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ピガールで決死の「脱出劇」 【連載】呑んで喰って、また呑んで㉗

2020-01-08 12:40:01 | 【連載】呑んで喰って、また呑んで

【連載】呑んで喰って、また呑んで㉗

ピガールで決死の「脱出劇」

●フランス・パリ

山本徳造 (本ブログ編集人) 

 

 

 ああ、今日も冷える。そんなとき熱燗とか焼酎のお湯割りなんか呑むのは、いかにも年寄り臭い。寒い夜こそ、キンキンに冷やしたスパークリング・ワインだ。自宅でチビリチビリとスパークリング・ワインを呑みながら、カルロス・ゴーンの日本脱出関連のニュースをテレビで観ていると、あのパリでの出来事、いや悪夢を思い出さずにはいられない。

 あれはフランスに20何年ぶりという大寒波が襲来したときである。私は翌日、シンガポールに飛び立つ予定だった。しかし、まだ午後8時を回ったばかり。ホテルのベッドに入るにはまだ早い。さ、軽く呑みに出かけようか。
 寒いけど、そこは男だ。我慢しよう。きっといいことがあるだろう。そう期待に胸を膨らませて、サンジェルマンデュプレの宿を出た。メトロに乗り、パリの歌舞伎町ともいうべきピガールへ。
 雪が降りしきる中、「面白い店はないか」とピガールの通りをブラリブラリしていると、呼び込みの兄さんに声をかけられた。
「お金がないから、ビール1本しか飲まないよ」
 そう言うと、
「大丈夫。この店、安い、安い」
 と、私の腕をつかんで店内に誘い込む。
 店内へ入ると、だだっ広い店内には、なんと大きなステージが。キャバレーだと分かった。見渡すと、テーブル席が20卓ほどあっただろうか。しかし、客は私ひとりだけである。まだ9時前だから客が入ってないのだろう。そう自分を安心させた。
 一番奥のテーブル席に案内されたのだが、いつの間にか年増のホステス4、5人に囲まれることに。皆さん、美人とは言い難い女性ばかり。共通点はそれだけではない。揃いも揃って「下品」な表情である。で、「さ、座って!」とばかりに、私を無理やり座らせるではないか。
 しまった! 入るんじゃなかった。「いいこと」どころか、最悪の事態が。彼女たちが勝手にシャンパンの栓をポン。もうひとりが別のボトルをポン!
 いかん! 私のような善良かつ裕福そうなジャポネをカモにしようとしているのは明らかだ。そう、「ぼったくりキャバレー」である。こうなったら、もう逃げるしかない。まずはシャンパンを数杯飲み干してからだ。それからでも遅くはないだろう。第一勿体ないではないか。

   案の定、客は誰も入ってこない。ステージでショーが始まる気配もない。やっぱり悪質な「ぼったくりキャバレー」に違いない。安物のシャンパンを数杯呑んでから、脱出のチャンスをうかがう。シャンパングラスを片手に持ちながら、立ち上がった。
「あんた、どこに行くのよ!」
 ホステスの一人が大声で引き留めた。
「トイレだよ、トイレ」
 そう言って私はシャンパングラスをテーブルに置くがいなや、脱兎のごとく入ってきたドアに向けて突進。そのとき、若いバーテンがバー・カウンターを乗り越える姿が、私の視界に入る。私を捕まえるためだ。
 ドア・ノブに手をかけたのと同時に、背後から羽交い締めにされた。
「シャンパン、シャンパン」
 とバーテンが叫ぶ。
 私はドアを必死で開け、そのバーテンを引きずりながら路上に。こんどは両手で首を絞めてくるではないか。なんてしつこい男なのだ、まったく。首を絞められているので、息が苦しくなる。このままいかん。少し姿勢を変えて、その男の脇腹を肘でドっと突く。男の手の力がちょっとばかり緩んだので、体をするりと回転させて、脳天に空手チョップをお見舞いた。
 バーテンが仰向けにひっくり返る。ふん、弱い男だ。念のために腹部に蹴り数発入れてやると、バーテンがぐったりしたので、私は風のように立ち去った。
 が、あのとき、私はシャンパンを数杯飲んだだけではなく、チーズの盛り合わせみたいものも食べた記憶がある。そしてビールも。ひょっとして私は無銭飲食したのではないのか。しかも、逃走する私を阻止しようとした店員に暴力を働いてしまった。そんなことを考えていると、夜も眠れない。もう1杯呑むしかないか。


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