ちょっと待って!

見たこと聞いたこと、すんなり納得できません。あ、それ、ちょっと待って。ヘンじゃありません?  ヘンです。

燕のいる季節 1

2011-06-19 22:24:29 | 雑記・エッセイ
 車は3日間ずっとあった。ほんとうに3日かと訊かれたら、4日だったような気もする。本当に4日? と念を押されたら、5日だったかな? 他人の家の車が何日間動かずに置いてあったかということなど、本当ははっきり判らないものだ。
 3日の午後、外から帰って来たら、向かいの人が素早くそばへ来て、囁いた。
「ここの人、亡くなられたようですよ」
 うちの東隣のT川さん宅を目で示す。
「救急車が来て、そのあとパトカーが来てましたよ」
 T川さんは一人暮らしだ。5年ほど前に奥さんが亡くなって、結婚した娘さんはT川さんとは仲が悪いのか家へ寄りつかない。息子さんは他県に住んでいる。
 4月の初めに、植木に水をやっていたらT川さんが箒片手に横へ来て、「花の好きな人は優しいんやそうですね」と言った。T川さんの奥さんは病身で、なんの花も植えてなかった。家の周囲全部コンクリートで固めて植木鉢一つ置いてなかったのは、T川さんの好みだと思っていた。
「水遣りもタイヘンですやろ。うちのヤツは病気やったから、なんにもせんかった。かいもんにも行けへん、料理もせん、掃除もせん。その代り、一人になっても困れへん。けどなあ、喧嘩相手にはなったから、おらんようになったら寂しい。一人には家が広過ぎる」
「晩に、よう遊びに行かれるんでしょう?」
 車が帰らない夜がよくあった。
「警備の会社へ行ってますねん。遊んでても仕様ないから」
「そうやったんですか。」
 同じような寡の飲み友達か女の人がいるのだと思っていた。小柄だったけど、若々しい顔の人だった。


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