育ちたかった、、ということだ。孤独だったんだよ、、だから、、
あなたの願いを私は聞き入れる
あなたの願いを退けてあなたの心を失うのが恐い
あなたの心は私の側から生涯離さない。それでいいか?」
この瞬間お万の内部に家光という男性が、ハッキリと王座を占めて定着した。母性愛。将軍の子を生めないお万だけれども母になった
数日後、家光は鷹狩に出た。昼過ぎに天候は急変。大雷雨にひょうが混じる。家光が帰城したのは夜も深まってからだ。中奥の休息場にはただ一人家光の帰りを待つお万の姿があった。彼女は家光を見た瞬間安堵の顔で涙ぐんだ。家光は、、若く美しい母を感じた
お万は自分で築いた狭き門をくぐり得たのである