フィレンツェのドゥオーモ後塵に貼り付くような場所に建つ
Palazzo Strozzi Sacrati (ストロッツィ・サクラーティ宮殿)は、
その昔Bischeri(ビスケリ)一族の所有だった建物。
ビスケリとはトスカーナの方言では「愚か者」という意味。
フィレンツェのドゥオーモを新しく建てるときに
建設に必要であった土地に邸宅を構えていた一族は、
立ち退きを拒否して
その後に火事でその邸宅を失った一件から、
周囲の人々に「愚か者」と呼ばれるようになったとか。
火事で邸宅を失った「ビスケリ一族」から
1400年代にはBuondelmonte(ブオンデルモンテ)家に、
その後は裕福なGuadagni(グアダーニ)家に所有が移ります。
このグアダーニ家が1593年に
クラシックな建築様式で改築を行ったものが
現存する建物のベースとなっています。
長い年月の間に相次いでフィレンツェの貴族に
所有権が移ったため、
正面ファサードの紋章はGuadagni(グアダーニ家)の
青地に黄金の十字架、
入り口を入った先の門には
Riccardi-Strozzi(リッカルディ・ストロッツィ家)の紋章など、
あちこちにそうした足跡が残っています。
18世紀になってGherardo Silvani
(ゲラルド・シルヴァーニ)の手により
バロック様式を取り入れ、近代的に改築されています。
この建物は1980年に最後の相続者である
Umberto Strozzi Sacrati
(ウンベルト・ストロッツィ・サクラーティ)侯爵が亡くなってから
封印されていた物件で、
1989年にトスカーナ州が買収して修復工事を続けていました。
この修復がほぼ完成に近づき、
2007年夏にはトスカーナ州庁オフィスの一部がここに移転し
歴史的建物の一部が美術館として
2008年を目処に一般公開されることになりました。
トスカーナ州が買収した当時は130億リラといわれた物件ですが
ここ数年の高騰もあり、その10倍の価値が出ているとか。
1700年代1800年代に大幅に手を加えられた内装は
非常に豪華で、約11315平方メートルの総面積に
これまで人目に触れていない美術品が多く残されているようです。
最終相続人であった侯爵はひどくへそ曲がりな人物で
プライベートコレクションを誰にも見せたがらなかったのだそう。
居室のアンティークな調度品、絵画作品、
中庭に見つかったローマ時代のモザイク、
庭に無造作に置かれた大理石彫刻など
芸術的価値の高いものがかなり残っていて
そのプライベートコレクションだけで
小さな美術館ができるといわれています。
トスカーナ州の所有ということで、
入り口を入ったすぐの広間には
色ガラスの大きな天窓が整備され
その真ん中にトスカーナ州紋であるペガサスが描かれています。
修復作業が完全に終了する2008年7月には
音楽イベントを行えるホールや
調度品などから当時の貴族の生活を垣間見ることのできる居室、
個人礼拝堂などの建物の一部が一般に公開されます。