大澤朝子の社労士事務所便り

山登りと江戸芸能を愛する女性社労士が、
労使トラブル、人事・労務問題の現場を本音で語ります。

◆こんなに違う60歳以降の嘱託社員の賃金コスト

2015年01月30日 11時07分07秒 | 高齢者雇用
今の日本では、本当に高齢化が進んでいると実感させられます。

社労士事務所は、顧問先従業員さんの生年月日を把握しているので、50歳代後半に
さしかかる従業員さん、60歳に到達する従業員さん等のことを毎月意識しています。

なぜなら、次のように、60歳代前半から、賃金の額や働き方に応じて
公的給付の額が決まるからです。

1、在職中の年金の支給停止と賃金との関係
賃金(総報酬月額相当額)と年金月額の合計が28万円を超えると、
年金の支給停止が始まる。但し、年金の支給停止が一部である間は、加給年金は
支給停止されない。年金が全部支給停止になると加給年金も支給停止となる。
「総報酬月額相当額」には、直近1年間に支払われた賞与(上限あり)も算入される。

2、高年齢雇用継続給付と賃金との関係
60歳到達以後、嘱託等になり賃金が75%以下になったときは、雇用保険から
高年齢雇用継続給付が支給される。支給額は低下後の賃金の15%が上限。
賃金の低下率が低いと高年齢雇用継続給付も低く、低下率が高いと高年齢雇用継続
給付の額が高くなる。

3、但し、高年齢雇用継続給付を受給していると、年金が最大6%支給停止に
この「年金が最大6%支給停止になる」とは、その人の標準報酬月額の最大6%が年金から
差し引かれるという意味。高年齢雇用継続給付の額が多いほど支給停止額が増える。
標準報酬月額20万円の人の賃金低下率が61%以下だったとき、支給停止率は6%で12,000円、
同じく賃金低下率が65%だったとき、支給停止率は4.02%で8,040円となる。

4、嘱託後、短時間勤務などになり社会保険の加入要件に該当しないで働いた場合
この場合は、前記1の年金の支給停止は一切ない。
また、短時間勤務でも、週所定労働時間が20時間未満となると雇用保険の被保険者でなくなるため、
雇用保険の高年齢雇用継続給付を受けることができない。

このように、嘱託後、所定勤務時間等が短くなると社会保険や雇用保険の
資格を喪失し、上記1から3までの支給停止はなく、また給付金の支給が受けられない。

……こと左様に、定年年齢が近づいてきたら、嘱託後の賃金を効果的に決めたり、
働き方を決めることが大切なことが分かります。

ところが、嘱託後の賃金について、関心が薄い経営者の方が多くみられます。
「どうせ、たいした違いがないだろう」と思われているかもしれません。

しかし、賃金の決め方によっては、年200万円ものコストダウンになるとしたら、どうでしょうか。

●60歳到達前賃金が400,000円の方が嘱託後に250,000円に低下した場合
生年月日:昭和29年5月1日生まれ、妻を扶養している。
60歳代前半の報酬比例部分の年金額は8万円(日本人の平均額)、
嘱託後も社会保険の加入を続ける、と仮定。

①60歳:賃金+高年齢雇用継続給付

②61歳以降65歳未満:賃金+年金+高年齢雇用継続給付

②の時期から年金の受給が始まるので、賃金の額によって年金の支給停止額が決まり、
かつ、高年齢雇用継続給付を受ける。

この場合、賃金減や社会保険料減等により月の会社側のコストダウンは173,000円余り。
年間にして2,076,000円余りのコスト削減になる……。

反対に、もし、貴社が、この賃金と公的給付の関係を利用しない場合、
一人当たり年間200万円余りのコストが、他社よりかかることになる。

一方、同条件で従業員さん本人の収入源をみてみると、

●定年前:賃金40万円……手取り33万円余り(賃金のみ)

●嘱託後:賃金25万円……手取り30万円余り(賃金+年金+高年齢雇用継続給付)

会社の負担減の大きさに比べると、その手取り減はさほど大きなものとは言えません。

……以上のように、賃金、年金、高年齢雇用継続給付との関係は、
会社の負担や本人の手取り額を左右します。

何度も賃金と公的給付額を「シュミレーション」をしてみて、
「最適賃金」(会社の負担が最大限減り、かつ本人の手取り額が最大限高くなる値)を
さぐるのも、高齢化社会を迎えた企業の施策と思います。


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◆高年齢雇用継続給付の落とし穴

2013年04月18日 12時15分05秒 | 高齢者雇用
社会保険労務士の大澤朝子です。

60歳以上の方を嘱託等で雇った会社の方。或いは、
定年60歳で会社を退職し、その後転職して嘱託等で働いている65歳未満の方。

どなた様もよーく聞いてください。

60歳以降65歳までの期間中、60歳到達時の賃金より
75%未満に賃金が下がった場合は、その下がった賃金の
最大15%のお金(高年齢雇用継続給付)がもらえますが、
それをもらい損ねているケースがあります。

定年後も継続雇用制度で同じ会社に勤めている場合は
問題ありませんが、定年後、他の会社に転職したケースで
もらい損ねが発生しやすいですから注意が必要です。

高年齢雇用継続給付は、原則として60歳到達時に
雇用保険の一般被保険者としての期間が5年以上あることが
必要ですが、まあ、大抵の方は、この要件にはあてはまるでしょう。

ところが、60歳到達時に直近6カ月の賃金を会社が「登録」して
おく必要があるのですが、以前は義務でしたが、今は義務
ではありませんので、定年等で辞めた方の「60歳到達時賃金登録」
を会社側が提出していないケースが結構多いです。

辞める方の「60歳賃金登録」をしてくれる奇特な総務部さんなら
いいのですが、現実はなかなか……。

高年齢雇用継続給付を受給するためには、どうしても
「60歳到達時賃金登録」が必要ですから、
現実に63歳で「賃金が下がった」場合、定年で辞めた前の会社に
3年も経った今更、
「賃金登録」を出してください、とも言いにくいのではないで
しょうか。それとても、制度を知っていればの話ですし。

64歳で賃金が下がった方の場合は、
定年で辞めた会社に「賃金登録してください」と言っても、
そもそも賃金データがもう残っているかどうかも分かりません。

高年齢雇用継続給付は、60歳以後の賃金低下分を補完してくれる
いい制度ですが、このような問題が発生しやすいので、
本当に注意してかからないとと思う、今日この頃です。


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◆待ったなし!高齢者再雇用の労使協定未締結は3月31日までに締結を

2013年02月20日 00時55分11秒 | 高齢者雇用
社会保険労務士の大澤朝子です。

さて3月31日が近付いてきました。

改正高年齢雇用安定法施行まであと幾日もありません。
原則として希望者全員の65歳までの雇用義務化……。
あなたの会社では、準備は整いましたか?

・65歳まで希望者全員を雇用する
・経過措置を利用して労使協定で対象者を選別する

そのどちらを選択するのでしょうか。

もしも「労使協定で対象者を選別する」をお考えの場合で、
まだ「労使協定」を結んでいない場合は、
平成25年3月31日までに「労使協定」を締結しなければなりません。
勿論、そのためには就業規則の改定も必要です。
あと1か月余り。
50歳代を多く抱えている企業に、待ったはありません。

先頃、日本生産性本部の第13回「日本的雇用・人事の変容に関する調査」
の結果が発表になりました。
それによると、「現時点で再雇用選定基準として業績評価など
人事考課を反映している」という企業は、実に74.3%
思いのほか、65歳までの継続雇用において、対象者を選別
している実態が浮き彫りになりました。

今後も業績評価など人事考課で対象者を選別するかとの問いには、
・選別は特に必要とは思わない 3.6%
・選別は必要だと思う 48.6%
・選別は必要だと思うが、法の趣旨から選別設定は望ましくはない 47.1%

また、再雇用後の賃金の低下率も、「最適賃金」(※)的には
60%前後とされていますが、この調査の結果によりますと、

月例ベースで平均54.0%
年収ベースで平均49.8%

と、定年前の概ね50%という結果になっています。
こちらも、思いのほか低い、という感想を持たれる方も多いでしょう。

 ※ 最適賃金=賃金、年金、高年齢雇用継続給付の3者を受給した
  場合の最も多い手取額を得ることができる「賃金」

また、「再雇用時の仕事・業績・役割に応じて
給与水準を複数設定している企業」の割合は60.7%
定年後再雇用時に、勤務形態だけでなく、仕事の内容や業務、
役割に応じて給与水準を複数設定する傾向にあることが分かります。
「設定していないが、今後設定する予定」が17.1%
「設定しておらず、今後も予定はない」が17.9%。

定年再雇用後は、業務・業績に応じた複数の労働条件を設定
し、柔軟に対応していこうとする企業の姿勢が見えてきます。

これまで大変好評だった助成金のうち、

・中小企業定年引上げ等奨励金
・高年齢者職域拡大等助成金

は、平成25年3月31日で廃止になります。
これら助成金の恩恵を受けてきた中小企業にも、
もはや助け舟は出ません。

(労使協定により)定年後再雇用時の対象者選別を行うのか、
それとも行わないのか、業務や業績に応じた評価の仕方、
賃金設定など、人事制度全体の見直しも含めて、若年から
高齢者まで、採用人事の課題は目白押しといえましょう。

<参考>
公益財団法人日本生産性本部の調査研究
「第13回 日本的雇用・人事の変容に関する調査」
(2012年10月上旬から11月中旬に全上場企業を対象に調査)
を参考にしました。


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60歳到達後の賃金設計はどの程度の低下率が最適?

2012年12月23日 22時36分39秒 | 高齢者雇用

社会保険労務士の大澤朝子です。

 

昨日に引き続き、きょうも、定年後再雇用のお話です。

定年後再雇用後の賃金設定の問題について考えてみましょう。

 

例えば、60歳定年で65歳まで再雇用による「継続雇用」を導入するとします。

大抵の場合、嘱託・1年契約という会社が多いはずです。

賃金は大幅にダウンするのですが、基本的には次の3つの収入が想定されます。

1、60歳到達後の賃金

2、老齢厚生年金の報酬比例部分(部分年金)・・・賃金額により支給停止等あり

3、高年齢者雇用継続給付(賃金の15%が上限。賃金額により不支給も)

 

このうち、2の報酬比例部分の年金ですが、ご存じのとおり、これまでは

60歳から受給できましたが、来年からは61歳から、その2年後には62歳

から、という風に、段階的に支給開始年齢が遅れていき、最終的には65歳からの

老齢厚生年金(満額受給)になります。

 

さて、本日のお題は、60歳定年後の「賃金」を如何に設定すべきか、という問題です。

「定年再雇用後の賃金は65%前後で検討すべき」というのが私の持論です。

理由は全業種統計的にみて平均的な率であること。これに自社の業績、本人の能力

等加味する要素はさまざまですが、まず、そこを出発点に設定し、

賃金設定を仕掛けていくと、比較的合理的に決定できます。

 

仮に、60歳到達以後の賃金下落率を65%と設定したとします。

この場合は、上の3つの収入は、下記にように関連していきます。

 

1、賃金が60歳到達時より65%低下した

2、老齢厚生年金の在職中の支給停止額はいくらか

3、高年齢雇用継続給付金はいくらになるか

   →60歳到達後の賃金の約10%

4、高年齢雇用継続給付を受給した場合の年金の支給停止額はいくらか

   →年金月額の4%

 

高年齢雇用継続給付は、60歳到達時の賃金から60歳到達後の賃金

がどの程度下がったかで決定されます。

賃金の低下率が75%未満でないと高年齢雇用継続給付は支給されません。

賃金の低下率が61%以下ですと、支給率は原則の15%。

賃金の低下率が75%未満で、かつ61%超の場合、賃金の逓減に応じ、

高年齢雇用継続給付額は逓増する仕組みです。

賃金低下率が65%ジャストだとした場合、高年齢雇用継続給付の

支給率は10.05%になります。だいたい10%と覚えておきます。

 

次に、60歳以降、老齢厚生年金の報酬比例部分を受給する場合、

在職中の年金の支給停止はいくらになるのでしょうか。

年金支給対象月の賃金額に直近1年間の賞与額月割りを足した額と

年金月額を足した額から280,000円を控除した額の半分、と覚えて

おくと、大抵の場合、OKでしょう。

仮に賃金が26万円、年金月額が8万円、直近1年間の賞与月割りが5万円だとすると、

{(31万円+8万円)―28万円}÷2=5万5千円が支給停止

この月の年金額は、2万5千円になります。更に専業主婦等の配偶者を扶養する

場合は、生年月日によりますが、これから受給する人は、月額3万2千円程度の

加給年金が付きます。すなわち、年金は合計約5万7千円です。

 

これで、おおざっぱですが60歳到達後の収入の目安が出ました。

1、賃金 26万円(65%に低下したと仮定)(40万→26万円と仮定)

2、老齢厚生年金の報酬比例部分 5万7千円

3、高年齢雇用継続給付 2万6千円

4、3による年金支給停止 4%=3,200円

合計すると、賃金が65%に低下しても60歳到達後の収入は、339,800円となります。

 

これは一つの計算例ですが、賃金・年金・高年齢雇用継続給付をシュミレーション

してみると、賃金をかなり下げても、あまり下げなくても、賃金・年金・高年齢の合計は

さほど変わらない、ということが分かります。

ただし、賃金をあまり下げ過ぎますと「モチベーションの低下」を招き、いいことは

ひとつもありません。

60歳到達後は、賃金は、ほどほどの額に設定し、賃金・年金・高年齢の全てを受給する道を

選択するべきでしょう。

 

まだまだお話はたくさんありますが、まずはきょうはこれぎり・・・。

 

 

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悩みます、定年後の再雇用。希望者全員?「基準」適用?

2012年12月23日 00時29分47秒 | 高齢者雇用

社会保険労務士の大澤朝子です。

高年齢者雇用安定法改正で、当事務所の顧問先も対応におおわらわです。

改正法の施行日は平成25年4月1日。

9月5日法公布から、政令、施行規則、局長通達、指針、Q&Aが出そろったのが11月9日。

他に仕事抱えているし、突然改正されても・・・現場(人事部)は少々困惑気味。

 

ご存じない方に一応説明しておきますが、

今度の改正は、原則として「定年後、希望者全員を65歳まで雇いなさい」というもの。

雇わなくてもいいのは、心身の故障など、就業規則の退職・解雇事由に

ひっかかる人だけ。これって別に人に言われなくても当たり前のことですけど・・・。

 

改正前は、希望者全員じゃなくてもよかったのです。一定の基準を労使協定で

定めて、その「基準」をクリアーした人だけ雇っていれば・・・。

もっとも、これまで、その「基準」にひっかかって雇用されなかった人の割合は

統計的には1.8%だっていうから、この問題にあまり目くじら立てることでもないような

気がしますが、裁判等紛争も起きて、深刻な問題もあったようです。

 

とにかく、改正法は成立し、来年の4月からは、例えば定年60歳の人の

場合、希望すれば会社は65歳まで継続雇用(注1)しなければならなくなります(注2)。

   注1 継続雇用って? =①再雇用 ②勤務延長 のどちらでもOKです。

      殆どが有期労働契約の「再雇用」ですが。

   注2 継続雇用って、正社員でですか? いいえ、雇用形態や労働条件は

      問いません。アルバイト、短時間勤務、嘱託、賃金、勤務時間等ご自由にお決めください。

 

問題は、経過措置。

原則として希望者全員を65歳まで継続雇用しなければなりませんが、

そうはいっても、今まで「基準」を使って一定程度選別していた会社側にも

配慮し、完全に雇用「基準」を廃止するのではなく、徐々に廃止していく方法が

定められました。

   <労使協定で定める雇用「基準」の適用は…>

  • H25.4.1~H28.3.31 61歳以上の者に限る
  • H28.4.1~H31.3.31 62歳以上の者に限る
  • H31.4.1~H34.3.31 63歳以上の者に限る
  • H34.4.1~H37.3.31 64歳以上の者に限る
  • H37.4.1~     「基準」完全廃止

これを見て、普通の人は、あ、そうですか、くらいにしか思わないと思います。

ただし、これを人事が見たら、悩みます。

えーと、〇〇さんの再雇用の契約期間が終わるのは平成28年8月31日で、

契約更新日の9月1日においては、まだ〇〇さんは61歳だから

「希望者全員雇用しなければならない」けど、次の契約更新時の

平成29年3月1日においては62歳だから、「基準」を適用できる・・・

と、こんな調子です。

 

これを平成37年3月31日までやるんですから、人事の手間・気遣いは

大変なもの。いっそのこと、NTTグループのように、希望者全員を雇用し、

その分賃金を下げて、若年労働者の雇用に影響を与えないように

配慮する、という決断をしたのも、かなりうなずけます。

 

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