かめさんのたまご

(※虫の苦手な方はご注意ください。)
 夕方洗濯物を取り込もうとすると、シャツの右肩の下あたりに、直径1ミリメートルほどの球状のものが12粒、かたまってくっついていました。12粒が不規則についているわけではなくて、縦に4粒、5粒、3粒並んだ列が3つ集まって12粒です。
 この粒々がなにか知らなかったなら、「なんだこれ」と思うだけで、取り除いて捨てて、他の洗濯物と一緒に畳んで片付けていたかもしれませんが、私はこれがなんだか知っていました。カメムシの卵です。去年も、ベランダへ出る窓の網戸に生んでいったのです。
 去年の場合は、初め、網戸にとまってじっとしているカメムシを見つけました。ただじっとしていただけなのですが、その佇まいになんとなくただならぬものを感じ、「このカメさん、何かしようとしている」と思ったので、ちょくちょく様子を見ていました。
 何度目かに見に来てみると、もう10個ほどの卵が生みつけられたあとで、カメムシ母さんは、卵から1センチほど離れたところで、大仕事をやり終えてほっとした様子で休んでいました。
 虫の図鑑に、子どもをお腹の下にかくまって守るカメムシの写真が載っているので、このまま卵を見守り続けるのかしら、母親の鏡やなあと思って眺めていると、カメムシ母さんはしばらく休んだあと、「じゃああとは任せた!」とばかり、ブゥゥーンと身軽に飛び去っていってしまいました。
 私は心の中で「ま、待てぇー!」とカメムシ母さんのうしろ姿に叫びましたが、致し方ありません。網戸にくっついた10粒ほどの卵と一緒に、ベランダに取り残されてしまいました。
 特別カメムシが好きなわけでもありませんし、家の中に入って来られると結構迷惑ですから、10粒の卵から10匹の子カメムシが出てくるというのはあまりいい気持ちがしませんでしたが、カメムシ母さんの生みの苦しみを見てしまった私は、一応自分も出産経験者であることから、カメムシ母さんにシンパシーを抱いてしまい、とても網戸についた卵を取って捨てたりはできませんでした。
 そして6日後、黄金色に黒い縞の入った小さなカメムシの赤ちゃんたちが生まれて、みんなそれぞれに、新しい世界へ旅立って生きました。
 そんなわけで、今回シャツにくっついている12個のカメムシの卵も、そっとしておいてしまっているのです。シャツの卵を見つけたのが、台風が来る前の7月16日でした。去年の記録を見ると、1日違いの7月15日にカメムシ母さんが卵を産んで、6日後の21日に卵が孵っているので、シャツの卵ももうそろそろかと、どきどきしている次第です。



↓卵から孵った赤ちゃんカメムシを寄り目で観察するまる。
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