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やたら距離が近い「韓国式付き合い」 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道(58)

2024-06-22 05:30:22 | 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道

【連載】藤原雄介のちょっと寄り道(58)

やたら距離が近い「韓国式付き合い」

ソウル、密陽(韓国)

 

 
 ソウルのホテルの一室。早朝、目が覚めた。目覚めたというより突如意識が戻ってきたような感覚である。ベッドではなく、木の床の上だった。身につけているのはパンツと靴下だけというなんとも情けない格好だ。
 歯ブラシを咥えたままで、歯磨きのペーストがカペカペに乾ききって口の周りが引きつっている。歯を磨こうとしたところで、力尽き意識を失ったらしい。鏡に映る自分の顔、姿がなんとも惨めで、そして滑稽だ。
 東京行きフライトの搭乗時刻まで、5時間ほどある。顔を洗い、口をゆすぎ、そして靴下を脱いでベッドに潜り込んだ。頭痛はするし、固い床の上に寝ていたので体中が痛い。徐々に記憶が蘇ってきた。
 昨夜は、お客様、ビジネスパートナー、東京からの出張者たちとへべれけになるまで酔っ払ったのだ。ホンオフエやほぼ脂身のサムギョプサル(厚い豚バラの焼き肉)を食べながら、ソジュ(韓国焼酎)、メクチュ(麦酒=ビール)、ソメク(ソジュとビールのカクテル)の果てしない乾杯の応酬の報いだ。
 韓国の人は、酒が好きである。酒を味わう、というより酔っ払うのが好きなのに違いない。「酔っ払って本音を語る」のではなく、「本音をぶつけ合うために酔っ払う」のが韓国式の酒の呑み方であるような気がする。
 ソメクには、注意が必要だ。ビールだけを呑むより甘いのでスイスイと喉を通ってしまう危険な飲み物だ。先に進む前に、ホンオフエについて説明したい。
 これは、ガンギエイの刺身を壺に入れて発酵させた韓国南部の木浦(モッポ)周辺の伝統料理で、世界臭いもの選手権ではスエーデンのシュールストレミング(塩漬けにしたニシンを発酵させたもの)についで堂々の2位だ。
 ホンオフエはまるで昔の駅のトイレのような強烈なアンモニア臭を放ち、口に近づけただけで、鼻の奥がキーンと痺れ、涙が溢れ出る。そして口に放り込むと、オエッとなってしまい、慌てて口を手で覆うことになる。
 ホンオフエだけでも十分臭いのに、これを酸味の強い古漬けのキムチと茹でた豚バラ肉で挟み、更にコチジャンまで塗りたくって、口に放り込むのだから、その激甚且つ複雑な味をどう分析評価したらよいのか、私の脳はバグってしまい、判断しかねていた。
 しかし、吐き気を堪えながらも何切れか口に運ぶ内に、だんだん強烈な刺激に慣れてきて、「ひょっとしたら美味しいのかも知れない」などと思い始めた。ヒトの味覚とは不思議なものだ。

 

▲ビールと焼酎はいつもセットで、混ぜて飲むことが多い

▲脂身だらけのサムギョプサル

▲ホンオフエのセット。一番手前がホンオフエ、その横にあるのが茹でた豚バラ肉。他に古漬けのキムチの他、コチジャンや唐辛子などの薬味が並ぶ


 韓国に通い始めた頃、韓国式の飲酒作法には戸惑った。コロナ後、どうなったか知らないが、当時は各自が飲み終えたグラスをやりとりするしきたりがあった。自分のグラスを干した後、それを誰かに差し出す。差し出されたヒトは、感謝しながらそれを呑み干してグラスを相手に返す。
 昔の日本の「お流れちょうだい」と似ているが、日本の「盃洗」のようなものはない。脂でギトギトのままのグラスである。それが延々と繰り返されるのだ。油断していると、目の前になみなみとソジュが満たされたグラスがいくつも並んでしまう。当然、周囲から厳しい催促を受ける羽目になるので、注意が必要だ。
 この飲酒作法でもわかるように、韓国人との付き合いは、心理的にも身体的にも驚くほど距離が近い。特に酒席では手を握り合い、肩を組み、ホッペタにキスし合ったりするのも珍しくはない。一度など泥酔寸前まで酔っ払ったある会社の役員に私はクチビルを奪われたことがある。
 流石にこの時は、周りの韓国人にも驚くヒトが結構いたのだが、長年のビジネスパートナーで友人でもあるKさんが私の耳元で囁いた。
「藤原さん、クチビルにキスされることは滅多にありません。珍しいことです。でもこれは、相当気に入られている証拠。この仕事はきっとうまくいきますよ!」
 クチビルを奪われるくらい、受注のためなら、安いものだ! 私は、ペッペと手の甲で唇を拭いながら、半ば朦朧とした意識の中で、そう思った。念のため付け加えておくと、「このようなキスは、ゲイ同士のものとは違い、韓国では飽くまで親愛の情の発露である」という。そうであって欲しいと願うばかりだった。

 

▲酔っ払えば手をつなぎ、肩を組む。人との距離が近い韓国の日常風景

 

▲やたらホッペタにキスをする

 

 釜山の北東、車で1時間弱の場所に密陽(ミリャン)という人口11万人ほどの街がある。この街には、ある韓国企業と共同開発していた新型APM(Automated People Mover=全自動無人運転車両システム)の試走設備があり、20回くらいは通っただろうか。
 韓国の地方都市には、日本のビジネスホテルのような宿泊設備はなく、所謂ラブホテルがその役割を担っている。私たちの常宿もそんなラブホテルの一つだった。やたら、愛想のよいアジュモニ(おばさん)が朝夕笑顔で挨拶をしてくれた。
 このホテルの幾つかの部屋は円形ベッドに鏡の天井、風呂は6畳ほどの広さだった。仕事に疲れ果ててそんな部屋に戻ると、時々隣の部屋から怪しげな声が漏れてくる。気が滅入った。

 

▲常宿のラブホテルの夜景

▲エキゾチック(?)なラブホテルの入り口

▲ラブホテルの部屋。円形ベッドで鏡天井の部屋もある

 

 ところで、ソウルの街を歩けば、日本語の看板をよく見かける。中には、思わず二度見して吹き出してしまうようなものがあるので、ご紹介しよう。


▲若い女性に大ブレーキ!!  何のこっちゃ

▲ゲゲッ、「けものの肉」とはオドロオドロシイ。ふーん、ラーメソも食べてみたい

 

 まずは、「けものの肉」と「ラーメソ」だ。「ラーメソ」はラーメンのことだと分かる。「けものの肉」は下に「豚肉」と書いてあるので「牛肉」のことかも知れない。「山蔡ビビソハ」というのもあった。多分「山葵ビビンパ(バ)」のことだろう。一番手強いのは、「手打ちのしやぶ」だ。これは、今でも意味が分からない。 
「若い女性に大ブレーキ!!」という看板もあった。大ブレーキ?「いったい何のこっちゃ」と一瞬思ったが、おそらく「若い女性に大ブレーク!」の意味だろう。

 

             

  

【藤原雄介(ふじわら ゆうすけ)さんのプロフィール】
 昭和27(1952)年、大阪生まれ。大阪府立春日丘高校から京都外国語大学外国語学部イスパニア語学科に入学する。大学時代は探検部に所属するが、1年間休学してシベリア鉄道で渡欧。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学で学びながら、休み中にバックパッカーとして欧州各国やモロッコ等をヒッチハイクする。大学卒業後の昭和51(1976)年、石川島播磨重工業株式会社(現IHI)に入社、一貫して海外営業・戦略畑を歩む。入社3年目に日墨政府交換留学制度でメキシコのプエブラ州立大学に1年間留学。その後、オランダ・アムステルダム、台北に駐在し、中国室長、IHI (HK) LTD.社長、海外営業戦略部長などを経て、IHIヨーロッパ(IHI Europe Ltd.) 社長としてロンドンに4年間駐在した。定年退職後、IHI環境エンジニアリング株式会社社長補佐としてバイオリアクターなどの東南アジア事業展開に従事。その後、新潟トランシス株式会社で香港国際空港の無人旅客搬送システム拡張工事のプロジェクトコーディネーターを務め、令和元(2019)年9月に同社を退職した。その間、公私合わせて58カ国を訪問。現在、白井市南山に在住し、環境保全団体グリーンレンジャー会長として活動する傍ら英語翻訳業を営む。


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