社労士事務所は、顧問先従業員さんの生年月日を把握しているので、50歳代後半に
さしかかる従業員さん、60歳に到達する従業員さん等のことを毎月意識しています。
なぜなら、次のように、60歳代前半から、賃金の額や働き方に応じて
公的給付の額が決まるからです。
1、在職中の年金の支給停止と賃金との関係
賃金(総報酬月額相当額)と年金月額の合計が28万円を超えると、
年金の支給停止が始まる。但し、年金の支給停止が一部である間は、加給年金は
支給停止されない。年金が全部支給停止になると加給年金も支給停止となる。
「総報酬月額相当額」には、直近1年間に支払われた賞与(上限あり)も算入される。
2、高年齢雇用継続給付と賃金との関係
60歳到達以後、嘱託等になり賃金が75%以下になったときは、雇用保険から
高年齢雇用継続給付が支給される。支給額は低下後の賃金の15%が上限。
賃金の低下率が低いと高年齢雇用継続給付も低く、低下率が高いと高年齢雇用継続
給付の額が高くなる。
3、但し、高年齢雇用継続給付を受給していると、年金が最大6%支給停止に
この「年金が最大6%支給停止になる」とは、その人の標準報酬月額の最大6%が年金から
差し引かれるという意味。高年齢雇用継続給付の額が多いほど支給停止額が増える。
標準報酬月額20万円の人の賃金低下率が61%以下だったとき、支給停止率は6%で12,000円、
同じく賃金低下率が65%だったとき、支給停止率は4.02%で8,040円となる。
4、嘱託後、短時間勤務などになり社会保険の加入要件に該当しないで働いた場合
この場合は、前記1の年金の支給停止は一切ない。
また、短時間勤務でも、週所定労働時間が20時間未満となると雇用保険の被保険者でなくなるため、
雇用保険の高年齢雇用継続給付を受けることができない。
このように、嘱託後、所定勤務時間等が短くなると社会保険や雇用保険の
資格を喪失し、上記1から3までの支給停止はなく、また給付金の支給が受けられない。
……こと左様に、定年年齢が近づいてきたら、嘱託後の賃金を効果的に決めたり、
働き方を決めることが大切なことが分かります。
ところが、嘱託後の賃金について、関心が薄い経営者の方が多くみられます。
「どうせ、たいした違いがないだろう」と思われているかもしれません。
しかし、賃金の決め方によっては、年200万円ものコストダウンになるとしたら、どうでしょうか。
●60歳到達前賃金が400,000円の方が嘱託後に250,000円に低下した場合
生年月日:昭和29年5月1日生まれ、妻を扶養している。
60歳代前半の報酬比例部分の年金額は8万円(日本人の平均額)、
嘱託後も社会保険の加入を続ける、と仮定。
①60歳:賃金+高年齢雇用継続給付
②61歳以降65歳未満:賃金+年金+高年齢雇用継続給付
②の時期から年金の受給が始まるので、賃金の額によって年金の支給停止額が決まり、
かつ、高年齢雇用継続給付を受ける。
この場合、賃金減や社会保険料減等により月の会社側のコストダウンは173,000円余り。
年間にして2,076,000円余りのコスト削減になる……。
反対に、もし、貴社が、この賃金と公的給付の関係を利用しない場合、
一人当たり年間200万円余りのコストが、他社よりかかることになる。
一方、同条件で従業員さん本人の収入源をみてみると、
●定年前:賃金40万円……手取り33万円余り(賃金のみ)
●嘱託後:賃金25万円……手取り30万円余り(賃金+年金+高年齢雇用継続給付)
会社の負担減の大きさに比べると、その手取り減はさほど大きなものとは言えません。
……以上のように、賃金、年金、高年齢雇用継続給付との関係は、
会社の負担や本人の手取り額を左右します。
何度も賃金と公的給付額を「シュミレーション」をしてみて、
「最適賃金」(会社の負担が最大限減り、かつ本人の手取り額が最大限高くなる値)を
さぐるのも、高齢化社会を迎えた企業の施策と思います。
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