大澤朝子の社労士事務所便り

山登りと江戸芸能を愛する女性社労士が、
労使トラブル、人事・労務問題の現場を本音で語ります。

◆セクハラと労災認定

2014年12月26日 11時52分24秒 | セクハラ
セクハラが原因で精神障害を発症した場合は、労災保険の対象と
なる場合がある。

ただし、労災保険は全額事業主負担による保険制度のため、労災保険を
支給するかどうかは厳しい審査が行われる。

労災保険を夢の給付のように考えている向きもあるが、健康保険の給付と
それほど変わらない。大きな違いは医療機関での窓口負担がゼロということ
(健康保険は原則3割)。健康保険でも、精神障害の場合は、保健所の認定を受ければ
自己負担額はかなり安くなる可能性もある。
労災保険の休業補償は平均賃金の8割。
健康保険では同様のものに傷病手当金(報酬日額の3分の2)がある(受給期間1年6か月まで)。

労働者に発症した精神障害が「業務が原因」(業務上)と認定できるかは、現在、
「心理的負荷による精神障害の認定基準」(厚生労働省)が定められている。
それによれば、発症前おおむね6か月間に起きた出来事について、
「強い心理的負荷」が認められる場合に、要件の一つを満たすとされている。

以下、セクハラの場合の認定要件を見てみよう。
(厚生労働省リーフレット「セクシャルハラスメントが原因で精神障害を発症した場合は
労災保険の対象となります」より)

1,認定基準の対象となる精神障害を発症していること
認定基準となる精神障害は、「国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第Ⅴ章「精神
及び行動の障害」に分類されるものとされている。
業務上発病する精神障害の代表的なものは、「うつ病」や「急性ストレス反応」など。

2,おおむね6か月間に、業務による強い心理的負荷があったこと
客観的に精神障害を発症させる恐れのある強い心理的負荷を受けたこと。
セクハラのように、被害が繰り返されるものについては、それが6か月前
から始まっていた場合は、その始まった時点からの心理的負荷を評価する。

3,業務以外の心理的負荷や個体特有の要因により精神障害を発症した
ものでないこと

労働個人の私生活で起きた出来事(離婚や親族との死別等)が発症の原因
となっていないこと。

2の「業務による強い心理的負荷があったこと」の例として、
・わいせつ行為等「特別な出来事」があった場合→認定基準「強」
・胸や腰などへの身体接触を含むセクハラを継続的に受けた。又は
継続的に受けなくても会社に相談した結果職場の人間関係が悪化→認定基準「強」
などがある。

1に規定する精神障害を発症し、
2の強い心理的負荷があり(認定基準「強」)、
3に該当する。

場合は、労災認定される可能性が高い。

セクハラ問題に関しては、泣き寝入りせずに、
まずは会社に相談し(会社は相談窓口を設置する義務あり)、
善処を仰ぐことが必要だが、納得の対応をしてもらえない場合などは、
都道府県労働局雇用均等室で「調停」を申し立てなどの道もある。

労災認定も大切だが、自らの職場に一寸のセクハラも許さない環境を
作ることが、何よりも大切と思う。


★労務相談、就業規則、助成金、人材派遣業許可、給与計算

介護保険事業所知事指定、パート雇用、社会保険手続ならこちら
“企業と人のベストパートナー”社会保険労務士大澤事務所

にほんブログ村 経営ブログ 中小企業社長へにほんブログ村









◆時間外労働の限度時間と特別条項付き協定

2014年12月24日 16時27分19秒 | 労働基準
法定時間外労働させるには届出が必要
1日8時間、1週間40(特例事業場は44)時間を超えて労働させる、いわゆる
残業(「時間外労働」)は、何の届出もなしに自由にさせることはできない。

どんな小規模な事業場であろうと、時間外労働させることができる限度時間等
について労使協定を結び、それを所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。
「時間外労働・休日労働に関する協定届」(いわゆる「36協定届」)がそれだ。

届出が必要な時間外労働は「法定労働時間」を超えて労働させる場合だ。
1日所定労働時間が7時間の会社が1日7時間45分労働させるからといって、法定労働時間
(1日8時間)を超えていないので届出は必要ない。

時間外労働の限度時間とは
天井知らずで時間外労働させることはできない。
時間外労働をさせることができる時間外労働の限度時間が決められている。
例えば、
・1週間15(14)時間
・1箇月45(42)時間
・1年間360(350)時間
※カッコ内は3箇月を超える1年単位の変形労働時間制の場合
※ただし、次の業種には限度時間は適用されない。
①工作物の建設等の事業
②自動車の運転の業務
③新技術・新商品の研究開発の業務
④厚生労働省労働基準局長が指定する事業又は業務(ただし、1年間の限度時間を除く。)

特別条項付36協定とは
以上のように時間外労働の限度時間が定められているといっても、
取引先の事情や事故等臨時的に限度時間を超えて労働させる必要があるかもしれない。
そこで、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わせなければならない特別の事情が
予想される場合は、「特別条項付の労使協定」を結んで36協定として届け出なければ
ならない。
この届出がないと、36協定の時間や限度時間を超えて時間外労働させることができない。

特別条項付36協定の内容
特別条項付の労使協定書には次のこと等を定めなければならない。
・限度時間を超えて労働させることができる時間を定めること。
・限度時間を超えて労働させる場合の「特別の事情」を具体的に定めること。
・特別の事情は、一時的突発的であり、1年の半分を超えないこと(年6回まで)。
・特別の事情が生じたときに、労使が取る手続や協議、通告等を具体的に定めること。
・限度時間を超えることができる回数を定めること。
・限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金の率を定めること。
など。

なお、36協定届の様式の中に、特別条項付協定で定められた内容を記載することも可能だ。
当事務所では、36協定届の中に記載する方法よりも、36協定届に特別条項付労使協定書
の写しを添付して届け出ることが多い。

限度時間を超えそうな事業場は、
最初から、特別条項付労使協定書を結び、届出をされることをお勧めする。


★労務相談、就業規則、助成金、人材派遣業許可、給与計算

介護保険事業所知事指定、パート雇用、社会保険手続ならこちら
“企業と人のベストパートナー”社会保険労務士大澤事務所

にほんブログ村 経営ブログ 中小企業社長へにほんブログ村









◆定年再雇用後の賃金の決め方

2014年12月19日 10時57分56秒 | 賃金
60歳以降再雇用された嘱託等の高齢従業員の賃金は、
老齢年金の在職中支給停止や雇用保険の高年齢雇用継続給付があり、
企業の賃金管理に大きな影響を及ぼすため、軽々しく考えてはいけない。

公的給付の有効な利用は、企業にとって、賃金コスト、社会保険料などの法定福利費の
軽減などにも役立っている。

○60歳台前半
賃金と年金の合計が月28万円を超えると、その超えた部分につき一定の支給停止が
あるのはご存じの通り。
賃金が75%未満に下がると高年齢雇用継続給付が受給できる場合もある。

○65歳以降
賃金と年金の合計が月46万円(年度により変更有)を超えると、その超えた部分
につき一定の支給停止あり。

一般的に言えば、60歳の定年到達後は嘱託再雇用となることが多いが、その働き方
と年金や雇用保険の受給パターンは次の通りである。
カッコ書きは分かりやすいように説明を入れたが、実際にはもっと多様なことが想定される。

a.社会保険に加入を続けるくらい働くのか(年金の支給停止を受けるか・受けないか)
b.雇用保険に加入を続けるくらい働くのか(高年齢雇用継続給付を受けるのか・受けないのか)
c.老齢年金の繰り下げを選択するのか・しないのか(65歳以降の年金受給に影響)
d.老齢年金の繰り上げを選択するのか・しないのか(60歳台前半及び後半以降の年金受給に影響)

60歳以降の平均的収入パターンを想定すると、次の通りとなろう。
もちろん、社会保険や雇用保険の加入要件に該当する働き方か否かで
収入パターンは違ってくる。

・年金受給までは、「賃金+高年齢雇用継続給付」の2つの収入。
・年金受給以後64歳までは「賃金+年金(一定の支給停止あり)+高年齢雇用継続給付」の3つの収入。
・65歳以降は、「賃金と年金」の2つの収入。

年金と高年齢雇用継続給付は、「賃金」の額に応じて支給停止や給付額等が
決まるので、定年再雇用後でも、従業員側の手取り額は思ったより減じない場合がある。
而して、賃金をいくらにするとどの程度年金支給停止があり、どの程度高年齢雇用継続
が出るかをシュミレーションできるから、効率的な「賃金管理」ができるともいえる。

ただし、注意も必要だ。
確かに、シュミレーションしてみると、公的給付を用いて効率的に賃金管理はできるが、
人事評価など合理的な処遇がないような(金額のみをいじった)「行き過ぎた管理」は、
従業員のモチベーションを下げるなどの弊害も生みやすい。
また、定年再雇用後の働き方は、人によりまちまちなため、会社側が一方的に
その選択肢を狭めたりすることも避けたい。

65歳まで、原則雇用は義務化され、定年後の賃金管理は企業の賃金コストを左右する。
長期勤続の功労に報いた合理的な処遇ラインを見出す努力が必要となろう。


★労務相談、就業規則、助成金、派遣業許可、給与計算

起業支援、パート雇用、社会保険手続ならこちら
“企業と人のベストパートナー”社会保険労務士大澤事務所

にほんブログ村 経営ブログ 中小企業社長へにほんブログ村


◆中国研修生への労働法講義の依頼

2014年12月15日 15時04分29秒 | 労働基準
主に発展途上国等から日本の技術を学ぶため受け入れる「技能実習生」(研修生)。
かつては劣悪な労働条件下で「労働」させられていた等の摘発もあり、
それらを改善するため、2010年7月より、研修生にも日本の労働基準法や最低賃金法
などの労働法が適用されることになっている。

入管法では、このような研修生に対し、入国後速やかに、
1、入管法
2、労働法
の各知識を各4時間程度研修(通訳時間込)するように義務付けられている。

これをいわゆる「法的保護情報」の講習として、
1の入管法関係は、行政書士さん、2の労働法関係は、社労士が
講義を担当することが多い。

最近、弊所にも「中国研修生」に「法的保護」の講義をしてくださいとの依頼がり、
日本に来て技能を学んで帰る若者達のために、微力ながら、サポートさせて
いただきたいと考えている。

なお、研修生の活動を入国から帰国までサポートする「監理団体」等は、
上の「法的保護」関係の講習の他に、
3、日本での生活一般に関する知識
4、その他本邦での円滑な技能等の習得に関する知識
などの講習を座学により実施することが義務付けられている。

この講習が終わらない限り、雇用契約に基づく技能等の習得活動ができない。
なお、入管法上の研修生の在留資格は「技能実習」となる。
研修生を受け入れる企業は、在留カードなどで必ず在留資格を確認されたい。


★労務相談、就業規則、助成金、派遣業許可、給与計算

起業支援、パート雇用、社会保険手続ならこちら
“企業と人のベストパートナー”社会保険労務士大澤事務所

にほんブログ村 経営ブログ 中小企業社長へにほんブログ村