最近また悪魔が増えている。
あそこにも、ほら、あそこにも。
ガードレールに腰掛けたり、
信号機にぶらさがったり。
威嚇しているのか、
それとも隠れているのか。
こっちを見ている。
さほど不気味に感じないのは俺の感覚が麻痺しているせいだろうか。
やつらは意外と大人しくて、
見ようによっては穏やかな顔をしている。
一人、俺に話しかけてきた。
「調子はどうだい?」
俺は一応無視してから、
ちゃんと会話に応じるんだ。
「調子は悪いね」
こいつらは本当に悪魔なんだろうか?
俺には悪魔に見えるから、俺はこいつらを悪魔だと思っているだけ。
「俺は悪魔だけど悪魔じゃないぜ」
悪魔が言う。
悪魔だけど悪魔じゃないって何なんだ。
「俺は悪魔だけど悪魔じゃない。俺はお前だよ」
何となくだけど分る気がする。
夜ともなれば街頭が街をオレンジ色にする。
街の一部を温かく照らして、
影ばかりが冷たくなる。
影はノイズで出来ている。
ノイズは人間の体温を奪っていく。
逃げ込む先は音楽さ。
音楽だけが俺の心を救ってくれる。
人種なんてどうでもいいさ。
どうでもいいって言いながら、
俺は黒人の音楽を素晴らしいと思っている。
何も分らないけどそう感じている。
感じることを信じている。
信じるよりも感じている。
コンビニの前で足を止めた。
悪魔はもういなかった。
俺の歌はつまらないリズムで、
つまらないメロディをなぞっている。
今も昔もこれからも。
夜だというのに朝をイメージした。
さて俺はどこに行くんだか。
行く先なんて分らない。
交差点に立ちつくして考えてみようか。
「俺は悪魔だけど悪魔じゃない。俺はお前だよ」
少しだけ神様を信じてみようかと思った。
だけどそれはただの気まぐれ。
だけど俺は信じている、
人間って動物もそう悪くはないはずだって。
悪魔もそうさ。
「俺は悪魔だけど悪魔じゃない。俺はお前だよ」
そうかもね。
俺は悪魔かもね。
つまり人間なんだけど。
ブルースじゃない歌にブルースってタイトルをつけてもいいじゃないか。
だけど俺の歌はブルースじゃない、
ブルースじゃないんだ。