はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

<font size="-3">古川日出男「ベルカ、吠えないのか?」。</font>

2005-07-11 23:57:10 | 日記・エッセイ・コラム
文藝春秋から出版されている、古川日出男氏の「ベルカ、吠えないのか?」を読みました。
キーワードはイヌ、戦争、ソ連。戦慄のフィクション。
数奇な運命をたどるイヌの血統。その血統と深く結び付く危険な謎の老人。
戦争の世紀「20世紀」をイヌという縦糸で読み解いた壮大かつ壮絶な物語です。
書き下ろしとしては「アラビアの夜の種族」以来の作品だそうで、その宣伝文句に違わぬ気合の入った力作に思えました。
運命の織り成す数奇な網と、ヒト以外の生き物の慟哭、その慟哭へ共鳴する人間、半ば脱言語化した情動、そういったものを描かせたらこの方の右に出るものはないのではないかとさえ思えます。
とりわけイヌたちの歴史は圧巻。
圧倒的な情報量に加え、「13」「沈黙」「アビシニアン」「アラビアの夜の種族」で培ってきたエキスが存分に活かされているようです。
死と殺戮にまみれながらも実直に別の規範を生きようとする存在。
340ページの見開きに泣かされました。
かれらに対し嫌悪よりもむしろ神々しささえ感じさせる理由は、この2ページに集約されているのではないでしょうか。


ところでわたくし、古川作品に特徴的な「冷静な叙述に時折混じる口語口調」が好きです。単なる混在ではなく、意図的な配置なんですね。
今作もフルシチョフと毛沢東のくだりには笑ってしまいました。
絶妙な配置の匙加減に脱帽です。



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5 コメント

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>うずらさま (aiwendil)
2005-07-21 23:20:05
>うずらさま

それでは、2冊まとめてど~ぞ~。

「アラビアの夜の種族」は凄いですよ~。
わたくし、ちょうど同じ時期に出た「サラマンダー~無限の書~」という外国文学と読み比べることで「翻訳」というものの定義や常識について考えさせるような強烈な読書体験をいたしました。
この二冊の書物、偶然にも似たような主題を有していたんです。

○トマス・ウォートン著 「サラマンダー -無限の書-」宇佐川晶子訳
○古川日出男著(訳) 「アラビアの夜の種族 The Arabian Nightbreeds」

両者ともに幻想の書物を扱った物語です。また、語りの中に物語が展開する、という枠構造も奇妙な共通点。そしてさらに面白いのは、「アラビアの夜の種族」が翻訳であるというフェイク構造を取っている点です。
要するに、この二つの書物は、幻想の書物を扱った「翻訳もの」の物語であるという点で非常に似通っているわけなのです。
しかし。内容はもちろん全く違います。片や、1759年の語り手が1717年から始まるスロヴァキア伯爵の狂気と無限の書をめぐる製本職人たちの世界遍歴を描く奇想。
片や、アラビア伝説の英訳本に記された、ナポレオン襲撃前夜のカイロにて歴史の転覆を呼び起こすために伝説の語り手によって語られる千年の時をこえた主人公達の稀代なる年代記。
ところが、ここで不可思議な現象が起こっているのです。本当の翻訳書である「サラマンダー」よりも偽の翻訳書である「アラビアの夜の種族」のほうがより翻訳らしく、かつ圧倒的な言語的存在感を見せつけてくれてしまっている(ように私には思えた)のです!
特筆したいのは、「翻訳というフィルターを通したという前提の元に著者が創作した物語」という存在です。丁寧に訳注まで仕込まれたこれは、書物の形態で言えばまさしく翻訳書以外の何ものでもありません。しかし、文学作品として見るならば、原著=訳文という類い稀な同一性を具現してみせた、ひとつの日本語的挑戦でもあるわけです。(存在しない原書に対する翻訳書、という構造は「西方の赤表紙本」にも通ずるものがありますね〈笑〉。)
この構造において翻訳とはひとつの「手法」にすぎません。
もしも文学における翻訳というものが「日本語として違和感なく読める状態にすること」であり、文中の訳注が一部の翻訳者の間でよく言われるように「禁じ手」なのだとしたら、古川日出男の「原著」は日本語の翻訳書としては失格ということになってしまいます。しかし、私が読む限りこの「翻訳においてまずいとされていることがら」は、全く物語を損なってはいないように感じられるのです。これは大きなパラドックスです。
まずい翻訳のかたちを装った日本語の原著が物語として素晴らしかったとしたら、それは「まずい翻訳」の定義自体が誤りであることの証明にはならないだろうか、そう気付かせてくれた書物が「アラビアの夜の種族」なのでした。

「指輪物語」をめぐる翻訳の議論が盛んな頃にこんな読書体験をしたもので、「良い翻訳」というものに対するイメージががらりと変わってしまった記憶があります(笑)。
古川日出男おそるべし。

というわけでお楽しみに(^^。
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>aiwendilさま (うずら)
2005-07-21 20:32:59
>aiwendilさま
興め続けておりますよ。
そういえば、「アラビアの夜の種族」って新聞の書評に載っていたのを見たことがあるような。その時も非常に興んだ覚えがあります。
返信する
>ちょびままさま (aiwendil)
2005-07-20 23:11:02
>ちょびままさま

おお、購入仲間が(笑)!
私は「13」で古川日出男にハマりました。
後半はずっこけているんですが、前半が圧巻で・・・。
で、それ以来ずっと読み続けている作家さんのひとりです。

「ベルカ、吠えないのか?」は、かなりバイオレンスな感じのお話なので、人によっては拒否反応を示す恐れもあるかなと思えます。
さて、ちょびままさまの感想はいかに(笑)?
ひそかに楽しみにしています(^^。

>うずらさま

お褒めにあずかり光栄です(^^;。
図書委員歴8年という過去は伊達じゃなかったということでしょうか(笑)。
ただ、この作品、圧巻ではありますが、非常に血なまぐさいのです。
そこのところが伝わっているかどうかが、ちょっとした懸念材料ですが、興め続けているのでしたら貸出しいたしますのでどうぞご連絡くださいませ~。
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作者のことは全く知らなかったのですがとても読ん... (うずら)
2005-07-12 18:02:05
作者のことは全く知らなかったのですがとても読んでみたくなりました。わくわくするような紹介文ですね。相変わらずなにかを人に勧めるのがお上手ですね。藤村D流に言うと、大変お上手でいらっしゃる。
犬の血統に絡んでどんな物語が展開されるのか非常に興んでしまいましたよ。
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2回目のおじゃまでございます。「ベルカ、吠えない... (ちょびまま)
2005-07-12 13:16:23
2回目のおじゃまでございます。「ベルカ、吠えないのか?」私も購入いたしました。きっかけは、ラーメンズ関係で買ったTVブロスとInvitationの2冊に同時期に紹介されていたのを見たのと、家にはチョビ(ハスキー雄)がいることもあって、興めたわけでございます。まだ、ちらっと眺めただけなので、内容はわかりませんが、おもしろそうです。イヌたちの歴史、圧巻なのですね。ワクワクします。
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