『絵のない絵本』アンデルセン - 上段左から 暁希 啓人 伊麗奈 萌花
第二夜
ある日の晩、月は私に話してくれました。
『私(月)は昨日、家に囲まれている、小さな中庭をのぞいていました。そこには1羽のニワトリと10羽のひよこがいました。ところが、そのまわりを、ひとりの小さな女の子が走りまわっていました。
ニワトリはびっくりして、ケコッコッコと鳴きながら、ひよこをかばいました。そこに、女の子のお父さんがきて、女の子をしかりました。
それで今日もまた、その中庭をのぞいてみました。すると、またあの女の子がひっそりとニワトリ小屋に入り、ニワトリのところに近付いていきました。
ニワトリは驚いて、鳴きながら羽をバタバタさせ、逃げまわりました。女の子ときたら、そのあとを追いかけるのです。私(月)は、その様子をニワトリ小屋の壁の穴からのぞいていました。私(月)は、このいけない子にすっかり腹が立ったので、その子のお父さんが女の子の腕を掴んで、昨日よりも強くしかったときは、ホッとしました。
女の子は、頭を後ろにそらすと、青い目に大粒の涙が光っていました。
「ここでなにをしているんだ。」
とお父さんは問いつめました。
女の子は泣きじゃくりながら
「きのうはごめんなさいってニワトリにキスしたかったの。でも、パパにそういうとしかられると思ったの。」
と言いました。
するとお父さんは、むじゃきで愛くるしいその子のひたいに、キスしてやりました。私(月)もその眼と口にキスしてやりました。』