『山人たちの賦 山暮らしに人生を賭けた男たちのドラマ』 甲斐崎 圭(ヤマケイ文庫)
読んでいて、あれっと思って後ろのほうのページを見ると、1986年に刊行された書籍の文庫化と出ていた。道理でネタが古い。とはいえ、興味深い話が多く、その世界に引き込まれるものばかりだ。なかでも「イワナの養殖師」は面白かった。イワナは極度の“人間嫌い”だから、養殖などとてもムリとされてきた。その常識を覆そうと、一人気を吐くのだが、、、そう簡単にはコトは運ばない。いちばん驚かされたエピソードは、イワナがまったくエサを食べないというくだり。釣り人は生きたエサでイワナを釣るわけだけれども、多数のイワナを育てる養殖では、それは物理的にムリだ。必然的に人工のエサを生簀に撒くことになるのだが、警戒心の強いイワナは頑として食べない。挙句やせ細って、餓死する。そこで編み出された方法が、採卵から始め、餌付け箱から人工エサを食べさせるというやり方。それでも食べないやつは、食べない。食べない率はなんと、90パーセントに上るというから筋金入りだ。そんな強情なイワナを、衰弱させたり、餓死させたりするのはしのびないと放流すると書かれていたが、それでは商売にはならない。やはりイワナの養殖はムリなんでしょうね。
あとへえと思ったのは、奥駈けの前鬼の宿坊守、五鬼助儀价さんをとり上げた章。てっきり先日テレビで見た方の話だと思って読んでいたら、まったくの別人だった。人工衛星の存在を知らないという浮世離れした話が出てきて、こんな山里に住むとこうなるのかと思っていたら、まったく時代の違う方だったのだ。前鬼といえば、役行者の夫婦の弟子、あの前鬼と後鬼の前鬼だ。それが地名になっている。この前鬼には、子孫たちが5つの宿坊を構えていたが、今は1軒のみ。それも五鬼助儀价さんが倒れたあとは、後継者がしばらく現れず、宿坊は無人だったが、その後ようやく五鬼助義之さんが意を決して宿坊を守るようになったという。私がテレビで見たのは、この義之さんだったようだ。
ほかに奈良県大塔の木地師や北海道の羆撃ち、白馬岳のボッカなど、いくつも面白い話がある。ちょっとした時間で1話を読めるので、ザックに入れて電車山行のときに読むといいかもしれない。
最近とりあげた本http://blog.goo.ne.jp/aim1122/c/68ea91d587577709cf5f778451992693
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