「うわぁ、あれが飛鳥Ⅱなのね。おおっきぃ」
依子たち三人は、横浜大桟橋ふ頭に、係留中の豪華客船を見て叫んだ。初春の強風に髪を巻き上げられながら、横浜赤レンガ倉庫側の岸壁の柵に、並んで寄りかかっていた。
「十階建てのマンションが海に浮かんでいるみたいね」
「真っ白で綺麗。どんな人たちが乗って、世界一周するのかしら」
「一人ずつ飛鳥をバックにして撮ろうよ」
五メートルほど離れてカメラを構える徳子。笑顔を向けて孝江がポーズを取った。
強風があおった。
「うわーっ」
孝江の体が一旦海側に揺らいで、瞬時に、赤レンガ倉庫側に戻った。
「気をつけてよっ」
依子は近寄ろうとしたが風に遊ばれて危険だ。孝江が風に逆らって身を低くした。
「ここで、海に落ちたりしたら『自殺か事故か』ってニュースになるわよ」
徳子が笑いを堪えて言う。依子も付け足す。
「『どう見ても、夫婦仲はよさそうでしたよ』って、近所の人が言ったりして。『何があの奥様にあったのかしら』なんてさ」
「私達は、『お互い、干渉しあわない付き合いですから、分かりません』って、答えるわ」
二人を睨んだ孝江が、岸壁から離れて改めてポーズを取った。飛鳥・Ⅱは大きすぎて、全体像が画面に入らない。
三人が見ている間に、初航海前の飛鳥・Ⅱに、小型タンカーが後進しながら近づいていく。強風にあおられた。
「ドン」と音がした。接触したらしい。
翌日の新聞一面中央に、飛鳥・Ⅱと小型タンカーの写真が載った。
江南文学56号掲載済「華の三重唱」シリーズ
初老の孝江と依子と徳子のプチ旅物語です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
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