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噛んで延ばそう健康寿命(下) 【短期集中連載】

2020-01-20 05:30:00 | 【短期集中連載】噛んで延ばそう健康寿命

【短期集中連載】

噛んで延ばそう健康寿命(下)

油井香代子 (医療ジャーナリスト)   

 

【油井香代子(ゆい・かよこ)さんのプロフィール】長野県生まれ。信州大学人文学部卒業後、明治大学大学院修士課程修了。医療・健康・女性問題について新聞や雑誌などに執筆する。また、テレビやラジオなどで医療問題を中心にコメントや解説も。2007年よりイー・ウーマン「働く人の円卓会議」議長。最近は、高齢社会の医療をテーマに寄稿、講演活動も行う。著書に「医療過誤で死ぬな」(小学館)、「あなたの歯医者さんは大丈夫か」(双葉社)など多数。

 

歯周病は大病のもと

 健康寿命は口内の健康状態に影響され、中でも歯を失う最大原因である歯周病は、さまざまな病気と深い関係があるとされる。
「米国では1990年代から、歯周病が心臓病、糖尿病を悪化させて動脈硬化や早産の原因になる研究が数多く報告され、1998年には口腔内を清潔にし歯周病予防する啓発活動が行われました」
 米国の歯科医療に詳しい河津寛・河津歯科医院院長(東京・新宿区)が説明する。キャンペーン標語は「フロス・オア・ダイ」。「フロスで口腔ケアをして歯周病予防をしよう、しないで歯周病になれば病気で早死にしますよ」との意味で、歯科医師や学会が率先して歯周病の怖さを訴えたという。
 日本では一部の歯科医師の間で知られていたが、医療現場で認知され始めたのはここ数年のことだ。米国の歯科クリニックで勤務経験があり、日米の歯科衛生士資格を持つ村上歯科医院(東京・日野市)の村上恵子さんは、「日本でも全身疾患と歯周病の関係が、歯科だけでなく医科でも知られるようになりました。実際、心臓病手術やがん治療の前に、虫歯や歯周病治療、口腔ケアをするよう医師に指示され来診する患者さんが増えてきました」と話す。
 抗がん剤治療では口内炎が起こりやすいが、事前に歯周病を治療し、プロによる口腔ケアで口内や舌を清掃すると、口内炎を減らし、起きても軽くて済むという。
 糖尿病患者が歯周病治療をして、血糖値が改善した報告例も多い。口の健康はさまざまな病気の治療成績を上げる可能性もある。予備軍も含めると成人の7~8割が罹患しているとされる歯周病の予防と治療が、健康への近道ともいえる。

食べる力を取り戻す

 これまで口から食べることが健康寿命に大きく影響する例を紹介してきたが、それを支えるのが「食べる機能を回復する治療」だ。その一つに摂食機能療法がある。一般にはなじみがないが、保険診療で行え、脳卒中などの後遺症で食べることが困難な人やのみ込む能力が低下した一部の人などが対象となる。保険点数は1回30分以上で185点(1850円)、自己負担が1割の高齢者だと、185円と驚くほど低額だ。
 この治療法の草分けの一人で日本摂食嚥下リハビリテーション学会理事長の植田耕一郎・日本大学歯学部教授は「脳卒中の後遺症で、唇や頬、舌などのマヒがあり食べることができない人、噛めても呑み込めない人などがこの療法で回復した例も多い。超高齢社会では、機能を回復するリハビリテーション医療、中でも食べる機能を回復する摂食嚥下リハビリの重要性が増しています」と話す。
この療法で口から食べられるようになり胃ろうの必要が無くなった人や体力が回復し歩けるようになったなど数多くの症例が報告されている。医師、歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士、理学療法士など複数の医療職が関わるが、専門家が少なく、医療関係者にも知識が浸透していないのが実情だ。
「食べる力が衰えると、体力や免疫力が低下します。人工栄養や流動食で数値的にカロリーが足りていても低栄養状態に陥ることが多いが、普通食を摂取している人には低栄養状態の人は少ない。食べるための口の機能を維持することは介護予防にもつながるのです」
 医療現場に普及すれば、現在の高齢者医療や介護の形も、より人間性に配慮したものに変わるはずだと植田理事長はいう。摂食機能療法は、人間の基本である食べる力を取り戻し、生活の質を上げる医療でもある。

「フレイル」早期発見を

 摂食機能療法は、健康寿命を伸ばす医療、機能を回復する医療として注目されている。超高齢社会となった今、求められる医療も変わりつつある。予防医療や介護予防が重視されるのも、社会の変化に沿ったものといえよう。
 最近、老年医学では「フレイル」という言葉がよく使われるようになった。年をとることで記憶力や体力、運動能力など生活全般の能力が低下し、病気や要介護になりやすい状態をいう。
 老年医学を専門とする東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授は「フレイルとは簡単に言えば健康と要介護の中間の状態です。フレイルを早期に発見し、介護状態になる手前で本人が気づき、医療の専門職が関わることで、要介護の予防ができ、健康寿命を延ばすことができます」と話す。
 厚生労働省による要介護認定者は、約630万6000人(2016年11月末現在)。2025年には700万人という試算もあり、増加の一途をたどっている。フレイルのうちに手を打てば、要介護が予防でき、増加を食い止められるという。
「歯や口のフレイル予防が重要です。歯の喪失などで食べる力が弱まれば栄養不足を招き、筋肉の衰えや体力低下につながり、転倒や歩行困難を起こしやすくなります」と飯島教授。そのままでは要介護状態に進むリスクが高まるため、合う義歯を入れたり歯周病治療をしたりと、噛めるようにする治療を行う。
 厚生労働
科学研究班の調査では、歯が19本以下で入れ歯も使わない高齢者は、歯が20本以上ある人に比べ、転倒するリスクが2.5倍になるという。要介護のきっかけとなる転倒やフレイル予防には、歯や口の健康が欠かせないことがわかる。

フレイル予防 柏市の実践健

 健康と要介護の中間の状態である「フレイル」の予防が要介護を予防し、健康寿命を延ばすことを紹介したが、それを実践しているのが千葉県柏市の「柏フレイル予防プロジェクト2025」だ。東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授らによる大規模調査「栄養とからだの健康増進調査」(柏スタディー)がきっかけとなった。食・口腔・運動・社会参加を柱にした活動で、調査で「食、口腔・運動・社会参加」が、高齢者の健康維持に不可欠だと分かり、飯島教授が中心となって、行政と協力してプロジェクトを立ち上げた。
 活動を支えるのは、市民の「フレイル予防サポーター」と呼ばれる60名ほどの元気な高齢者たちだ。市内各地にある地域サロンを主な活動拠点として、フレイルのチェックや予防知識などを、多くの市民に伝えている。「しっかり噛んで食べるという当たり前のことがフレイル予防になることを、まず一人ひとりに意識してもらうことが大切です。この健康増進活動を実のあるものにするためには、サポーター市民の力が、欠かせません」と飯島教授は言う。
 特徴的なのは、退職した男性が積極的に参加していること。退職後、地域と関わりを持たず引きこもりがちになる男性は多いが、ここでは新しい生きがいを見つけ、活動を盛り上げているそうだ。
「歯や口の働きが衰えると栄養不足や筋力低下だけではなく、滑舌が悪くなり、話しづらくなって人との会話を避けがちになり、外出も減ってくる。それが社会性のフレイルにつながります。噛む力の低下を早期発見して早期治療で回復すれば、社会性フレイルの予防になります」
 掛け声だけでは、効果は上がらない。柏市のプロジェクトのように市民が進んで参加する活動の広がりが、健康寿命を延ばす近道ではないだろうか。<終わり>

 

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●噛んで延ばそう健康寿命(中)【短期集中連載】
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