たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

仮処分の日米比較 <NHK 入国禁止の大統領令への仮処分>を見て

2017-02-07 | 海外との交流と安全の道筋

170207 仮処分の日米比較 <NHK 入国禁止の大統領令への仮処分>を見て

 

今日は一日、ある事件の記録を整理していて、気がつくともう夕方で、仕事も終える時間に近づいていました。さて、なにを話題にしようかと考えてみたのですが、たまたま仮処分がらみのニュースがいくつかあり、改めて日米の制度的な違いに驚いたことについて、触れてみようかと思います。とはいえ、自分の狭い体験と、思いつくままの走り書きです。

 

NHKウェブサイトニュースでは、2619時の段階で、<入国禁止の大統領令への仮処分 裁判所が6日にも再び判断か>とありますが、それ以降新たなニュースはCNNでも掲載されていませんでしたので、まだ控訴裁判所の判断は下されていないようです。

 

大統領令の内容も驚きですが、連邦地裁の判断もその迅速さ・結果の重大さも含め、これまた二度のびっくりです。経過の概要を少し追ってみたいと思います。

 

127日 トランプ大統領は7カ国から米国への入国制限の大統領令に署名。

130日 ワシントン州は違憲として連邦地裁に提訴。

23日 シアトルの連邦地裁は大統領令の一時差止命令。全米の入国管理当局を拘束。

24日 連邦控訴裁判所は地裁決定の効力停止の申立を却下。双方に6日までに意見書提出を求める。

 

このスピーディな動き、これがアメリカの行政であり(但しトランプ氏の場合は異質でデュープロセスの観点からも疑問がありますが)、司法なのかと、驚くばかりです。この内容については、地裁決定がウェブ上にアップされているので、時間があれば触れてみたいと思います。

 

で、今回はわが国の司法制度との違いを時間的なもの、審理手続きてきなものについて、若干、思い出しながら触れてみようかと思います。

 

ところで、今朝の毎日は<本部の使用禁止求める 京都市>の見出しで、京都市に本部を置く会津小鉄会のトップ人事をめぐって激しく抗争が起こっていることから、京都市が自ら申立人となってその使用差止の仮処分申立を行ったことが報じられています。

 

通常は、近隣住民が行うような仮処分ですが、自治体自体が行うというのは珍しいというか、当事者適格性の点でも、思い切った対応だと思いますが、地域の平穏や安全・安心を担う行政府として今後はより積極的な司法手続きを活用することを期待したいです。

 

ただ、この使用差止仮処分ですが、わが国の仮処分の審理においては、こういった現状を大きく変更し、利益侵害の程度が大きいため、双方審尋という形で、両当事者の主張立証を尽くさせ、場合によって本案審理(通常の訴訟で行われる本格的な審理)と類似の形態をとることもあります。

 

申立人側は、申立に当たり、この抗争による周辺住民に危害を与えるおそれが大であることを、さまざまな証拠により立証する準備を十分にして行います。この紛争が生じたのがいつかは分かりませんが、京都市のスタッフ、弁護士が相当集中して作業したのだと思います。

 

で、申立が受理されれば、相手方に反論の機会を与えるため、通知します。それではトランプ氏流にいえば、その間に現実の被害が発生するおそれがあるではないかということになりますが、それは相手方の防御権の行使のため、やむを得ないとされています。

 

この期間は数日というのもあるかもしれませんが、一週間程度の場合もあるでしょう。緊急性とその蓋然性の程度によるでしょうね。

 

東京地裁はわが国では数少ないこの仮処分など一時的処分を審理する保全部があり、しかも担当する裁判官も多く、最も充実した審理を行うところといっていいと思います。他の地裁は普通部と掛け持ちで、独立した保全部を持っていないところが大半です。

 

そうすると、一般事件(これは審理の期間が1ヶ月ないし1.5月程度)を持ちながら、緊急を要する仮処分事件などを迅速にできる体制にあるかというと、なかなか難しいところです。

 

私は20年くらい前45年、東京地裁保全部ばかりで審理するような仮処分事件を主にてがけていました。通常、2週間以内の期日で、双方が主張立証し合い、せいぜい3ヶ月以内くらいで決着がつくというのが多かったように思います。時には和解で解決しますが、多くは決定で決まりますが、いずれが敗訴しても、続いて本案訴訟に移り、長丁場の闘いになります。

 

とはいえ、開発工事を争うような場合、危険性が争点だと、その危険性の有無について、地盤工学の専門家や地質学者、施工管理者など多数が証言に類する方法で、関係者も大勢が傍聴する形で、審理されるので、ほとんど本案審理に近い進行もあります。その場合1年ないし2年くらいはかかります。これが仮処分の審尋かと思いますが、このような審理ができるのは、工事が事実上ストップしている場合です。

 

ところで、連邦地裁の対象としたのは大統領令ですね。こういった行政命令については、私人同士の紛争と異なり、行政事件訴訟法という、行政機関の処分を対象とする法律がわが国ではあります。アメリカもそのはずですが、私は詳しくないので、決定文を丁寧に読まないと根拠法令がすぐには分かりません。

 

さて、原発に関しては民事・行政訴訟さまざまの手法で各地の原発訴訟が係属しています。運転差止といった民事訴訟や仮処分、計画認可申請差止とか、仮差止とか、定険終了書交付差止め、仮の差し止めといった行政訴訟、それぞれの原発の状況や進展段階に応じて工夫しているようです。この違いを整理するのはウェブ情報で確認するといいかもしれません。いずれにしても長時間の審理を要しています。

 

もう一つ重大なテーマである、国家の安全、地域の安全という相克する問題がクローズアップしている辺野古埋立承認取消訴訟も、1312月の公有水面埋立承認処分に対し、141月に執行停止申立がなされていました。国家の施策に対峙することの困難性を感じさせる状況です。国の安全保障という大きな枠組みの中で、沖縄の独立した地位確保や辺野古の海の環境保全というものが、適切に審理されてきたか、十分検討されるべきかと思いますが、第一次の訴訟は確定し、すでに埋め立て工事の準備作業が進行しています。

 

わが国では執行停止や仮差止といった、行政処分を一時的に停止する裁判所の命令を獲得するには、行政事件訴訟法上、厳しい制約があり、ほとんど認められない状況にあります。

 

私も鞆の浦埋立免許差止訴訟では、当初より参加しましたが、免許申請の仮差止という、当時としては例がない手法で問題提起し、長時間かけて相当な審理ができたおかげで、その申立自体は却下されたものの、決定文の中で一定の申立の利益を認めてもらい、とくに本案訴訟では、大量の主張立証の資料を割合短い時間で審理してもらい、勝訴判決を得ることができ、こういった仮差止の制度も一定の効果をもつことを理解した次第です。

 

と長々と、書いてきましたが、わが国の仮処分や仮差止といった制度は、とても慎重な審理で、時間がかかり、果たして本来の機能を果たしているか疑問を感じています。

 

他方で、アメリカの今回の連邦地裁の判断は、申立後4日目で決定しています。しかも全州に影響を及ぼす画期的な判断をです。そして連邦控訴審も、さほどの時間をかけずに、判断を下すのでしょう。いずれ、連邦最高裁での判断となるでしょうが、それにしても早いと思います。

 

当然、裁判官一人がなし得ることではないです。代理人である弁護士が、おそらく膨大な数で徹夜状態の中、主張立証しているのでしょう。むろん、決定文は7頁ですし、争点は大統領令が違憲かどうかといった、法律論ですので、詳細で具体的な事実関係の主張立証を要しないこともあるかもしれません。とはいえ、政権側としては、入国を制限しないと、テロの危険が現実化するという点について、相当明確な蓋然性を示さないと、人権侵害のおそれが大ということで(こちらの主張立証は容易ではないかと思うのです)、結論が出やすいかもしれません。とはいえ、国民の安全保障の問題は大統領の専権事項といった議論が成立するのかは、わが国で昔、当たり前のように議論された統治行為論的な問題と似通っている気はします。


Ed Straker氏による

'Muslim ban' injunction is a judicial coup against President Trumpは、彼が現在、連邦最高裁判事候補者に指名されているNeil Gorsuch氏と同窓だったそうで、有力な弁護士のようで、そのコメントも参考になるかと思います。上記文書中にある、とくに彼が自ら手に入れた決定文、the rulingはダウンロードできるので、関心のある方は是非一読されたい。


 

それで、決定文の内容に移りたいですが、ちょっと斜め読みした程度では、理解できるものではなかったので、また別の機会にしたいと思います。三権の分立と司法の独立、仮処分の意義みたいな視点から、憲法や法令の疑義について慎重な審理がなされるまでは、これらと抵触するおそれのある大統領令を一時停止するといったような判断に読めますが、これは自信がありません。

 

関心のある方は、丁寧に決定文を翻訳されるとよろしいかと思います。

(今朝、昨日リンクしていた情報を再度入手して、リンクしましたが、この作業に結構かかります。がいつか見るとき、資料を見つけ出すのが容易かもしれない、といって、そのまま反古になるのが過去のパターンですが)