目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

山を始めた頃を思い出す『八月の六日間』

2015-02-21 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

 『八月の六日間』北村 薫(角川書店)

山の神が去年読んでいた山岳小説。読むにあたって、どんな本、面白かった?と尋ねると、「山を始めた頃を思い出す本だね」とひと言。たしかにこの本に出てくる山行は、初々しさに彩られている。

冒頭の「九月の五日間」は、まず誰もが北アルプスに行ってみたいと思ったときにまず志す表銀座縦走となっている。ただ私も山の神もいまだこのコースすべてを歩いていない。私にいたっては、山歴20年以上だが、槍に行ったことがない。常々行きたいと思っているのだが、行こうとすると雨、休みがとれないとなって、最近では山ブームで逆に混んでるからと避けている。今のうちに行かないと体力的にキツそうなところを優先しているせいもある。槍への道は遠のくばかりだ。でもまあ、これから10年以内には行きたいかな。

話を戻そう。燕へ上がっていく合戦尾根を夏場に歩いたことのある人は、必ず合戦小屋のあのスイカを思い出すのだが、この「九月の五日間」にもちゃんとその話が出てくる。押さえるべきところは押さえているのがこの小説のいいところ。行った人も、これから行く人もは必ず反応せずにはいられない。

主人公は雑誌編集長で、いまどきのアラフォー。そんな設定上、ゲージツの話も出てきて、私的にはそれも楽しめた。「あずさ2号」ネタで狩人が出てきたり、はたまたバルトークが出てきたり、演劇部出身だからシェークスピアも出てくる。もっとも共感を覚えたのが、必ず山行に文庫本を持っていくというくだり。南方熊楠、川端康成、吉田健一、ヴァージニア・ウルフなどが出てくる。私もほとんど同じで読む時間がありそうなときは、必ずザックに1冊入れている。ただしこの主人公のように3冊というのはないが。

脇を固める“麝香鹿さん”も味のある人物になっていていい。このニックネームもしゃれているし、目がパッチリした健脚の女子、書店のスタッフで詩の棚の担当というのがまた私には刺さってしまった。エネルギー補給には羊羹がうってつけといってザックに1本必須というのは面白かった。実際にそんな人は見たことがないが。

本書に収録されているのは、以下。
●「九月の五日間」 表銀座縦走
●「二月の三日間」  裏磐梯スノーシュー
●「十月の五日間」 上高地から蝶・常念、中房温泉縦走
●「五月の三日間」 北八ツ雪上ハイク
●「八月の六日間」 折立から雲ノ平、高天ヶ原温泉、三俣蓮華、新穂高温泉縦走

山をやっている人ならば、純粋に楽しめる本。お勧めです。

八月の六日間
北村 薫
KADOKAWA/角川書店
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする