近年の新刊単行本は、老害か編集者の手抜きか出版社の悪意か分からないけれど、カットアンドペーストの記述が目立つ同世代の、大阪在住団塊世代ハードボイルド作家の黒川博行の、漫才のようなエッセイを読んでいると、3度家移りしていることが分かる。
結婚当初は、新築の三十坪ほどの土地に二十坪ほどの2階建安普請の借家住まい。子供が出来たので、本も売れて収入があったのか、二十五坪の4m幅の道路の突き当たりの土地を買って、お洒落な外観の鉄筋コンクリート打ちっぱなしの2階建の家を建てて住む。冬は冷え、夏はクソ暑いコンクリート打ちっぱなしの住宅の欠点を体験。バストイレ一体型のユニットが興醒めで(その当時、流行した)狭い通路と狭い土地に車の出し入れが不便なども加わって、売り出し、大阪府の住宅供給公社の抽選に当たって、土地56坪、木造2階建二十七坪のツーバイフォー建売住宅に移った。新築ながら、立て付けが悪くて、障子などぴったり閉まらない。
当時の流行のツーバイフォーは、接着剤とベニアと釘と南洋材柱の総合デパート素材で出来たプレ加工パネルを組み合わせて、建売住宅など建築知識ゼロの臨時雇い労働者やアルバイトが建てるし、第一、屋根が上がるまでに4日間かかる。運が良ければ、晴天が続くが、途中、夕立か雨の日に出会えば、内部の見えないところに湿気がたっぷり篭るので、何せ、大半がベニア板だから、当然設計どおりの立て付けが、あっという間に狂ってくる。
ただ、場所は表通りから2筋入って、静かで、土地も広いので、子供の成長と、自分たち夫婦の仕事場(奥さんは画家)を増築したりして、20年住み暮らした。
で、子供が大学生とか社会人になって、家を離れていったのを機会に、角地にたつ鉄骨造の地下室つき2階建の築20年を超えた中古住宅に住み替えた。多分、茨木や羽曳野という郊外から、もう少し便利な場所、つまり、大阪の中心部に近い場所に変わったのだろう。
で、その家が片方の道路はバスが通り、片方の道路は通勤車両の近道。家が揺れ、便利だがうるさい。地下室は湿気で全面改装を余儀なくされ、鉄板の雨樋が錆びて、流れた雨水に建物壁面は、みるも無残な状態に変わる。私も全て、経験しているので、30年も経過すると、屋上だけでなく、鉄骨陸屋根の建物の欠陥は手に取るように分かる。台風の風で、エアコンの室外機が落下して、ガレージの車を直撃するばかりでなく、常日頃しっかり、メンテナンスが必要になるのだ。
我が家の前後ろに最近建ったプレハブ住宅も、20年から25年後には、全く似たような経過を辿るだろう。
作家の黒川氏は、つまり、自分の老体同様、最後はそのオンボロ鉄骨住宅に諦めてしがみついているようだが、3度変わっても、満足のいく住宅には、なかなか巡り合わないという話。誰も、全く同様なのだ。
残念ながら、業者や政府の言いなりになって、一生に一度の買い物と言われて、精一杯の背伸びをすると、人生は甘くないことを知るばかりになる。