目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

NHK逆転人生「日帰り登山のはずが…地獄のサバイバル14日間」

2021-06-20 | テレビ・映画


イメージ(レスキューヘリ)

6/7(月)NHK総合で放送された『逆転人生』「日帰り登山のはずが…地獄のサバイバル14日間」の録画を見た。

地震の災害報道でよく出てくるのが、3日間を過ぎると行方不明者の生存率はがくんと落ち込んで、ほぼ絶望的というもの。でもこの遭難者は14日間も生き延びていた。ニュースで見たように記憶しているが、この遭難が起きたのは2010年8月14日。お盆休みを使っての両神山への日帰り登山の時だった。番組では実際に遭難した多田純一さん(事故当時30歳)が登場して、当時の日々の様子を自ら語っていた。

遭難のきっかけは下山30分後に現れた分岐で、予定外のルートを選択したことにある。道に迷って、普通なら登り返すべきところを、そのまま下り、最終バスに間に合わせるべく、道なき道を強引に下った。傾斜のきついところで足を滑らせ、40メートルも滑落し沢へ。そのときに左足を開放骨折(骨が外に突き出て見えている状態)し動けなくなった。

開放骨折で山岳気象予報士の猪熊さんを思いだした。たしか富士山で滑落して開放骨折をやり、感染症になってしまい、いまだに後遺症に苦しんでいる。応急措置として、すぐに消毒して包帯ぐるぐる巻きが必要なのだ。しかし、多田さんは山の中でそんな処置はできず。骨折部に添え木をして、患部をビニール袋で覆っただけだった。

(以下どんどんネタばれになるのでこれから番組を見る予定の人は注意)
遭難2日目は、冷静に行動している。持っていたホイッスルを鳴らしたり、誰かが気づいてくれるかもしれないと、免許証や保険証をビニール袋に詰めて沢に流したりしている。登山届を出しておらず、家族にもルートなどの詳細情報は伝えていなかったことから、あらゆる助かる可能性を模索していた。足の止血のために焼いたナイフを患部に押し付けたりもしている(現代の医学では間違いとされる。きつく縛るが正解)

一方で家族は、遭難当日の深夜、警察に捜索願いを出している。ただし息子がどの山に行ったのか把握しておらず、百名山で、秩父方面ということしかわからなかった。実際には山の名前を聞いてはいたが、覚えていなかった。

遭難3日目は、崖を少しずつよじ登っていくが、途中で身動きがとれなくなり、そこにとどまることになる。食料は遭難時に飴玉7個の所持。この日はもう残り2個になっていた。間の悪いことに雷雨にも見舞われ、もっていたサバイバルシートにくるまってやり過ごすことになる。

4日目、のどの渇きにさいなまれるようになる。何か食べるものはないかと探し、ミミズや蟻を生のまま、つまんで食べる。たんぱく源として貴重な食料だが、生のままではバイ菌だらけなので、医学的にも衛生面でもNGとのこと。この日は、このあと恐ろしい光景を目にすることになる。骨折した左足に違和感を覚え、かぶせていたビニール袋をはがしてみたところ、蛆虫が大量に這いまわっていたのだ。

番組では紹介されなかったが、むしろこの蛆虫がその後の左足の回復を手助けしたかもしれない。蛆虫は壊死した組織を食べて壊死していない部分を守ってくれたともいえる。マゴット治療(Maggot Debridement Therapy: MDT)といって、わざわざ壊死した患部を蛆虫に食わせる療法もあるのだ。人間の手作業では難しい壊死部分の除去を完璧に行い、肉芽の再生を促すことにつながるという。

遭難から1週間後、家族はあきらめることなく息子の足どりを追い、秩父の駅前で手作りビラを配ったり、行きそうな場所で聞き込みをしたりと奔走していた。そしてついに遭難から9日目にこのお客さんは覚えているとのファミレス店員の証言を得る。そのことから登山ルートを特定し、捜索範囲を絞り込むことに成功した。

遭難10日目、大雨で増水した沢に飲み込まれ、気づくと水中にいたという。この辺りから意識が混濁していたようで、記憶があいまいになっている。しかし運命を変える瞬間は、このときだった。この増水によってザックが下流に流され、捜索隊がそれを発見したのだ。沢沿いに上流に向けて捜索は始まった。そして14日目。ついに捜索隊が多田さんを発見し救助した。奇しくも沢に濁流が流れ込む直前、間一髪のタイミングだった。

そして番組の最後のほうで、視聴者が気になっていた左足がどうなったかについての説明がある。7年を経た2017年春、9回の手術とリハビリを重ねた結果、切断を危ぶまれた左足は再び機能を取り戻し、歩けるようになった!

番組から得られる教訓は以下(私が少し追加していますが、、)。
・迷ったら戻ること
・日帰り登山であっても、登山届を出すこと
(現実的なことをいえば、鎖場があったり、エスケープルートのないロングコースを歩かなければならない険しい山だろうね)
・山の基本装備をもつこと(雨具、救急キット、ヘッデン、水、サバイバルシートorツェルト、できれば携帯ラジオ)
・予備の食料をもつこと
・遭難しても、決してあきらめないこと

この遭難事故では、やはり最後の「あきらめない」という強固な意志が生還のカギを握っていたといえる。そうでなければ、止血のために焼いたナイフを患部に押し当てたり、ミミズや蟻は食べられない。

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