大澤朝子の社労士事務所便り

山登りと江戸芸能を愛する女性社労士が、
労使トラブル、人事・労務問題の現場を本音で語ります。

◆「若者の使い捨てが疑われる企業」から学ぶ

2013年12月25日 11時56分08秒 | 労働基準
12月17日、厚生労働省は、「若者の使い捨てが疑われる企業等への重点監督の実施状況」
を発表しました。

「若者の使い捨てが疑われる企業」(いわゆる「ブラック企業」)と言いましても、
およそ「自社には関係ない」と思われる企業様が多いとは思いますが、
発表内容は、参考になるところもありますので、ご紹介してみたいと思います。

●重点監督指導の実施時期   平成25年9月
●重点監督指導の実施事業場  5,111事業場

●何らかの違反があった事業場 4,189事業場(全体の82%)
労働基準法又は労働安全衛生法違反で、労基署より「是正勧告」が出た事業場は
下記の通り。

1、違法な時間外労働があったもの 2,241事業場(43.8%)
2、賃金不払い残業があったもの  1,221事業場(23.9%)
3、過重労働による健康障害防止措置が実施されていなかったもの 71事業場(1.4%)

「違法な時間労働があったもの」とは、時間外労働・休日労働の届出(36協定届)未提出の事業場のこと、
「過重労働による健康防止措置が実施されていなかったもの」とは、月100時間を超える残業を
させていたのに、法令に基づく「医師による面接指導」等を実施していなかった事業場のことです。

ここで、自社の場合を振り返ってみてください。
1、36協定届をきちんと労基署に出していますか?
2、適正な時間管理のもとに、割増賃金をちゃんと払っていますか?
3、時間外労働が月100時間を超える労働者がいた場合に、その方に疲労の蓄積が見られた場合、
医師による面接指導の希望を聴き、希望者には医師による面接指導を実施しましたか?

上の3点の中に違反事項がなければ、貴社は立派な「若者応援企業」!?
ひとつでも違反事項があれば、貴社も立派な「ブラック企業」予備軍?
なんて、心配してしまいますね。

ところで、発表された内容で興味深いものがありましたので、以下ご紹介しましょう。

●1か月の時間外労働が最長の者の実績
1、80時間超    1,230事業場(24.1%)
2、うち100時間超  730事業場(14.3%)

けっこう、長時間労働しているんですね。
80時間超えですと「過重労働」として、うつ病の発症、脳・心疾患の発症の確率も高くなり、
労災「業務上」認定基準等に強い影響を与えてきます。
実際、過重労働が放置され、うつ病にり患等して「自殺」した、なんていう場合は、
「業務上」と認定される可能性が大きいです。自殺などの場合は、安全配慮義務違反等が問われ、
ある日、遺族から膨大な損害賠償請求が……、傍目に見ていてもそら恐ろしくなる数字です。

ぜひ、他人事と思わず、月80時間を超える時間外労働・休日労働をさせていないか、
チェックしてみたいですね。

●違反・問題等の主な事例
1、長時間労働等により精神障害を発症したとして労災請求あった事業場で、
その後も、月80時間を超える時間外労働が認められた事例

2、社員の7割に及ぶ「係長職」以上の者を「管理監督者」として、割増賃金を
支払っていなかった事例

3、営業成績により基本給を減額していた事例

4、労働時間が適正に把握できておらず、算入すべき手当を除外して割増賃金を
低く設定していた事例

5、割増賃金が定額で支払われていたが、把握した労働時間と付け合せを行って
あらず、支払額に不足が生じていた事例

などなど、面白い?事例も挙げられています。

労働基準監督署の臨検にあたった場合、労基法・安衛法の違反事項がないかが見られます。
何の問題もなかった事業場は、結構少ないです。こと「経営」で突っ走っている間は
なかなか労務管理の細かなところまでは目が行き届かない…のが現状ではないでしょうか。

いわゆる「ブラック企業」問題も参考になる点もありますので、反面教師として
自社の労務管理に生かしてみてはいかがでしょうか。

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◆勇気をもって労災申請を

2013年12月19日 18時41分26秒 | 労災保険
最近、「労災申請したいけど、退職してからにしたいのです。」
という話をよく聞きます。いずれも一般の方からです。

最初は、何を言っているのか分かりませんでしたが、よく話を聞きますと、
「在職中に労災申請すると事業主から嫌われるのではないか」と心配なので、
仕事中に怪我をしても在職中は労災申請せず、退職後に申請したい、というのです。

一般の人は可哀そうです。何も知らずに、一人で悩んでいるんですね。
誤った知識で。

正確に言いますと、
●会社のハンコをもらわなくても、自分で労災申請できます。
●会社がハンコを押さなかったことを「申立書」に書いて添付すれば労災申請できます。
●必要な賃金台帳、出勤簿は、労基署が会社へ請求してくれます。
●その怪我が「業務上か否か」などは、労基署が審査をして決定します。決めるのは
会社ではありません。労基署です。
●労災保険法上、治療費、休業補償などには2年の時効があります。
「退職」するまで待っていたら、1日1日と、どんどん時効が進んでしまいます。

病院の診療報酬の締めは当月「月末」で、支払基金等への送付は翌月10日までです。
怪我をしたら、なるべく早く、なるべく当月月末までに、医療機関に
労災5号用紙を提出しましょう。
労災申請したからといって、会社が労基署から怒られることはありません(重篤な違反事故を除く)。
普通の怪我(骨折が多いです。)で会社が怒られることは一切ありません。
このような怪我は日々日常的に起きてい、申請も山のようにあるのです。

労災用紙は、厚生労働省のホームページからダウンロードできますが、
種類がありますので、何をダウンロードしていいのか分からないと思います。
専門的知識も必要です。

一番いいのは、本人が労基署へ行って用紙をもらい、その場で書くことです。
記入方法を聞きながらですから安心ですね。
怪我から日数が経っていても大丈夫です。ただし、当月月末を過ぎていましたら、
もはや、医療機関は事務処理を終わっている可能性があります。
できるだけ早く、医療機関には労災申請する旨を伝えておきましょう。

注意事項もあります。
医療機関での診察時には、正確に怪我の状況を説明しましょう。

●業務外の怪我は「健康保険」
●業務上の怪我及び通勤途上の怪我は「労災保険」

と決まっていますから、業務上の怪我では健康保険証が使えません。
労災の場合は、保険証の代わりに俗に「5号用紙」と言われる用紙を
病院に提出するだけで、治るまで治療を受けられます。

休業補償は労基署へ直接提出するのですが、こちらも用紙は上記の
ように手に入りますので、ご自身で申請することができます。
分からないことは、労基署で教えてくれますので、怖がらずに
相談してみるといいと思います。

心配せずに、自分の権利を正しく執行しましょう。

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◆誤解多い65歳以降の年金支給停止

2013年12月11日 16時17分58秒 | 公的年金等
定年退職後も働いていると、60歳台前半の老齢年金の一部又は全部が
支給停止になることは、皆様ご存じの通りです。

このブログでも説明してきました。

さて、今日は「65歳以降の年金支給停止」をテーマとして選びました。
お客様からご質問や誤解が多く寄せられているからです。

高齢化が進み、60歳台前半は多くの方が働き、また、65歳以降も嘱託などで
働き続ける方も多くなってきました。

前置きが長くなって恐縮ですが、まずは60歳台前半の老齢年金の支給停止から。

●60歳台前半の老齢年金の支給停止
(1)在職中の支給停止(※)
賃金(正しくは標準報酬月額)と年金の合計が28万円を超えると
年金が一部又は全部支給停止になります。
配偶者等の扶養手当の意味合いの加給年金が支給される方は、
加給年金を除いて合計「28万円」で算定します。

※短い勤務時間等で働いている社会保険適用対象外の方は関係ありません。全額支給されます。

この28万円を超えた部分が「支給停止」の対象となります。
賃金が多ければ年金の支給停止額も多くなります。

例えば、賃金が20万円、年金が10万円の方の場合、支給停止は1万円です(29万円)。
例えば、賃金が20万円、年金が8万円の方の場合、支給停止はありません(28万円)。
例えば、賃金が30万円、年金が10万円の方の場合、支給停止は6万円です(34万円)。
例えば、賃金が30万円、年金が8万円の方の場合、支給停止は5万円です(33万円)。
( )内は税引き前総額。

賃金が46万円以下の人の場合は、賃金と年金の合計が28万円を超えると、
その超えた額の半分が支給停止になると覚えておくと、わかり易いかも知れません。

(2)高年齢雇用継続給付受給中の支給停止
「高年齢雇用継続給付」とは、60歳定年時の賃金と、その嘱託等後の賃金が
75%未満に低下した場合に、最大で賃金の15%の範囲内でお金がもらえるという制度です。
仮に、40万だった人が20万に低下したら、賃金の15%=3万円が受給できます。

雇用保険から「高年齢雇用継続給付」を受給している人は、(1)の在職中の年金の
支給停止に加え、更に年金が最大、賃金の6%の範囲内で支給停止されます。

賃金の低下率が大きければ年金の支給停止は限りなく6%に近づき、
低下率が小さければ年金の支給停止は限りなく0%に近づきます。

例えば、高年齢雇用継続給付を受給していると、
賃金が40万円から20万円に低下した人は、年金の支給停止は1.2万円(支給停止率6%)。
賃金が40万円から26万円に低下した人は、同じく1.452万円(支給停止率4.02%)。

定年後、嘱託等で賃金が40万から20万に低下(低下率50%)し、
その人の老齢年金が10万円とします。すると、

(1)在職中による支給停止で、1万円の支給停止。
(2)高年齢雇用継続給付受給による支給停止で、1.2万円の支給停止。
合計で、年金が2.2万円支給停止になる、こんな感じです。年金は7.8万円受給ですね。

この例で被扶養配偶者がいる場合は、
・賃金 20万円
・年金 7.8万円
・加給年金 1.86万円
・高年齢雇用継続給付 3万円
合計 20万+7.8万+1.86万+3万円=32.66万円が税引き前総額ということになります。

もっとも、60歳台前半の老齢年金は、段階的に繰り上がっていきますので、
現在60歳に到達した男子は61歳にならないと年金がもらえません(女子は5年遅れで実施)。
この場合は、賃金+高年齢雇用継続給付のみとなります。

●65歳以降の老齢年金の支給停止
65歳以降も在職している場合は、まったく年金がもらえない、と思っている人がいます。
しかし、それは間違っています。

65歳以降は、初めて、国民年金から老齢年金が支給されます(全国民共通)。
国民年金部分の支給停止はありません。全額もらえます。

65歳以降支給停止対象年金は、厚生年金(共済組合)の老齢年金の部分です。
この老齢年金部分のみ賃金額により支給停止があります。

65歳以降の老齢年金(厚生年金・共済組合)は、賃金と年金の合計が月46万円を
超えたら、その超えた部分の半額が支給停止の対象になります。

① 賃金が30万円、年金が15万円の方は合計45万円。年金は全額支給です。
② 賃金が40万円、年金が18万円の方は合計58万円。年金は6万円支給停止になります。

②の人の例でみてみましょう。
・賃金 40万円
・国民年金 6.5541万円(40年加入の場合)
・厚生年金 12万円
合計 40万+6.5541万+12万=58.5541万円

このように、65歳以降の年金の支給停止は、一般的な額の給与所得者の場合は
あまり目くじらを立てることもないのです。

自分自身の年金額は、年金事務所や年金相談コーナーに行き、聞くことができます。
年金手帳と認印を持参してください。年金額は紙で出力してもらえます。
わからない数字や年金支給停止について、その場で詳しく聞くことができます。
正しい知識で、理解が深まります。
ネットより抜群の効果がありますよ。

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◆人件費の無駄って?

2013年12月02日 14時36分20秒 | 近頃思うこと
昨日の日曜日は、久しぶりに「大中寺」から「大平神社」(栃木県)へ
歩いてきました。

「大中寺」は、上田秋成「雨月物語」にも一説書かれていますが、
大平山、晃石山などを縦走する時などによく立ち寄る名古刹です。
「開かずの雪隠」とか、いろいろ怖いお話のあるお寺なのですが、
付近には鎌倉街道も残っていますし、山歩きの帰途などによく立ち寄ります。
昨日も、鬱蒼とした杉木立の境内には、誰一人いませんでした(こわーい)。

「人材」が企業資源にとって一番重要な要素だと分かっていても、
「人件費」はなるべくかけたくない、と思うのは人情。
人件費をかけたくないという(経営者の)方は、例えば、

1、給与を時給にする。
2、なるべく短期の有期雇用契約にする。
3、非正規で雇い、後で正社員登用をうたう。

などとするでしょうが、
こうしますと、あたかも人件費は安く済むように見えますが、
従業員の出入りが多く、年がら年中「採用」活動することになったりします。

採用にかける「お金」も人件費コストといえますが、
このあたりの計算は案外タンパクで、

1、求人媒体への登録費用
2、職安へ求人を出しにいく手間・人件費
3、採用面接の時間・手間
4、合否連絡の時間・手間
5、新人への既存従業員の教育の手間・人件費
6、契約更新の面接や書類作り

など、目に見えない形でコストがかかっています。
しかし、目に見えないため、本人は気づきにくいのかもしれません。

傍目では、そこまでして「有期雇用にしたい?」と不思議ですが、
求人広告を見ますと、例えば、女子の事務職などは有期雇用が本当に多い。
統計でみても、有期雇用の職種で一番多いのが「事務職」でその次が
「販売職」ですので、これが世の中の採用の実態といえば、まあ、
致し方ないのでしょうか。

日本の賃金は諸外国に比べても1.5倍も高い、といわれれば、
肯首せざるを得ませんが、せめても、有期雇用契約が状態となって
いるこの状態、なんとかならないものでしょうか。
そんな会社、とても伸びる企業には思えませんが。

――さて、大平神社は今が見ごろの紅葉。見はるかす関東平野を
眼下に、茶店に頼んですするお茶や団子の味もひとしおで、あとは、
静かな山道を陽が傾きかけた大中寺の駐車場に向かいました。

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