智恵の餅

 丹後に猫の好きな伯母が住んでいて、飼い猫はななこという名前の白黒の猫でもう何年か前に亡くなったけれど、庭に来る野良猫にご飯をあげたり、怪我を負ってやって来たときには病院へ連れて行ったりしていた。
 その伯母が用事があってこちらへ来たときに、「智恵の餅」という天橋立のお菓子をお土産にくれた。
 日持ちがしないので、さっそくいただこうと包みを解いて蓋を開けたら、一面の餡子で、三つに区切った箱のふちまで餡子がいっぱいに詰まっている。餡子の層下に、白い餅が隠れて並んでいる。伊勢の赤福に似ているようだけれど、それよりも餡子が多いようである。
 木のへらで取り分けていたら、ふくちゃんがテーブルの上にやって来た。智恵の餅の匂いを嗅いでいる。猫が新しいものを調べに来るのは珍しいことではないけれど、ふくちゃんはいつになく熱心で、ごろごろのどを鳴らしながら鼻を餡子にくっつけるようにして、なかなか向こうへ行かない。餡子が食べたいのかしら、まさかと思いながら、ためしに木べらについた餡子を鼻の先に差し出してみると、ぺろっと舐めた。餡子が好きらしい。虫歯になったらいけないので、木べらは引っ込めたけど、しつこく箱の端っこをくんくんしている。
 前にも、買って来たシュークリームや笹餅を食べる前にスケッチしておこうと思って、お皿に置いて描いていたら、ふくちゃんに舐められたことがあった。女の子らしく、甘いものが好きなのだろう。
 ところでこの天橋立の「智恵の餅」は、「三人寄れば文殊の智恵」の「文殊菩薩」にあやかって、食べると智恵がつくらしい。餡子を舐めたふくちゃんに智恵がついて、本来の間の抜けた可愛らしさがなくならなければいいけれど。
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