どんな時代でも、なかなか利巧な人はこの世に発生するもので、都甲斧太郎などと言う人物名は、滅多に見ることも聞くこともないと思うが、勝海舟の「氷川清話」に出てくる、幕末の下級武士。馬の世話をする下級武士の中のちょっと上の位だが、なかなか利口だったから、黙って、オランダ語をコツコツ勉強していた。
その折り、馬の医者が、馬の病気に効果的な治療法がなく非常に苦労をすると言うのを聞き及んで、馬の病気の治療法を書いたオランダ語の本を取り寄せ、それを密かに読む。そこには、馬が内臓に石をため込んで(結石か雑草と一緒に飲み込むのか)、その病気が治せない。それには、アラビアゴムの溶液を希釈して飲ませると、非常に効果的で、治る、と書かれていた。
で、この人物の利口なところは、外国の知恵だなどと言ったら、どのような罰を受けるかもしれないので、希釈液を考案した風に治療に施すと、たちまち、馬が元気を回復する。当時の大名でも諸藩の殿様でも、馬は非常に大切な乗り物であって、治療費は惜しまない。で、彼はたちまち懐中具合が良くなって、家督を息子に譲って、郊外に立派な屋敷を構えて、隠居暮らし。金を持っているので、高額な洋書を好き放題買い込んで、悠々自適、研究三昧の日々を送っていた。
勝海舟が30歳前に知り合った人物で、当時65歳くらいだったとか。人見知りだが、海舟のことは気に入ってくれて、何度も通い、海舟が「先生」と呼ぶのだから、あれこれ、諸外国の事情を教えてくれたようだ。元気な老人だったが、ある日突然亡くなって、貴重な蔵書なども、価値を知らない息子などが処分してしまって、消え失せたとか。
いつの時代も、知恵を働かせて、大金を手に入れることのできる人間は生まれるものだ。ただ、福井にも、2、3の例を私は知っているが、続かないのも事実だが。