[四「ニューヨークで③」からの続きです。ジュンサンの部屋で…]
「おはようございます。ミニョンさん」
家政婦のパクさんがやってきた。
いつものようにコーヒーを淹れてくれる。
「あら、お顔の色がちょっと良くないようですね。どうかなさいましたか」
「いや、大丈夫です。夕べ考え事をしていて、ちょっと寝不足なだけですから」
「そうですか。無理はいけませんよ。今日はお休みになったほうがいいんじゃあありませんか。…では、私は向こうに居りますから、御用があったらおっしゃってください」
その時ふいに、ジュンサンと姉の思い出を語るヒジンの言葉が頭をよぎった。
「ジュンサンお兄ちゃんが死んだとき、お姉ちゃんは悲しみのあまり死んじゃうんじゃないかと思ったくらいでした…」
もしも、もしも僕が死んだら…
君は耐えられるのだろうか…。
身を悶(もだ)えて嘆き悲しむユジンの姿が見えるような気がした。
心臓をえぐり取られるように胸が痛かった。
ユジン…、ユジン…、
僕は…どうしたら良いんだ…。
ジュンサンは眩暈(めまい)を感じた。
体がぐらりと傾き支えることができなかった。
「パクさん…」
[ジュンサンのかかりつけの病院]
気がついたとき、ジュンサンはベッドに寝かされていた。
「気が付かれましたか、ミニョンさん。ご気分はいかがですか。
やっぱりあの時お休みいただけばよかったですね。申し訳ありません。
奥様は今日お仕事でおいでにななれないそうでございます。とてもご心配なさってました」
「パクさんにも心配かけてしまいましたね。ごめんなさい」
「いいえ…、先生は、心労だろうとおっしゃってました。
大したことはないと思うが、念のため今日は病院で様子を見るようにと」
「パクさん、今日はもうお帰りになって結構です。ずいぶん超過勤務になってしまった。(笑)
また明日お願いします」
「そうでございますか。では、そうさせていただきます。
では、お大事になさってください。看護師さんにはお伝えしておきます」
翌日ジュンサンは一人で退院した。
「何か心配事でもありますか。ストレスも病気の進行の原因になりますから、あまり考え込まないように」と主治医から注意を受けた。
[自宅マンション]
家に帰ると、パクさんが待っていてくれた。
「おはようございます。だいぶお顔の色も良くなったようでございますね。何かお飲みになりますか?
今日はコーヒーでないほうがいいですね。ハーブティーにでもなさいますか?」
「ええ、そうですね、そうしてください」
ジュンサンがふと窓辺に目をやると、見慣れない小ビンがおいてあった。
「パクさん、これは?」
「ああ、昨日キムさんという方がおいでになって、渡すのを忘れたからとおっしゃって、ただ窓際において置いてくださいというので…。
入院していることをお話したらとてもびっくりなさってました」
そのとき、電話のベルが鳴った。
キム次長からだった。
「ああ、ミニョン、大丈夫か?申し訳なかった。俺が言い過ぎたよ。
あの後気になって、渡すものもあったし、行って見たら倒れたっていうから。…」
「もう大丈夫です。心配かけました。先輩にユジンのこと教えていただいてよかったです。知らないでいたら・・・・・
それより、先輩、あれは誰からです?まさか、先輩からのプレゼントですか?」
「あ、いや、そう思っててもらってもいいよ」
キム次長は言葉を濁した。
「ユジンからですね。黙っててくれっていわれたんですね」
「ああ、全てお見通しってわけだ。
お前もまさか手紙も寄こすなと言ったわけでもあるまい。直接送ればいいのに、ユジンさんも。
とにかく、この間は言いすぎたが、このままではだめだぞ」
「わかっています。ただ、先輩、もう少し待ってほしいんです。あの図面が出来上がるまで…、
ユジンに、まだ手術していないこと知らせないでください。
心配させてすみません」
「ああ、あわてなくてもいいが、お前の体が…待ってくれないと困るから…」
キム次長からの電話を切った後、ユジンからの贈り物を手にとってみた。
ふたを開ける。
潮の香がした。
母なる海の懐かしいかおり…。
ユジンと行った最初で最後の海…。
美しい思い出。
海―命の源…。
運命に勝てるコイン。
ユジンは僕を信じている。
ユジンは未来を信じている。
また必ず会えることを。
僕が元気になることを。
なぜユジンは信じられるのだ?
僕が死ぬかも知れぬことを知っているのに。
ジュンサンは、自分の心の内側を覗き込んだような気がした。
〈恐れているのは僕自身だ。
死を…
ユジンのいない世界に行くことを…〉
「おはようございます。ミニョンさん」
家政婦のパクさんがやってきた。
いつものようにコーヒーを淹れてくれる。
「あら、お顔の色がちょっと良くないようですね。どうかなさいましたか」
「いや、大丈夫です。夕べ考え事をしていて、ちょっと寝不足なだけですから」
「そうですか。無理はいけませんよ。今日はお休みになったほうがいいんじゃあありませんか。…では、私は向こうに居りますから、御用があったらおっしゃってください」
その時ふいに、ジュンサンと姉の思い出を語るヒジンの言葉が頭をよぎった。
「ジュンサンお兄ちゃんが死んだとき、お姉ちゃんは悲しみのあまり死んじゃうんじゃないかと思ったくらいでした…」
もしも、もしも僕が死んだら…
君は耐えられるのだろうか…。
身を悶(もだ)えて嘆き悲しむユジンの姿が見えるような気がした。
心臓をえぐり取られるように胸が痛かった。
ユジン…、ユジン…、
僕は…どうしたら良いんだ…。
ジュンサンは眩暈(めまい)を感じた。
体がぐらりと傾き支えることができなかった。
「パクさん…」
[ジュンサンのかかりつけの病院]
気がついたとき、ジュンサンはベッドに寝かされていた。
「気が付かれましたか、ミニョンさん。ご気分はいかがですか。
やっぱりあの時お休みいただけばよかったですね。申し訳ありません。
奥様は今日お仕事でおいでにななれないそうでございます。とてもご心配なさってました」
「パクさんにも心配かけてしまいましたね。ごめんなさい」
「いいえ…、先生は、心労だろうとおっしゃってました。
大したことはないと思うが、念のため今日は病院で様子を見るようにと」
「パクさん、今日はもうお帰りになって結構です。ずいぶん超過勤務になってしまった。(笑)
また明日お願いします」
「そうでございますか。では、そうさせていただきます。
では、お大事になさってください。看護師さんにはお伝えしておきます」
翌日ジュンサンは一人で退院した。
「何か心配事でもありますか。ストレスも病気の進行の原因になりますから、あまり考え込まないように」と主治医から注意を受けた。
[自宅マンション]
家に帰ると、パクさんが待っていてくれた。
「おはようございます。だいぶお顔の色も良くなったようでございますね。何かお飲みになりますか?
今日はコーヒーでないほうがいいですね。ハーブティーにでもなさいますか?」
「ええ、そうですね、そうしてください」
ジュンサンがふと窓辺に目をやると、見慣れない小ビンがおいてあった。
「パクさん、これは?」
「ああ、昨日キムさんという方がおいでになって、渡すのを忘れたからとおっしゃって、ただ窓際において置いてくださいというので…。
入院していることをお話したらとてもびっくりなさってました」
そのとき、電話のベルが鳴った。
キム次長からだった。
「ああ、ミニョン、大丈夫か?申し訳なかった。俺が言い過ぎたよ。
あの後気になって、渡すものもあったし、行って見たら倒れたっていうから。…」
「もう大丈夫です。心配かけました。先輩にユジンのこと教えていただいてよかったです。知らないでいたら・・・・・
それより、先輩、あれは誰からです?まさか、先輩からのプレゼントですか?」
「あ、いや、そう思っててもらってもいいよ」
キム次長は言葉を濁した。
「ユジンからですね。黙っててくれっていわれたんですね」
「ああ、全てお見通しってわけだ。
お前もまさか手紙も寄こすなと言ったわけでもあるまい。直接送ればいいのに、ユジンさんも。
とにかく、この間は言いすぎたが、このままではだめだぞ」
「わかっています。ただ、先輩、もう少し待ってほしいんです。あの図面が出来上がるまで…、
ユジンに、まだ手術していないこと知らせないでください。
心配させてすみません」
「ああ、あわてなくてもいいが、お前の体が…待ってくれないと困るから…」
キム次長からの電話を切った後、ユジンからの贈り物を手にとってみた。
ふたを開ける。
潮の香がした。
母なる海の懐かしいかおり…。
ユジンと行った最初で最後の海…。
美しい思い出。
海―命の源…。
運命に勝てるコイン。
ユジンは僕を信じている。
ユジンは未来を信じている。
また必ず会えることを。
僕が元気になることを。
なぜユジンは信じられるのだ?
僕が死ぬかも知れぬことを知っているのに。
ジュンサンは、自分の心の内側を覗き込んだような気がした。
〈恐れているのは僕自身だ。
死を…
ユジンのいない世界に行くことを…〉