白井健康元気村

千葉県白井市での健康教室をはじめ、旅行、グルメ、パークゴルフ、パーティーなどの情報や各種コラムを満載。

バハーイー教とベジタリアン 【連載】呑んで喰って、また呑んで(68)

2020-10-21 14:20:52 | 【連載】呑んで喰って、また呑んで

【連載】呑んで喰って、また呑んで(68

バハーイー教とベジタリアン

●日本・東京

山本徳造 (本ブログ編集人)  

 


 居候の中で忘れられない人物が、スペインからやって来たハビエルである。バンコクの楽宮大旅社で知り合った、あの「ボクサー」とヨーロッパのどこかで親しくなり、私の電話番号を聞いて、転がり込んだというわけだ。何でも世界中を放浪しているという。
 確か、私よりも2、3歳若かった。2メートル近い大男で、髪の毛はない。きれいに剃っていた。イスラム教徒か、あのオウム真理教の信者たちが着るような白い服を身に着けているから、やたら目立つ。イスラム過激派のテロが各国で起きている昨今なら、「怪しい外国人が町内をうろついている」と警察に通報されていたに違いない。私も事情聴取されたことだろう。
 そんな目立ちまくるハビエルに、何か特殊な宗教でも入っているのかと尋ねると、彼はこう答えた。
「俺、バハーイーなんだ」
「何、それ?」
「えーっ、何で知らないの? 世界中どこでも信者がいるんだよ。日本にも支部があるんだ」
「ふーん」
 今でこそインターネットで大体の情報を検索することができるが、当時は調べるのも面倒だった。ちなみに、ウィキペディアによると、「19世紀半ばにイランでバハー・ウッラーが創始した一神教である。イランでは初期から布教を禁止されたので、バハー・ウッラーと信者はイランからイラク、トルコを経て、当時オスマン帝国の牢獄の町であったアッカ(現イスラエル領)へと追放され、投獄生活ののち放免され、そこで一生を終えたため、今日ではイスラエルのハイファにあるカルメル山に本部を持つ」のだそうだ。
 その教えは「男女平等」「人種平等」、そして「科学と宗教の同調」。素晴らしい教えではないか。信徒数は公称600万人で、189カ国と46の属領に広がっており、布教国数ではキリスト教に次いで世界で2番目だとか。居候になって3日目にハビエルは東京の日本支部(ちなみに日本では「バハイ教」と呼ばれている)を訪ねたくらいだから、熱心な信者なのだろう。
 そんなハビエルなので、わが家で暇人を集めて呑み会をやっても、いつも浮いた存在だった。女性に話しかけられても、反応がいまいちである。バハーイー教ではアルコールは禁止されてないのか、彼はウイスキーを少し舐めていた。しかし、あまり好きではないみたいだ。肉は食べなかったので、菜食主義だったのだろう。このハビエルは2週間ばかり滞在して、日本を飛び立った。居候先が悪かったのか、どうやら日本での「布教」には完全に失敗したようである。
 菜食主義者といえば、ニュージーランド人のリンリーを忘れてはいけない。引っ込み思案なのか、あまり自己主張しない女性だった。社会福祉の仕事を休職して、海外を旅しているという。日本は初めてなので、興味津々らしい。
 困ったことに、菜食主義者なので、肉類はダメ。さらに困ったことに、アルコールも一切受け付けない。いやあ、困った。肉類をこよなく愛し、アルコールを上品かつ優雅にたしなむ私としては、じつに困った居候である。そんな相手に合わせると、まったく楽しくない。しかも、野菜ばかりの料理は意外とカネがかかるのだ。そんなわけで、私はリンリーに宣告した。
「料理は勝手につくってちょうだい」
 朝食の風景を再現しよう。私が納豆と味噌汁、そして出来立てのご飯を美味そうに食べる。あー、日本人に生まれて良かった! 一方の彼女はというと、トーストにジャム、そして紅茶である。昼食はお互いに別々だが、晩飯はときどき向かいの焼鳥屋で。
 焼鳥に生ビールを楽しむ私だが、ニュージーランドのベジタリアンは生のキャベツに味噌をつけて、何とも美味そうに食べるではないか。ときたまウーロン茶をすする。一体どこが楽しいのかわからないが、それでもベジタリアンは満足するらしい。小鳥か!
 ある日、リンリーと近くのスーパーに買い物に行ったときのことだ。リンリーが嬉しそうな顔で、
「私、今日の夕食に茶わん蒸しをつくろうと思うの。テレビの料理番組で見たけど、美味しそうだったから」
「何、茶わん蒸しをつくるって? 日本料理をつくったことがないのに、最初から茶わん蒸しなんて無理だよ。できっこない!」
 そう私が言うやいなや、彼女はワーッと泣き出した。スーパーの客がじろっと私を睨む。日本料理を甘く見てはいけないと言いたかったのだが、すっかり悪者にされて、うろたえる私である。出来合いの茶わん蒸しを2個買って何とかなだめた。うーん、ベジタリアンは怒らせるとコワい。彼女は1カ月ほど居候してニュージーランドに帰った。あれから30年近く経つ。ハビエルもリンリーも今頃どうしているのか。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« サツマイモが大豊作 大根も... | トップ | 一面黄金色が覆う  落葉集... »
最新の画像もっと見る

【連載】呑んで喰って、また呑んで」カテゴリの最新記事