【気まま連載】帰ってきたミーハー婆⑤
加齢も知恵で
岩崎邦子
日々の生活を快適に過ごしていくには、五官(目・耳・鼻・舌・皮膚)が正常に働いてくれてこそだ。
それらの働きの如何によって、五感(見る・聞く・嗅ぐ・味わう・触れる)などに変化が伴ってくるのだが、年を重ねれば多くの人に何らかの形で支障が出てくる。
五官がどうのこうのと体の違和感もなく生活が出来ることは、若い時ならほとんどの人が当たり前のことだろうが、今回は、目と耳に関して、我が家の日頃を考察してみることにした。
まずは目に関して。我が夫(83歳)は、白内障の手術を昨年暮れにしたが、多くのゴルフ仲間からは、「遅い! 俺なんかとっくに済んでいる!」だとか。
早い人は60代、70代で施術している。夫は若い頃から逆まつげや、充血に悩まされており、眼科には月に何回かは通っていて、「白内障を遅らせる」目薬も処方されてはいた。
術後は老眼鏡の世話にもならず、印刷物が読めるようになり、テレビの字幕も鮮明に見られるようになったという。まれに、術後の経過が良くない人の話も聞いてはいたが…。
私の場合、子供の頃に目を患っていたので、大人になってからも眼球に傷の形跡は見られたものの、不思議と視力に大きな影響がない。4カ月ごとに眼科に行っているが、白内障・緑内障・眼圧などの検査にも異常はない。
医師からも「視力、衰えなし、ドライアイもなし」と太鼓判を押された。一時、飛蚊症を案じたこともあったが、それも無くなったようだ。日頃、乱視用の眼鏡を掛けているが、目の疲れを軽減するためだ。乱視は高齢者の大半にあるという。
次いで、耳と聴覚である。両方とも夫は問題がないらしい。私の場合は何回も過去の文にも書いてきているが、子供のころから、大きなネックとなっている。右耳の聴力は、絶望的であって、左耳にだけ頼っている。
難聴であることは、自然と地声が大きくなる。車で出かけたりした時には、車内では特に響くらしく、
「お母さんの声、でかいよ~」
と、子供によく注意されていた。
そう言えば思い出したことがある。若い頃、会社の女子寮に入っていたのだが、夜になると同じ部屋の人たち5、6人でおしゃべりを楽しんだものだ。
あくる朝になると、寮長のおばさんに、
「あんた、一人でしゃべってたね!」
心の中では「んなわけないだろうが!」と、思いつつも頭を下げるしかなかった。
年を重ねてきて思うことは、若い頃には静かだった人が、びっくりするくらい大声で話すようになっていることだ。それが電車の中だったりすると、思わず耳ではなく自分の口を押えてしまう。
もう、30年ほど前の話だが、義母は補聴器を買ってもらったらしいが、まだ性能が良くない時代だったからか、外していることが多かった。義兄や義姉からは、付けるように促されていたのに。
どうしてかと理由を聞いてみると、耳鳴りのように「キーン」「キーン」となって、耐えられなくなってくるらしい。
みんなで話に花が咲いているときにも、義母は涼しい顔というか、疎外感を身に受けている感がしてならない。私が耳元で大きな声で話してあげると、「そうかね、そうかね」と、嬉しげだった。
そんな場面では、話の輪に入って欲しかったからだが、大声で話すことが重なってくれば、疲れることも確か。日々の生活を共にしている人の苦労にも目を向けねばならない。皆と話題となっている会話も、はっきりと聞こえなければ、顔の表情もぼんやりとした姿となって、一種の痴呆状態にも見えてしまうかも。
ある時、皆の会話がよく聞き取れなくて、私が怪訝な顔をしていたら、
「あの人、耳、聞こえないから、ほっときなよ」
ま、悪口だけは、はっきりと聞こえてきたものだ。
こうして私も痴呆への入り口に入ってしまうのかなぁ。上品な人は、手やハンカチで口元を隠して話されることが多々あるが、止めて欲しい。口元の動きを見ながら何を話されているのか、判断することもあるのだから…。だから、コロナ騒ぎで、マスクが必須となっている今は、難聴者にとっては、苦難な時でもある。
パークゴルフに行くと、補聴器を付けている人を結構見かけるが、伝達事項があって話しかけても、少し離れた所からだと聞こえないらしい。「あ、ダメだ、あの人」と、なることも。確かに大声を出すことや、繰り返し同じことを話すことには、忍耐力も要することに。
最近のテレビニュースなどは、大まかなことはテロップを流してくれるので、台所をしていても、「なるほど」と、理解したり、「バカだなぁ」とか「へぇ~」と、感心したりが出来る。
バラエティ番組では、何がそんなに面白いのか、分からないこともあるが、それは私の時代遅れ的な面や、笑いのツボには個人差もあるからだろう。
ドラマやドキュメンタリーに関しては、微妙な会話のやりとりや、ニュアンスなどが聞き取れないことが少なくない。でも、音量を上げたれすると、家族の迷惑になるので、リモコンのメニューを活用しよう。
「字幕設定」には、「入り」と「切り」がある。「入り」にすると、テレビの画面に会話が字幕となって現れるのだ。たまに俳優の顔などに字幕が被ってしまうこともあるが、ガマンガマン。ま、ミーハー婆は、こうして何とか、難聴をやり過ごしている。
【岩崎邦子さんのプロフィール】
昭和15(1940)年6月29日、岐阜県大垣市生まれ。県立大垣南高校卒業後、名古屋市でОL生活。2年後、叔父の会社に就職するため上京する。23歳のときに今のご主人と結婚し、1男1女をもうけた。有吉佐和子、田辺聖子、佐藤愛子など女流作家のファン。現在、白井市南山で夫と2人暮らし。白井健康元気村では、パークゴルフの企画・運営を担当。令和元(2018)年春から本ブログにエッセイ「岩崎邦子の『日々悠々』」を毎週水曜日に連載。大好評のうち100回目で終了した。