大澤朝子の社労士事務所便り

山登りと江戸芸能を愛する女性社労士が、
労使トラブル、人事・労務問題の現場を本音で語ります。

◆退職間際の年次有給休暇

2014年05月28日 09時55分45秒 | 労働基準
退職間際に、残りの年次有給休暇を全部請求して、
「今日から、私、出てきません。」と「退職届」を社長の机の上に
置いて突然職場からエスケープしてしまうなどのケースがある。
年休の残日数から「退職日」を設定してくるので、使用者側としては
手の打ちようがない。

使用者側も、例えば定年まで勤め上げたような長期勤続者には、
消化できなかった年休を全て付与し、長期勤続の功労に報いる用意はあろう。
中堅以上の企業では慣例となっているところも多い。

冒頭のケースは、例えば、勤続数か月や2~3年で他社へ転職していくなどの場合などに、
小規模企業などで多く見られる現象だ。
小規模企業には人材の余裕がなく、急な、人ひとりの欠員が、業務に大きな影響を与える
ことが多い。

年次有給休暇は、労働基準法第39条に規定されている強行規定だから、
もし、労働者が、残り30日間の年次有給休暇を「今日から全部」請求
したとしても、事業の正常な運営を妨げるなどを理由とする使用者側の「時季変更権」に
合理的な理由がない限り、労働者の指定する時期に与えなければならない。

注意して欲しいのは、「年休取得日」は「労働義務がある日」に付与するということ。
従って、労働義務のない「公休日」や「退職日以後の日」などは、
そもそも年次有給休暇の請求の権利自体がない。
労働者も使用者も知らないで勘違いしていることが多い。

ところで、年次有給休暇の本来の目的は、休息により今後の勤務に備えるものである。
退職日に合わせて取る年休については、制度の本来の目的を逸脱し、権利濫用と捉え
かねない部分もあるから問題が複雑だ。
退職日に合わせた「いきなりの年休請求」は、信義則上、一定の制約は
違法とはならないであろうとの見解もある。
「退職届」提出後、労働者の2週間の労務提供義務を根拠として、14日間について
年次有給休暇を付与することは違法ではないという判例も出ている。

労働基準監督署に上記「14日間」の可否について意見を求めると、
「労使よく話し合って決めてください。」との回答を得ることがある。

根本は、年次有給休暇を定期的によく消化させ、いきなり退職を迫られても、
それほど業務に影響が出ないように、普段から工夫しておくことが必要といえる。

それができなかった場合は、例えば、どうしても残った未消化の年休分を
「退職金」として支払うという手段もある。「退職」の場合に限られるが。

何はともあれ、労働基準法第39条第6項に規定する「指定有給制度」などを利用して、
普段から年休消化を促進し、未消化年休が「溜まらない」工夫をしておくことは、
冒頭のような困ったケースを出さない一つの工夫だろう。


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◆誤り多い給与等からの介護保険料の控除

2014年05月24日 13時22分21秒 | 健康保険
健康保険法において、「介護保険料」は給与・賞与から源泉控除できるとされている。
(健康保険法第167条第1項第2項)
私たちの給料や賞与から、一般保険料(健康保険料)と共に介護保険料が控除されるのは、
介護保険法に規定する「第2号被保険者」期間中(40歳~65歳未満)である。

しかし、この介護保険料の源泉控除の給与計算はよく間違っている。

現行法では、健康保険は75歳になると資格を失うので、75歳到達の翌月の給与計算時に
健康保険料を控除しないとすることは、大抵ミスなくできる。もっとも、
その年齢まで勤務している社員、役員は少ないであろうから、「75歳に到達したら」
健康保険料は控除しない、ということは、案外容易い。

介護保険料は、40歳到達と65歳到達の2回、必ず、「控除するのか」「控除しないのか」
の判断の時期がやってくる。
特に、「40歳」という年齢は働き盛り、会社の主力層が多いため、対象社員数も多い。

1、40歳の誕生日の前日の属する月分から、それまでの一般保険料(健康保険料)に加えて
介護保険料を徴収する。源泉控除するのは、原則として、その「翌月に支払われる給与」から。

2、65歳の誕生日の前日の属する月分から、介護保険料は徴収しない。一般保険料のみとなる。
原則として、その「翌月に支払われる給与」から控除しない。

ここまでは、給与計算のイロハ。
現在では、給与計算ソフトが「介護保険第2号被保険者」の該当・非該当のチェックを
かけてくれるので、間違う人は少ないかもしれない。

よく間違えるのは、「賞与」支払時の保険料控除の計算だ。次のような場合。

1、介護保険料率が改正になった月(3月)に「賞与」を支払った(3月)。
→→改正後の介護保険料率で控除する。

2、40歳の誕生日の前日の属する月に「賞与」を支払った。
→→介護保険料を控除する。

3、40歳の誕生日の前日の属する月に「賞与」を支払うが、その後、その月の途中で退職する。
→→介護保険料は徴収しない。

4、(賞与ではないが)40歳の誕生日の前日の属する月に「介護保険料率の改正」があった。
→→その月分の介護保険料を翌月給与から源泉徴収する。改正後の介護保険料率を使う。

5、65歳の誕生日の前日の属する月に「賞与」を支払った。
→→介護保険料は徴収しない。

以上が正しく控除できていない代表例だ。

また、間違って控除されたり、されなかったりしていても、
大抵の場合、当人は、「誤り」だということに気付かない。
事業主も、誰も、気付かない。

年齢による各種保険料の控除、非控除は、その他のものを含めると、
1、40歳到達
2、64歳到達以後の最初の年度の初日
3、65歳到達
4、70歳到達
5、75歳到達
と5回出現する。
給与計算ソフトも自動的に注意を喚起してくれるが、
「賞与」や「料率改正」については、人的知識、注意力にに頼らざるを得ない。

翻って考えると、「いい給与計算ソフト」とは、
限りなくゼロに近く人為的ミスを防いでくれるソフトだということができる。
現在、当事務所で使っている「セルズ給与」は、その点、第1位のソフトと評価している。

あまりにも「誤り」が多い例なので、今回、特記させていただいた。


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◆契約変更となった場合の年次有給休暇の付与

2014年05月22日 11時51分01秒 | 労働基準
パート労働者等の所定労働日数が年次有給休暇の付与年度の途中で変更になった場合、
労働基準法第39条第3項の比例付与に係る付与日数は、いつから適用(変更)になるのか?
パートから正社員になった、或いはその逆の場合などもどう考えるのか。

結論から言えば、その労働者の年次有給休暇の付与の「基準日」から変更すればよい。

通達によれば、「法第39条第3項の適用を受ける労働者が、年度の途中で
所定労働日数が変更された場合、休暇は基準日において発生するので、
初めの日数のままと考えるのか、それとも日数の増減に応じ、変更するべきと
考えるのか。」という疑義に対し「見解前段のとおり。」という回答が
なされている(昭63.3.14基発150号)。

例えば、入社が平成25年4月1日のパート労働者(週所定労働日数:4日)の場合。
年次有給休暇の付与の「基準日は」は「10月1日」となる。

・平成25年10月1日:付与日数7日(継続勤務6か月)
(基準日:10月1日)
・平成26年6月1日に契約変更。週所定労働日数が3日となった。
・平成26年10月1日:付与日数6日(継続勤務1年6か月)

パートから正社員になった場合も(その逆も)、「基準日」に年次有給休暇の付与日数
を変更する。考え方は、前記と同様である。

なお、年次有給休暇の「比例付与」は、週所定労働時間が30時間未満であって、かつ、
週所定労働に数が4日以下又は年間所定労働日数が216日以下の者となる。
(労働基準法施行規則第24条の3)
それ以外の者は、「アルバイト」「パート」などの区分に係らず、
通常の労働者と同様の付与日数となる。

誤解があるのが、1日3時間など、1日の勤務時間が少ない者の付与日数。
1週間の所定労働時間が30時間未満であっても、週所定労働日数が「5日」の場合は
「比例付与」の対象とならない。
通常の労働者と同様の付与日数になる。

このような勤務時間が少ない者の年次有給休暇は、その年次有給休暇を
取得した日における契約上の所定労働時間となるのは当然である。
そうすると、その有給取得日の所定労働時間が契約上「3時間」である日は、
3時間分を付与することになる。給与計算時にも注意されたい。

最後に、法定の年次有給休暇は、基準日前の継続勤務期間において、全労働日の8割以上
出勤した場合に付与されるものである(労働基準法第39条第1項)。


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◆観光資源はPRしない? 岐阜県

2014年05月20日 10時11分41秒 | 近況
遡ること今年のゴールデンウィーク。

今年は、岐阜城(岐阜市内)へ行ってきました。

埼玉から東名高速を飛ばして岐阜県へ。
宿は、岐阜市内の「立派な岐阜県庁」の傍。

岐阜に着いてまずしたことは、岐阜駅の2階にある「観光センター」へ。
しかし、そこには、手持無沙汰の従業員が2~3名いるだけで、
岐阜県産の工芸品や岐阜県の観光PRのものなどは一切なし。
(パンフレットなどは少し置いてあります。)
閑散としたフロアーには、観光客はゼロ(訪問日5月4日)。

これだけのフロアーがあるならば、もっと岐阜県をアピールする観光資源の
宣伝をしたらどうですか、と思ってしまいました。

岐阜県と言えば、美濃焼、美濃紙、関の刃物など、伝統的工芸品はたくさんあるのに・・・。

その点、お墓参りに帰る「秋田」は、秋田駅からして県内の物産を売る「土産物店」が
秋田駅2階のフロアーの大部分を占めている。
駅の近くにも「物産センター」があり、観光客が買い物をしている。
各飲食店では、秋田名産の「いぶりがっこ」「稲庭うどん」「きりたんぽ」などを
食すことができます。各店に地元の特産品を提供する「気概」が感じられます。

最近2度ほど観光で行った「金沢」もしかり。観光資源を生かした街づくりが感じられます。
「食」も豊富で、金沢の野菜や日本海で採れた海産物を提供してくれます。
市民も「観光客」を歓迎する「気遣い」があり、観光客が歩いていると、車は道を譲ってくれます。
これなどは、観光客を大切にしてくれる「京都」と似たところがありますね。

その点、「岐阜県」には、がっかり感がありました・・・。

あれだけの「立派な県庁」の建物があるのに、観光資源などには見向きもしない
のでしょうか。伝統的工芸品だけでなく、歴史的遺産も豊富な岐阜県。
金沢以上に観光資源はたくさんあると思うのでうが・・・。

さて、「岐阜城」は流石の一言に尽きます。

遥か見上げる「金華山」山頂にあった山城中の山城「岐阜城」。
現代では、頂上まではロープウェーか登山でしか行かれません。
岐阜城下の公園は、金華山を資源としているのでしょうか。
まるで「白糸の滝」さながら、岩盤から清水が湧き出て川に注いでいます。
街中なのに、ここは自然の宝庫。歴史の宝庫。

一度は行ってみたい歴史的・自然的遺産です。
岐阜県の観光PRの寒さは別として、
来年のゴールデンウィークにも、もう一度岐阜城は再訪してみたいと思います。

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◆障害者トライアル雇用奨励金は2種類

2014年05月12日 10時38分07秒 | 助成金
うつ病等で離職する人が多い今日。
治療を受けても何年経っても治らず、障害等級に該当するに至ってしまうような場合も
あると聞いています。
そのような方でも、再就職のチャンスを願っているのではないでしょうか。

その一翼を担うのが、障害者雇用の助成金といえます。

今日ご紹介するのは、「障害者トライアル雇用奨励金」。
事業者が一定の要件に該当する障害者の方を雇用した場合に、奨励金を受給できるシステムです。
障害者採用の間口が広がります。

障害者トライアル雇用奨励金では、次のふたつの種類の奨励金があります。

1、障害者トライアル雇用奨励金
2、障害者短時間トライアル雇用奨励金

1は、試みに、3か月間(以内)、2は「1年間」(以内)使用してみて、
以後継続雇用が可能かどうか労使双方で判断できます。
障害者雇用の経験のない事業所さんにも「トライアル」ですので、
安心して試行雇用することができます。
奨励金受給には、まず職安に障害者トライアル雇用の「求人」を出していただくことが必要です。

1の障害者トライアル雇用奨励金は、週20時間以上の勤務の方が対象。
2の障害者短時間トライアル奨励金は、週10時間以上20時間未満の勤務の方が対象です。

1の奨励金は、(職安の)紹介日において就労の経験がない職業に就く場合や
紹介日前2年以内に、離職が2回以上又は転職が2回以上ある方、紹介日前において
離職している期間が6か月を超えていることなど、一定の要件があります。

2の奨励金は、労働者の合意に基づき、トライアル期間終了後に「週20時間以上」の
勤務に変更することを目指すことが最大の要件となります。
対象者は、精神障害者、発達障害者の2種類となります。

受給額は、トライアル雇用期間中、
1の奨励金は、各月4万円を上限として最大3か月。
2の奨励金は、各月2万円を上限として最大12か月。

なお、1の助成金は、「特定求職者雇用開発助成金」との併給が可能。
2の助成金は、「特定就職困難者雇用開発助成金」との併給が可能です。

障害者雇用の助成金については、その他に、

1、「障害者初回雇用奨励金」
2、「中小企業障害者多数雇用施設設置等助成金」
3、「精神障害者等雇用安定奨励金」
4、「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金」

などもあり、要件等が細かく決まっております。
自社に効果的な助成金があれば、是非利用してみたいものです。

「法定の障害者雇用率」も上がっていますし、
受給を希望する事業所さんは、是非、お近くの社労士さんに相談してみてください。

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