【連載】腹ふくるるわざ⑫
グリーンレンジャー 始まりの物語(中)
桑原玉樹(まちづくり家)
前回では「葛を残そう」という意見を紹介した。いずれも、ごもっともな声である。これらの意見に対して「いや、断固として葛退治をすべき」とする意見が。さて、どんな「退治論」が出たのか。
〈退治論1〉葛は景観を著しく損なう
▲列車が桜の中を走る
▲国道464号線沿道の桜並木
北総線に沿って走るのが、国道 464 号線である。その沿道は桜並木が美しい。白井市が誇る景観だ。しかし近年になって葛や笹竹がはびこり、景観を損なっている。それだけではない。桜が痛ましい状況になっている。
▲葛が桜に絡む(国道464号線沿道)
▲桜を枯らした葛(国道464号線沿道)
平成27(2015)年、地元自治会から葛の除去について白井市に要望が出された。しかし当時、この土地を管理するURからは「道路景観の維持、向上の観点からの対応はできかねる」と回答が来た。
その後、土地の管理が千葉県に移管された際に、国道の道路端から約2mに防草シートが敷かれたものの、その後は予算の制約もあってか除草作業はなされていない(図1)。ならば我々住民が自ら除去すべきではないだろうか。
▲図1 北総線・国道464号の沿線の桜は葛に覆われている
南山公園は、水面と周辺の樹林が一体となった美しい公園である。さらに大雨に備える防災調節池でもあるのだ。大雨に備える範囲は千葉県が管理しているが、公園として利用されている範囲は白井市の管理となっている。
▲水面(法目川防災調節池)と樹木の調和が美しい南山公園
葛がはびこっていて問題なのは、千葉県が管理する防災調節池の部分だ。千葉県が管理している区域境界から約5mまでは年に3回は除草しているが、5m以上は全く除草されていない(図2)。
▲図2 南山公園(法目川防災調節池)~調節池管理地の内側5m以上は除草されていない
ここから葛がはびこり、雑木や笹竹も成長する。さらに、これらに葛がまつわりつく。当初は遊歩道から水面が見えていたが、今では笹竹に妨げられて水面が見えなくなった。公的管理が及ばない範囲は我々住民が自ら除去すべきではないだろうか。
▲平成18(2006)年4月の法目川防災調節池。まだ法面(斜面)に笹竹はない
ところが15年後…👇
▲法面には遊歩道から水面が見えないほど笹竹が生い茂る(今年2月)
〈退治論2〉葛は他の植物を駆逐する
印西市の造園業者に聞いたところ、印旛地方では、葛のことを「やぶ殺し」と言うそうだ。葛の繁殖力は極めて強い。桜だけでなく多くの植物に絡まり、覆いかぶさる。恐ろしいことに、やがてはそれらの植物を駆逐してしまうのだ。
▲印旛地方では葛を「やぶ殺し」と言う
葛による被害は、なにも日本だけに留まらない。アメリカには明治9(1876)年、フィラデルフィア万国博覧会(独立百年祭博覧会)の際、日本原産の葛が飼料作物および庭園装飾用としてアメリカに持ち込まれている。
その展示がきっかけとなり、アメリカの住宅にも使われることになった。東屋やポーチの飾りに用いられたのである。また土壌崩壊を防ぐためにも葛は奨励された。しかし、葛は繁殖力がとても強いので、あっという間に広範囲に広がってしまう。
案の定、葛が生えると他の植物は壊滅的な状況になってしまった。さらにツル性植物である葛は、電線に巻き付いたりして、断線や停電被害の原因にも。そのため、アメリカでは葛が1997年に「侵略的外来種」として指定されている。「緑の砂漠(green desert)」「緑の怪獣(green monster)」あるいは「南部を食べた蔓(the vine that ate the South)とまで言われているのだ。
▲アメリカでは「緑の怪獣」と呼ばれる嫌われもの
〈退治論3〉葛は莫大な経済被害をもたらす
葛の経済被害は莫大だ。米国では年間 3.6 億ドルが除草に費やされているそうだ。日本ではこれといった統計はないが、米国同様に相当額が費やされているに違いない。
いや予算が全く及ばないからこそ、このようにはびこっているのだろう。行政の予算・管理が及ばないなら、我々住民が除去するしかないではないか。
さて、結論はどうなったのか。(つづく)
【桑原玉樹(くわはら たまき)さんのプロフィール】
昭和21(1946)年、熊本県生まれ。父親の転勤に伴って小学校7校、中学校3校を転々。東京大学工学部都市工学科卒業。日本住宅公団(現(独)UR都市機構)入社、都市開発やニュータウン開発に携わり、途中2年間JICA専門家としてマレーシアのクランバレー計画事務局に派遣される。関西学研都市事業本部長を最後に公団を退職後、㈱千葉ニュータウンセンターに。常務取締役・専務取締役・熱事業本部長などを歴任し、平成24(2012)年に退職。現在、印西市まちづくりファンド運営委員、社会福祉法人皐仁会評議員。