後白河院御所の庭に押し掛けた文覚は、寄付を募るために演説をしていた。その頃、後白河法皇の部屋では琵琶や琴が演奏され、歌い、華やかな宴会が催されていた。法皇も声を合わせて歌っておられる
そこへ文覚の大音声が飛び込んで来て、調子が狂い、拍子も乱れてしまい、怒った若い者が走り出て、文覚に「立ち去れ!」と言った
文覚は「神護寺に荘園を一ヵ所寄付してくださらぬうちは、文覚はけっして出るものか」と言って動かない。そこで若者が文覚の首を突こうとしたところ、文覚は左手に勧進帳、右手に刀を抜いて走り回った。御所の騒動は並大抵ではなかった
安藤右宗が太刀を抜いて走り出た。文覚は張り切ってかかって行く。両人とも互いに劣らぬ力だったが、院中の者が文覚を打ち据え、門外へ引き出し、下役に引き渡した
文覚は御所の方を睨み付け、大声で
「寄付をなさらないのはともかく、これほど文覚をひどい目に合わせたからには、今に思い知らせてあげますぞ。三界は皆火宅。王宮であっても、滅亡の難は免れることはできない。帝位にあって誇っていても、冥土の旅に出てしまった後は、地獄の鬼どもが責め立てる。この事から逃れる事はできない!」
と、申した
文覚はそのまま獄へ入れられた
間もなく美福門院が亡くなり、大赦があったので文覚は赦され、また勧進帳を捧げて寄付に回ったが、文覚は「ああ、世の中は今すぐ乱れて、帝も大臣も、皆滅びてしまうだろう」などと、恐ろしいことばかり言って回るので、とうとう伊豆国へ流されてしまった