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足元にアル中がごろり  【連載】呑んで喰って、また呑んで⑧

2019-08-21 12:47:31 | 【連載】呑んで喰って、また呑んで

【連載】呑んで喰って、また呑んで⑧

足元にアル中がごろり

●ロシア・モスクワ

山本徳造 (本ブログ編集人)  

 

   モスクワのヤロスラヴリ駅のホームに降りると、すさまじい熱気が体を包み込む。昼過ぎである。湿気も半端ではない。この年のロシアは異常な猛暑に襲われ、各地で山火事が発生していたのである。モスクワも例外ではなかった。

 ヤロスラヴリ駅から予約していたホテルに行くため、地下鉄の駅に向かう。エスカレーターで地下鉄の駅まで下がっていくのだが、とんでもなく深い。核戦争に備えたシェルターの役割もあるからだ。
「いやあ、暑いな。めまいがして倒れそうや」
 と言って、M君が雑巾のようなハンカチで顔の汗をぬぐった。
「うん、サウナみたいやな。早くホテルに着いて冷たいビールでも呑みたいなあ」
 やっとの思いでホテルにチェックインし、冷たいシャワーを浴びる。
「さっ、ビール、呑みに行こか。もう辛抱たまらんわ」
 日頃はおっとりしているM君が、珍しく私をせかす。
「そういえば、このホテルの前に、鶏の丸焼きがぶら下がってる店があったな。昼間からみんな呑んどったで」
「おー、どこでもええわ。早く行こう」
 ホテルの目の前にその店があった。鶏の丸焼きが香ばしい匂いを立てている。どうやら鶏料理の専門店のようだ。店内は10畳ほどで狭い。丸テーブルが3卓ほどあるが、客のほとんどが外のテーブルで、それも椅子に座らず、立って呑んでいた。みんな赤ら顔である。
 とりあえず店のおばさんに鶏の丸焼きを一つ注文した。おばさんは濃い顔である。いくつかの言語を動員して根掘り葉掘り聞くと、チェチェン人だというではないか。そうか、ロシアと言っても広い。ここモスクワでもロシア人以外の民族がひしめいているようだ。
 他の客がビールを冷蔵庫から勝手に出しているので、私たちもそれに倣う。ビール瓶をそれぞれ1本ずつ持って外のテーブルに移動した。モスクワで最初の乾杯をしよう。モスクワに乾杯! 
「うっまーい!」
 二人が同時に同じ言葉を発した。
 鶏を手づかみでかぶりつきながらビールをあおっていると、足に何かがぶつかっているような感触がした。餌を求めて野良犬がテーブルの下にもぐりこんだのか。噛まれて狂犬病にでもかかったら困る。そう思って下を見ると、野良犬ではなかった。まずは一安心だ。私の足にぶつかったのは、人間の腕だった。酔っ払いが倒れていたというわけである。
「後ろにもオッサンが寝とるで」
 無精ひげを生やした50代と思われる男が、よだれを垂らしながら転がっていた。ロシア人にはアル中が多いと聞くが、こうして目の当たりにすると、叩き起こして説教したくなる。M君と私のようにもっと上品に呑めないものか。で、上品に呑み続けていると、いつの間にか陽が落ちていた。2、3軒ハシゴしたようだ。どこで何を食べたのかまるっきり覚えていない。ホテルの近くに酒を売っている店があったので、ウォトカ2本を買ってホテルへ戻る。部屋でウォトカを上品に呑む。1時間もしないうちに瓶が空になった。

「お~い、も、もう酒がないぞ~」
 M君が空の瓶を振った。
「ういっ、困ったな」
 上品に呑んでいた二人だったが、いつしか呂律が回らない。時計を見ると、まだ午後9時ちょっと過ぎである。寝るには早すぎる。そんなわけで、さきほどの店に買いに走った。というか、千鳥足である。強盗に襲われなくてよかった。金持ちと思われなかったのか、それともアル中のホームレスと思われたのか。部屋に戻った二人は、上品な会話を交わしながら、ウォトカに品よく酔いしれた。ああ、しんど。


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