はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る・改 一章 その2 船上の作戦会議

2024年12月14日 10時55分46秒 | 赤壁に龍は踊る・改 一章
孔明は、長い柴桑城《さいそうじょう》の廊下を無言で歩きつづける。
そうして、長江の水面をゆうゆうと渡る船の中で、魯粛から受けた説明をいま一度、じっくり思い出していた。





船室のなかには、孔明と魯粛、そして趙雲の三人しかいない。
三人の前には備え付けの卓があり、そのうえには魯粛が用意した揚州の地図がある。
そこには、曹操軍がどう行軍するかの予想図が描いてあった。
江陵《こうりょう》を占拠した曹操は、まず水軍を率いて、長江を下ってくるだろう。
かれの目指すは、揚州の交通の要衝である陸口《りくこう》。
陸口が陥落してしまった場合、曹操はそのまま馬で東へ突っ切り、孫権のいる柴桑《さいそう》へ向かい、決戦へ持ち込もうとするはずだ。
同時に、揚州の北部に待機している臧覇《ぞうは》・陳登《ちんとう》・李典《りてん》らの軍もまた、曹操に呼応して一気に南下してくるだろう。
北と南、二方向から攻められてしまえば、孫権にいかに地の利があろうと、持ちこたえるのは至難の業《わざ》だ。


「仮に同盟がうまく結ばれた場合は、劉豫洲《りゅうよしゅう》(劉備)の軍とわが軍とで、陸口を堅守することになるはずだ」
魯粛はそう言い、その太い指をすっと陸口に向ける。
「なんとしても同盟は結ばれなければならん」
厳しい顔で、魯粛は地図を睨む。
その地図のおもてに、曹操の顔でも浮かんでいるかのような様子だ。
孔明は、自分も曹操ぎらいだが、この男はそれ以上なのだなと感じ取った。
おなじ徐州出身で、ふるさとを血で穢しつくした曹操には恨みの念しかない。
曹操のためにふるさとを去らねばならなかった孔明だが、もしかしたらこのひとは、もっと深い傷を抱えているのかもしれないなとすら、その横顔を見て思う。


「劉豫洲と劉琦どのの軍で二万。こちらで用意できる軍で三万。
合わせて五万あれば、十分に曹操に対抗できるはずだ」
「孫討虜将軍《とうりょしょうぐん》は十万の精鋭の兵を擁していると聞きましたが、たしかに、北の曹操軍に備えなければならない。
確実に動かせるのは水軍の三万、というわけですな」
「そのとおり。だが」
「だが?」
孔明が先をうながすと、魯粛はふうっとため息のような大きな息を吐く。
「ズバリ言って、江東は一枚岩ではない。
孫家の人間ですら、曹操に内応しようとしたのだからな」
「みな曹操に震え上がっているというわけか」
趙雲がつぶやく。
孫権の家臣たちをばかにしたわけではないだろうが、それに対し、魯粛はかたをすくめた。
「仕方ない。みな、曹操がどれほど強大な敵か、わかりすぎるほどわかっているからな」


曹操の工作にひっかかり、内応しようとしたのは孫賁《そんふん》といい、孫権にとっては従兄にあたる。
曹操の姻戚でもあるため、かれの威光をおそれて、孫権に無断で息子を人質に送ろうとしたところを、すんでのところで止められたらしい。
孔明は、その孫賁が、かつて叔父の諸葛玄が支配した豫章《よしょう》の太守だということを聞いて、複雑な気持ちになった。
叔父の後任者なら、もっと毅然としていてほしいと思うのは、勝手な願いか、と考える。
孫賁からしてみれば、孔明にそんな要求をされる筋合いはないだろうが。


「ほかにも、古い家臣たちに揺さぶりをかけているようだ」
「たとえば?」
「張子布《ちょうしふ》(張昭《ちょうしょう》)どのあたりが、盛んに曹操から連絡を受けているらしい。
小覇王どのから弟君である孫将軍を託された方だから、かんたんには動かないだろうが」
「子布どのの評判の高さは知っています。かなり一徹な人物のようですね」
「一面ではそうだが、今回に限ってはどうだろう。
すぐに開戦しろと孫将軍に進言しない当たり、あんがい心を揺さぶられているのかもしれないな」
魯粛のことばを聞いて、趙雲はなぜだ、と不思議そうな顔をする。
趙雲のように忠烈の士からすれば、戦う前から降伏という選択肢をかんがえてしまう重臣というものが、理解できないのだろう。


孔明は、頻繁に兄の諸葛瑾《しょかつきん》とやり取りをしていたので、江東の家臣たちの動きをだいたい把握していた。
劉備の家臣たちが劉備の求心力によって強力に結びついているのとは対照的に、孫権の家臣たちは、孫権の支配する地の利によって連帯しているといっていい。
要するに、揚州の士大夫、豪族たちは、上にだれが立とうと、かれらの土地を保持してくれるなら、孫家の人間でなくてもいいとすら思っている節《ふし》がある。
孫権に純粋に忠誠を誓っている人間は、すくないのだ。


つづく

※ 昨日は多くの方にブログ&なろうに来ていただき、たいへんありがたく思っています(^^♪
この作品群が、みなさまの楽しみになっていたなら、光栄ですv
げんざい、執筆は四章まで進みました。
これからもガンガンに書いていきますので、引き続き、作品も楽しんでくださいませ!


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