白井健康元気村

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音楽祭に参加して    岩崎邦子の「日々悠々」⑨

2018-11-15 09:16:29 | 【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」

【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」⑨

音楽祭に参加して    

 

 

「の~お~に~」

   初めからこうだと、えっ、えっ、いったい何のこと、と思われるに違いない。

   私が所属している「むつみ会コーラス部」(混声合唱)では、最初に発声練習から始まる。指導をしていただいているソプラノ歌手の花ケ崎純子先生が実践されている方法を伝授されているのだ。一連の練習を文字にすると難しいのだが、声を響かせて発声させるためのルーティンの一つである。

 ピアノの音程を聞きながら、まるでスムージーをすするときのように、口の中を丸くしながら息を吸い込んで、頭のてっぺんのほうに引っ張るように声を出す。これらの動作を具体的に順にうまく書けないのがもどかしい。

   コーラスの練習は月3回だが、この発声練習は毎回ある。それから歌の練習に励むことになっているのだ。曲目選びに関しては、花ケ崎先生とコーラス部長の松山千晶さんに大半が任されている。松山さんの配慮なのだろう、誰の心にもすんなりと入るように、難解な曲は選ばない。松山さんは会員の中で一番の若手だが、みんなのリーダー格なので、何かと気苦労をされているにことだろう。ただただ敬服するのみである。

   初めての曲を練習するときには、私なりの作業がある。楽譜を最初に手にするとき、歌詞は平仮名(ひらがな)表記なので、詩の意味が分かりづらい。そこで、歌詞の意味が分かるように、五線紙の上の段に漢字に直して書く。練習で歌っているときに先生から受ける声の強弱や感情の入れ方の注意点なども楽譜に書き込む。

   家に帰ってからも、自分なりに順番を覚えやすくするため、マーカーで色分けをする作業が待つ。家事をしながら、レコーダーに収めてきた歌を聴いたり、歌ったり。そんなことを繰り返すことで、楽譜を見なくても歌詞を覚えることができるのだが、あれこれと出かける用事が重なったりすると、理想通りにはいかないものだ。

   ともあれ、人様の前で歌う機会に備えなければならない。コーラス部の活躍の場はむつみ会の特別月や病院などに呼ばれて歌うこともあるが、一番は音楽祭の舞台に立って歌うことである。

   11月1日から25日にかけて第62回「しろい市民文化祭」が主に白井市文化センターで開かれた。同文化祭には、写真展、陶芸展、絵画展、盆栽・山野草展、菊花展、華道展、書道展といった「展示部門」と芸能祭、ダンスフェスティバル、市民音楽祭の「ステージ部門」がある。もちろん、私たちコーラス部が出場したのは、今年で第32回目を迎える市民音楽祭(10日、11日)で、11日の午後の部に参加となった。当日は秋晴れの素晴らしい日である。

   午前10時に音楽祭が開演した。開会の挨拶をしたのは、この音楽祭の世話役のひとりで、白井健康元気村の「村民」でもある平田新子さんだ。じつに頼もしい女性である。ところで、地方都市としては大きくはない白井市だが、全国に誇る施設が文化会館大ホールである。その音響効果が何とも素晴らしい。プロの音楽家たちも驚くほどで、大ホールで歌った有名歌手たちの評判も良い。

   音楽祭に参加したのは、小・中学生、高校生、成人で構成されている合唱団やオーケストラなど幅広い。小学生の筝曲クラブや吹奏楽部、高校生の合唱部、成人の混声合唱団、人気のジャズ演奏などもあった。もっとも参加が多かったのが、女性の合唱団である。そんな中でとくに印象的だったのが、「伝統文化交流会」と銘打ったグループで、「花さき山」がテーマだった。琴の演奏と合唱と少しおどろおどろとした声音での語りで舞台が進む。

   いや面白い。懐かしい。私は思わず拍手してしまった。というのは、絵本「花さき山」(斎藤隆介・作、滝平二郎・絵)を、子供がまだ幼かった頃に一緒に見たからだ。滝平氏の特徴ある絵を昨日のように鮮明に思い出したものである。

 物語はこうだ。山菜を採りに行った「あや」という女の子が山姥(やまんば)に出会う。山姥は「何かひとついいことやさしいことをすると、必ず美しい花が一輪咲く。そんなお山があるんだよ」と少女に語りかける。この舞台では原作を少しアレンジしたようだ。

   さて私が所属している「むつみ会コーラス部」の出番は、午後の部の三番手である。発表曲は「切手のないおくりもの」「この星に生まれて」「学生時代」「あすという日が」「今日の日はさようなら」の5曲。本番の少し前にリハーサル室で練習した。

   いつものように発声練習から始まり、何度も歌ってきた歌の最終確認をしていただいた。花ケ崎先生からの注意点として、顔はにこやかにすることで好印象となることも話された。楽譜を見る場合には、首っ引きにならないことが大事であることも。私自身、緊張のせいもあるが、覚えたはずの歌詞が出てこないことがある。でも、楽譜を手にすると安心だ。

   本番が始まった。先生の指揮を見逃さないように必死である。強く歌うところ・弱く歌うところ・気持ちを込めるところ・声を伸ばすところが異なるからだ。無事に本番を歌い終えて楽屋に戻ると、舞台のスタッフの人たちが「良かったよ~」と、拍手をしてくださった。儀礼であったとしても気分は良い。

 4、5年前、私がはじめて音楽祭に参加したときに花ケ崎先生から感想を聞かれ、「楽しかったです」と答え、「それで良いのよ」と言われたことを思い出す。今回はみんなに向かって「十分発揮出来ましたか?」だった。「自分としては満足です」と答えたが、先生の笑顔は正解だったのだろうか。

   先日、体操教室で顔見知りの二人と出会った。

「あなた、むつみ会のコーラスで歌っていたでしょ?」

「あ、はい」

「すごく良かったわよ~」

 そう褒められると、お世辞でも嬉しい。でも、お世辞ではないわよね。やはり「の~お~に~」という発声練習の成果があったかも。の~お~に~。

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