はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

東京遠征7/29。(サントリー美術館「水と生きる」、piper「ひーはー」、bunkamura ザミ

2007-07-29 23:33:12 | piper
本日7月29日は、東京で展覧会2つと芝居を1本観て参りました。

まずは、東京ミッドタウン内にあるサントリー美術館で開催中の「水と生きる」。
古来「水」を表現しつづけてきた日本の美術工芸や文学に焦点をあてた企画展です。
水辺の風景を題材にした絵画群はもとより、波や流れ、雫など、形の定まらない水をどのように表現してきたかという視点からの展示方法が面白い。
浮世絵にはじまって、屏風絵、蒔絵、陶磁器、着物、文様型、螺鈿細工、ガラス細工、絵巻物、染色布、等々。
工芸品が主体なので、ふだんあまり触れることの無い分野の逸品はとても新鮮に目に映りました。
また、工芸品には日本人のメンタリティが如実に反映されているようで非常に興味深く感じられました。
4階と3階をつなぐホールには、水をモチーフにした層ガラス素材の現代美術も。
それと、よく冷えた「南アルプスの天然水」無料サービスコーナーもあって、この時期には嬉しい配慮。さすがサントリー(笑)。
会場ディスプレイも秀逸。
天井からそうめんのように垂らされた糸に光を照射し、流れる水を表現していたのがナイス。
会場入口正面の岩場への水面映像プロジェクションも視覚効果抜群。欲を言えばインタラクティブな要素があればもっと面白いだろうにと勝手なことを考えてしまいました。
個人的ヒットポイントは、
西行物語絵巻の一節
「身につもる こと葉の罪もあらはれて
 こころすみける みかさねのたき」
この歌と場面が印象的で心に残りました。
また、鍋島藩窯の薄瑠璃釉染付花文皿の柄があまりにモダンで吃驚。
そして、マリア・ルゴッシーの作品「Symbiosis III」の中に虹が見えたことに至福を感じました。
展示替えの関係で円山応挙の青楓瀑布図は見られませんでしたが、総じて良い企画展だと思います。
古美術や工芸品に興味のある向きにはおすすめです。
8月19日まで。

ところで、サントリー美術館のショップ併設カフェで昼ご飯を摂ったのですが、ここのお弁当が感動的に美味でした。
加賀麩屋さん「不室屋」のプロデュースなので、ふんだんに麩を用いた内容。
最中状の麩に吸い物と具を入れ込んだ加賀名物の汁物も。
麩好きの私的嗜好をクリティカルヒットです。
そればかりではなく、ごはんひとつとっても、餅米とうるち米ともちキビを絶妙に配合した風味豊かで粘りの強い極旨ごはん。そこに、優しい味のちりめん山椒がさっと振り掛けられて添えてある。
そして、ちいさな陶器に入ったごま豆腐が絶品。
他にも、鮭の西京焼、蓬生麩のとろろこんぶ巻き、生麩といんげんのくるみごま和え、鬼くるみの甘露煮、揚げ生麩の田楽、花麩、キュウリとつくねの串もの、だし巻き卵が。それと、ご飯のわきにたくあんが添えてありました。さらに、別皿で葛餅もついている周到さ。
すべての品が美味で、はずれ無し。たいへんおいしくいただきました。
この内容で1500円は安いと思います。
特に麩好きにはおすすめです。
後で聞けば、このお弁当は一日30食限定なのだそうですので、食べてみたい方は昼前を狙って早めに行かれるのが良いかと思います。


さて、次に下北沢本多劇場で上演中のpiper10周年記念公演「ひーはー」14時公演。
大王作品でなおかつpiperのメンバー5人全員が勢揃いというので非常に期待していたのですが、その期待を裏切らない内容に心から楽しんで参りました。
カーテンコールで作者の大王こと後藤ひろひと氏曰く「皆様方はこれから帰ってお家の人に今日見たお芝居のあらすじやなんかを話そうとするでしょうが、皆様方にはしょせん無理です!」との言葉どおり、とても一口では語り尽くせないのは大王作品ならでは。
詳細はネタバレになりますので末尾に譲りますが、面白いモノ好きや馬鹿馬鹿しいもの好き、大阪好きや喜劇好きには強力おすすめです。
本多劇場では8月12日まで。当日券も出ているようです。
その後、仙台、名古屋、福岡、広島、大阪を回りますので機会がありましたらぜひ。
なお、上演時間はカーテンコール含め2時間10分ほど。若干長引く可能性もあるかもしれませんので遠征組はご用心を。



最後に、渋谷のbunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ルドンの黒」。
19世紀末に活躍したフランスの画家ルドンの大規模な回顧展です。
主に版画作品を主体とし、「黒」「幻想」「奇想」をキーワードにルドンの一生と作風の変遷をたどる展示はなかなかの見もの。
作品数もたいへん多く、かなり急いで観たにもかかわらず、ゆうに1時間以上もかかってしまいました。
展示品の多くが岐阜県立美術館のコレクションなのだそうで、たしかに以前岐阜にいた頃に観た覚えのある作品もありました。
しかし、岐阜県立美術館では常設展として少しづつ展示されていましたので、これほど体系的かつ大掛かりに一挙公開される機会は滅多に無いかと思います。
とても印象的な顔のついた蜘蛛や、眼球の気球など、一度見たら忘れられないような画も多く残すルドン。
自然科学に傾倒していたということは今回初めて知りました。
また、具象ではなく見る者の想像を喚起することで表現を極めた経緯が興味深いです。
個人的ヒットポイントは「蜘蛛」と「ブリュンヒルデ」。
東欧のアートアニメーションにでも登場しそうな蜘蛛のインパクトには脱帽。
そしてワーグナーに題材を取った「ブリュンヒルデ」のあまりの童顔っぷりが可笑しくも微笑ましい。
それと、頻出する眼球のモチーフを見ていて思い出したのが、衛藤ヒロユキの「魔法陣グルグル」。
グルグル世界に登場する変なキャラクター群はルドンに通じるものがあるような気がして興味深く思えました。
好悪の分かれる作風だけに、すべての方々へおすすめとは言えませんが、モノクロームや奇想的な世界観の美術が好きな方は見ていて損はないと思います。
8月26日まで。


以下、「ひーはー」ネタバレ。

どこか日本のど田舎にある廃業したステーキハウスを舞台に、アクの強すぎる3家族、西部劇マニアの男2人、クロード・チアリを事故で死なせてしまった興行師の男女、慕う女性の言葉を額面どおりに受け取って夫を殺そうとする傭兵部隊曹長、その上司などなど・・・奇想天外な人間模様と勘違いと偶然の符丁が織りなす抱腹絶倒の西部風喜劇。

これぞ大王印のエンタテインメント。
人を食ったようなお膳立てと、それを最大限に活用した緻密な構成。そして爆笑の渦。
やはり大王作品は大好きです。
全幅の信頼をおくように安心して楽しめました。

僧正こと山内圭哉氏の炸裂ぶりがすごかった。
緩急自在の大阪弁でまくしたて、憑依芸とも言えそうなキャラクターを降臨させる手腕はさすが。
見ていて「発熱!猿人ショー」の言葉糾くんを思い出しました。

そして、平田敦子嬢。相変わらずの可愛らしさと人間離れしたキャラクターっぷり。
あんな役をできそうな人間は他に思い付きません。

DENJINこと腹筋善之介氏のパワーマイム封じが新鮮。
姿勢の良さと動きのなめらかさ、得体の知れなさが新たなキャラを際立たせていたように思います。

Docこと川下大洋氏の豹変ギャップを活かした設定にニヤリ。
Salこと竹下宏太郎氏の振り付けや佇まいも素晴らしく。
大王のお妃、楠見薫氏の貫禄に惚れぼれ。
水野美紀氏も片桐仁氏も濃いメンバーの中で普通に馴染んでいました(笑)。
素敵なカンパニーです。

もじゃ木くんの歌がしばらく頭を離れそうにありません。
そして、ウマの登場が嬉しいことこの上無し!
次回鑑賞が楽しみです。

そういえば、今回の物販ではいろいろなグッズが売られていました。
パンフレットはもちろんのこと、ウマのぜんまいおもちゃやストラップ、トレーディングカードやガチャガチャ式の缶バッジ、Tシャツ、飴、などなど。一番驚いたのが平田敦子人形ストラップ(!)。
終演後には物販のお兄さんがたに『魔除けにもなります!』呼ばわりされていたのが印象的。
平田さん、皆に愛されているようです。

山形大学長選問題に関する素朴な所感。

2007-07-29 09:17:04 | 日記・エッセイ・コラム
気になることメモ。
いつもこっそり覗いている、戦う科学者 apj さまのブログ「事象の地平線7月11日付エントリで教えていただいた山形大の学長選問題。
政治的な意味合いはこの際置いといて、外部からの素朴な所感をふたつ。

1 自分がもし親だったとしたら、こんな不正まがいの手続き無視をやるような大学に子供を入学させたいとは思わない。
2 そしてなにより、こんな不条理がまかり通るような大学とは共同研究したくない。

常識的に考えて、こんな所感を抱いてしまいます。
今回の件は、山形大学にとってものすごいマイナスになっていると思うのですが。
日本中の研究者が注目しているこの問題。
うやむやにして信用を失墜させるのか、何らかの論理的是正措置を行うのか、山形大学運営側の対応が問われるところ。
外野ながら注意深く見守ってゆきたいと思います。


東京遠征7/28。(東京藝大美術館「金刀比羅宮書院の美」、「歌川広重 名所江戸百景のすべて」、「素描

2007-07-29 00:37:02 | アートなど
昨日7月28日は、東京にて4つのギャラリーで8つの展示を観て参りました。
以下簡単に。

まずは、東京藝術大学美術館で企画展3つ。

「金刀比羅宮 書院の美 ? 応挙・若冲・岸岱 ?」
(情報は→こちら あるいは こちら )

こんぴらさんの愛称で親しまれる四国金刀比羅宮の書院襖絵を公開した企画展。
応挙や若冲の筆があると聞いて足を運びました。
内容は、円山応挙や伊藤若冲、岸岱らの筆による襖絵をメインに、金刀比羅宮をめぐる信仰習俗を紹介したもの。
やはり展示品が襖絵なだけあって、移動不可能な部分は複製画で対応。
若冲の花丸図は6割が複製でした。
若冲目当てで行くとがっかりしてしまうかもしれません。
しかしながら、それぞれの襖絵の部屋を再現しつつ、部屋の役割などがきっちり解説されており、やはりメインは金刀比羅宮の文化的価値に係る紹介なのだなと納得。
広報に問題があるような気がします。
個人的ヒットポイントをいくつか。
応挙の遊虎図の虎たちがユキヒョウのようにモコモコフワフワで微笑ましい。
岸岱の水辺柳樹白鷺図の凛とした美しさ。
若冲の花丸図。枯れや虫食いも込みで植物の持つ生命感。
頓田丹陵の富士巻狩図にパロミノの馬が描かれていて吃驚。
こんぴら狗のエピソードにほろり。
ところでわたくし、疲れている時に薄明かりの中でたまに見えないものが見えてしまったりするのですが、立ちくらみも手伝ってか、今回も若冲の花丸図の中に一瞬昆虫がうごめいているような幻を見てしまいました。それが妙にはまっていて、一人脳内で感心。花丸図には虫が似合いそうな気がします。
総じて良質の企画展。
文化財級の調度を惜しげも無く貸し出してくれた金刀比羅宮に拍手。
9月9日まで。

2つ目。
東京藝術大学創立120周年企画 芸大コレクション展「歌川広重《名所江戸百景》のすべて」
文字通り、歌川広重の浮世絵「名所江戸百景」を一堂に集めてしまった驚きの企画展。
「金刀比羅宮 書院の美」よりもある意味こちらのほうがボリューム満点だったかもしれません。
単品でならいくつか目にしたことはあっても、このようにまとめて見る機会はなかったので圧倒されました。
まとめて見てみると、構図の面白さ、秀逸さがよくわかってお得感倍増。
ゴッホやゴーギャンへ与えた影響を紹介するコーナーもあって非常に面白い。
現物が一同に会するのは滅多に無いことでしょうから、浮世絵好きはこの機会にぜひ。
こちらも9月9日まで。

3つ目。
東京藝術大学第二研究室「『素描展』?思索のなかで?
美術館隣りの陳列館2階での学内展示。
研究室の面々がそれぞれの制作活動の課程で残してきた素描を展示したもの。
ふつう我々鑑賞者の目に触れるのは最終的な作品のみだけれど、このように思索の跡が白日の下に晒されると、それもまた作家性を理解する縁となって非常に面白い。
わたくし個人的には川又聡氏の習作に一目惚れ。
馬と鶏に生命へのまなざしを感じました。
完成作をぜひ目にしてみたいものです。
こちらは会期短く31日(火)まで。
最終日は正午までなのでお早めに。


次に、銀座のギャラリー小柳で展示をひとつ。
須田悦弘展

須田氏に関しては、今年の1月13日、14日に行った金沢21世紀美術館で作品「雑草」を拝見して、そのつつましやかな展示方法と木彫の超絶技巧に心を奪われていたところ。
(須田氏については→こちら )
東京藝術大学美術館でみかけた展覧会情報誌で発見して、予定を変更してダッシュで足を運びました。
桜の葉、スミレ、ツツジ、朝顔、ハハコグサ、カタバミ、そして小さな雑草たち。
身近でつつましやか、それでいて美しい植物たちを模した精密な木彫作品は、いくら間近で見ても本物と見紛うばかり。
単に精密さを求めているわけではなく、生命そのものへのまなざしを感じるのが素晴らしい。
技術と視点と手法と理念が見事に一体化した作品群だと思います。
これからも注目してゆきたいアーティストです。
残念ながら会期は今日で終了。
そのかわり、京都のアサヒビール大山崎山荘美術館 の企画展 で9月17日まで作品が展示されているようですので、興味のある方はぜひ。


次いで、目黒区美術館でひとつ。
線の迷宮<ラビリンス>II - 鉛筆と黒鉛の旋律
鉛筆や黒鉛など、白と黒を基調としたシンプルな画材で表現を追求している作家10名の作品を一同に集めた企画展。
ボリューム、質ともに大変素晴らしい内容。期待以上でした。
同じ鉛筆等を使いながらも、これだけ技法と表現に個性が生じるという事実。
10もの作家世界はどれも濃密。圧巻です。
絵画好きと現代美術好きにはおすすめ。

有名どころの作品で客寄せするのではなく、こういった良質の企画展を次々と打ち出す目黒区美術館。
今、私の中で注目度ナンバーワンの美術館かもしれません。
(前回は「原マスミ大全集!」。ちなみに次回予定は「馬と近代美術」!!)
今後もぜひともがんばって運営していってほしいものです。


最後に、東京オペラシティアートギャラリーで3つ。

まず、「メルティング・ポイント
ジム・ランビー、渋谷清道、エルネスト・ネト、の3氏作品を集めた企画展。
オペラシティアートギャラリーの企画展にしては作品数は少なめ。
三者三様の作風が面白いけれど、行き慣れているとちょっと物足りないかもしれません。
ネトの作品にはいつも生物膜を連想するのですが、今回の作品もその例に漏れず。
骨内部の構造体や、細胞膜のモジュール構造を彷彿とさせる造形がやはり興味深い。
丸亀市猪熊玄一郎現代美術館  での個展へはぜひ行ってみたいところ。

次に、「[収蔵品展]いのちの宿るところ」
オペラシティアートギャラリーの収蔵品を、会期ごとにテーマを定めて展示したもの。
たまに、企画展よりもこちらの収蔵品展のほうがとんでもなく充実していたりするので侮れない。
今回も、私個人的にはこちらの「いのちの宿るところ」のほうが大ヒット。
殊に竹内浩一氏の動物画には、激しく心を奪われました。
具象でありながら理想化され抽象化された動物たち。
驢馬の穏やかな表情はさながら宗教画のよう。
ほぼ原寸大の重種馬を描いた「遠ざかる音」は圧倒的な存在感。
静謐な空気の中に佇む馬体はどこか神々しさを感じさせるような気がして、しばらくぼうっと魅入ってしまいました。
奥山民枝氏の光を扱った絵画群も目が釘付け。
具象と抽象のあわい。
それでいて光の特性を実に的確に描き出している様子はさながら物理の世界を見ているようで、妙に感心しきってしまいました。
他にも濃~い絵画が盛りだくさん。
なかなかのおすすめです。

最後に、「[project N]田尾創樹 展」
若手作家への支援として位置付けられた展示。
田尾創樹氏は初見でしたが、その圧倒的な諧謔性とメタ的視点に度肝を抜かれました。
どこまでが本気なのかよくわかない上、好悪の分かれそうな作風。
苦労も多そうですがぜひとも突っ走っていただきたいものです。


今日は思わぬ出会いがあったりと、ずいぶん盛りだくさんの一日でした。
晴天に感謝。