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不気味な事件が相次ぐ 【連載】呑んで喰って、また呑んで(63)

2020-09-16 14:58:03 | 【連載】呑んで喰って、また呑んで

【連載】呑んで喰って、また呑んで(63

 

●日本・東京

山本徳造 (本ブログ編集人)  

 

 

 前回に紹介した「幽霊マンション」だが、その後は幽霊こそ現れなかったが、なんとも不思議な現象が相次ぐ。夏だった。バンコクの楽宮大旅社で知り合った「ボクサー」がふらっと遊びに来たので、軽く一杯と近所の焼鳥屋へ。
 キンキンに冷えた大ジョッキで生ビールを流し込む。下戸の「ボクサー」はウーロン茶だ。皮タレがビールによく合う。ビールの後は酎ハイにバトンタッチして小ぶりのハツ(心臓)と椎茸をつまむ。
 相変わらず「ボクサー」の話は面白い。高尚な話題は一切なし。ドイツで知り合った金髪がどうのこうの、スッチーの元カノがどうした、今度はベトナムでアオザイの似合う女性と真剣な恋愛をしたい……。そんな話ばかりである。
 その夜はボクサーが泊まることになった。話が尽きないが、夜も遅い。2時間ほどしてマンションに戻ったのだが、玄関ドアを開けようとしたところ、突如、左足に激痛が。
「イタタタ!!」
 慌てて左足を持ち上げようとしたが、なぜか重い。それもその筈である。30センチほどの板がサンダルに引っ付いていたのだ。こんなとき、ボクサーの行動は俊敏そのもの。間髪を入れずに板を引き抜く。板には10センチほどの釘が突き刺さっていた。釘はサンダル越しに私の左足に突き刺さったというわけである。

 傷口から血が噴き出す。ボクサーはその辺に落ちていた石ころをつかむと、血が出ている個所に力いっぱい何度も打ち付けた。
「もう血は止まったでしょ」
 とボクサーに言われて左足の裏を見ると、完全に血は止まっていた。さすが元キックボクサーである。応急処置は見事なものだ。それにしても、外出するときは、そんな板なんて置いてなかったのに、一体、誰が置いたのか。
 その事件から約3カ月後―。
 1週間ほどニューヨークに滞在して東京に戻ったのだが、部屋の前に立つと胸騒ぎがした。ドアを開けると、すごい熱気と一緒に焦げたような臭いが。
「いかん!」
 靴を脱ぐのももどかしく、私は脱兎のごとく部屋に雪崩れ込んだ。間一髪だった。なんと電気ストーブがONになっており、それが床に敷きっぱなしにしていた布団に今にも引火しそうだったのである。あと1時間ほど帰宅するのが遅くなっていたと思うと、震えが止まらなかった。
 それにしても、なぜだ! 成田空港に向かおうと部屋を出る前に電気ストーブをOFFにしたはずである。なぜ、ONになっていたのか。考えれば考えるほど不思議である。ああ、頭が混乱してきた。もう呑むしかない。ボクサーと行った焼鳥屋に向かう。
 手羽先、ボンジリを塩で。レバー刺しも追加する。そして大ジョッキを続けさまに3杯お代わり。ようやく落ち着いたところで、私は決意した。よし出よう! あんな部屋にいると、いつかは殺される! 
 3階建てのマンションに引っ越したのは、それから1週間後のことだった。「幽霊マンション」から徒歩2分のところである。1階が大家である米屋さん、2階が米屋さん一家の住まいとデザイン事務所が。そして3階が私の部屋である。もう1部屋あるが、まだ入居者はいなかった。部屋は6畳のダイニング・キッチンと6畳の洋間。一人暮らしには、十分な間取りである。
 住環境は文句なし。そう思うのは早かった。ようく見ると、部屋の真横には送電用の鉄塔が建っている。目の前の大通りから早朝から深夜に至るまで車の騒音が。冬は凍え死ぬかと思うくらい寒いのなんの。窓から西日が容赦なく部屋に照りつける。

 夏になると大変だろう。完全にサウナ状態になること間違いなし。ぐったりして虫の息どころか、熱中所で死ぬかも。しかし、私は男だ。文句は言わずに、じっと我慢するしかない。

 何と言っても、幽霊は出ないし、不気味な現象も起きないではないか。嬉しくて泣けてくるぜ。こうなったら、とことん楽しむしかない。さあ、呑んで喰って、また呑むぞ!(つづく)


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