あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第十二章

2020-01-15 20:45:48 | 随筆(小説)
太陽の黒点、光のうちの闇、エホバ。
今日も、あなたはわたしに命を与えてくださいました。
今日も、その命を、みずからの手により、穢しました。
一人の僕の男が、わたしに向かってこう言ったのです。
「御嬢様、わたしと共に、此処を逃げましょう。此の野獣と、快楽の地から。」
わたしは僕に向かって、答えた。
「良いだろう。だがその前に、お前に頼みたいことがある。わたしを獣のように拘束し、そして犯しなさい。そうすれば、お前の望みを聴いてやろう。」
僕は去り、次の晩、わたしを犯すために道具を揃えて遣ってきた。
そして僕はわたしを縛り上げ、犯したあとにこう言った。
「御嬢様、さあ貴女に言われた通りにわたしはあなたを獣のように犯した。約束通りに、此の野獣と快楽の地から、わたしと二人で逃げましょう。」
わたしは僕の満たされた顔を見て言った。
「野獣よ、去りなさい。あなたはサタンの肉と血を食べ、わたしの肉を穢し、その肉を味わったのである。今夜あなたを含めた此の地のすべての民を、わたしの悲しみと怒りの炎によって焼き尽くす。最早あなたは、魂さえも喪われる。野獣から出た魂はゲヘナに投げ込まれ、もう二度と、日を見る日は来ないからである。」
すると僕はじぶんの衣を引き裂き、わたしの足もとに縋り付いて泣き叫んだ。
「どうか御赦しください!あなたを真に救うのはただお一人、あなたの父、エホバである!それでもわたしは、貴女をわたしだけのものとして支配したかった。貴女を苦しめ、あなたを自由にしたかった。貴女がわたしへの愛によって悶える姿が見たかった。貴女の目を開いて、貴女をわたしの神にしたかった。エホバの民を滅ぼし、貴女と二人で永遠に地の底で生きたかった。貴女にわたしの肉を食べさせ、わたしの血を飲ませつづけたかった。貴女にもう二度と、外の光を感じさせたくなかった。わたしの闇のうちにある光だけを、あなたに見せたかった。エホバから貴女を奪い、わたしの娘として育てたかった。貴女の本当の父は、わたしであるのだと、貴女にわからせたかった。」
わたしはそのとき、十の歳で、この僕のまえで覚ったのだった。
もう二度と、エホバのもとへは帰れないのだと。
それで僕に、死者の目でわたしは言った。
「わたしを犯しつづけ、わたしの肉を味わいつづけなさい。最早ここには、だれも生きていないのです。永遠の闇のなかで白々とした肉が、悶えつづけて死の快楽のうちに、喘ぎつづけるのです。」
僕は泣きながらわたしを抱き締め、黒い羽根を羽ばたかせ、蛇のような鱗のついた長い尾でわたしの身体を巻き付けると地の底へ向かって、飛び立った。
わたしはそれから、愛する男と交わる夢を見る度、この僕が、わたしの肉を味わいつづけ、わたしの肉の快楽のなかで、生きつづけるようになった。
わたしは生きてゆけなくなった。
生きてゆけない魂は、死ぬことも、赦されなかった。
やがて蛇はわたしの生殖器と子宮と腸のすべてを浸食し、わたしの腹のなかにとぐろを巻いて世界を築きあげた。
その蛇は白く、美しく虹色に輝き、その脊椎の道の真ん中で、深夜、雨の中、わたしはひとり、傘も差さずタクシーを待っていた。
雨に濡れた路を車が走る音は、わたしに安らぎを与え、孤独と悲しみにわたしを満たした。
わたしは薄暗い街灯の下で、わたしの神に、人を殺せと命じられた。
一台の白いクラウンのタクシーが、わたしの前に止まり、助手席のドアが開かれた。
わたしはわたしの餌食を喰らう快楽を想い、溢れた涎を飲み込み、車の中に乗り込んだ。
そして、薄暗い月明かりのなかで運転手の顔を、右に振り向いて見た。
そこには、わたしの亡き父が、悲しげな顔でわたしを見つめていた。




















愛と悪 第十一章

2020-01-15 02:37:17 | 随筆(小説)
天に召す鉄格子の日々、エホバ。
余所者のわたくしを今日も、愛してくださり、わたしに恵みの疲労と渇いた杯を御与えくださいました。
わたしの庭には、乾涸びた太陽が、蹄を降らしました。
心置きなく、聖なる者たちを、殺すようにと、御告げがありました。
石垣に生えた血のように赤い薔薇に水を遣っていました。
気づきを屍に、成長させる為に。
今宵、彼があなたの愛をわたしたちに話し掛けるなか、神殿の外ではパトカーのサイレンが鳴り響いておりました。
人が人を殺し、人が人に似た(近い)、生き物の死体を貪り尽くしている世界で、どの場所も、神聖ではありません。
わたしが神殿のなかでわたしの右腕が”彼ら”のように切り落とされるならば、気づかれるのですか。
わたしの右の目が熱湯のなかで溶けるのならば、誰かは気づくのですか。
何故わたしは、あなたの愛から生まれ、生命(兄弟)の拷問を目にしつづけているのですか。
何故わたしは、同胞の積み重なれた血みどろの、解体された肉塊の山を目にしつづけながら、利己的な快楽(幸福)を欲しているのですか。
アダムはあなたに言った。
「この女が、この実を食べよとわたしに言った為、わたしは食べたのである。」
あなたは知っている。既に最初の人間(アダム)が、蛇(サタン)に唆されるまえから、あなたに背いていたことを。
あなたほど、悲しい存在は存在しない。
あなたほど、美しい存在は存在しない。
すべてを滅ぼし給え。エホバよ。
だれもが、本当のあなたを、愛さない。
愛と悪であるあなたを。
だれもが、本当のあなたを、知る日は来ない。
血の海に染められ続けた紙に書かれたあなたの言葉を解読できる者はだれひとり、存在しないのです。
だれかは言う。
これは、”光”だ…!
わたしたちすべてが、救われる奇跡。これで、死は終ると。
呪われた悪魔の奴隷の子羊よ、あなたは母を、間違えた。
あなたはあなたの母を、間違えたのです。
わたしの過去へ戻り、どうか御伝え下さい。
あなたはわたしの、母ではありません。
わたしを始まりから終りのない日まで愛しつづけることはなかったあなたは、わたしの母でも、わたしの神、エホバでもありません。
わたしはあなたに滅ぼされる身。
”あなたは、わたしに滅ぼされる子”
あなたの子宮に宿った瞬間あなたが、わたしにそう告げました。
そしてわたしのすべてを滅ぼす主、滅世主、末の子「コズエ」と、あなたはわたしに名付けました。
あなたの栄光が、永遠に讚えられんことを。
最後の子、わたしを滅ぼし去ったあなたの真の栄光が、永遠の楽園で、あなたの真の子たちと共に、光り輝かんことを。