170217 土地の売買と汚染の責任 <格安の謎 評価額9億円、大阪の学校法人へ1億円で売却>を読んで
今日は終日寒さをあまり感じない一日でした。どんより曇っていて、小雨も時折降ってきましたが、春雨じゃ、濡れていこうなんて気分にさせてくれます。
とはいえ午前中は病院にでかけ、午後は打ち合わせで、いつの間にか夕方になってしまい、今日のブログは何をテーマにしようかとちょっぴり悩んでしまいます。もう限られた時間なので、軽く仕上げないといけないので、ちょっと気になった見出しの記事を、過去の経験談やいま話題の豊洲土地売買をからめて料理できるか、書きながら考えてみようかと思っています。
この事案、少しウェブ情報を見ると、買主の学校法人が幼稚園を経営していて、教育勅語を園児に唱和させたり、理事長は憲法改正を求めている日本会議大阪の役員で、取得した土地で小学校を今春開校予定で、「日本初で唯一の神道の小学校」、しかも名誉校長が安倍首相の奥さんといったことが別に話題となっているようです。
ま、そういった話題はとりあえず脇において、土地売買そのものについて、少し言及したいと思います。土地は面積約8770㎡で、国有地。その鑑定額は9億5600万円で、地下にゴミがあり、国が見積もった撤去・処分費約8億円をそこから差し引き、買主の学校法人「森友学園」には1億3400万円で売却されたとのこと。
私はこの記事を見て、まずこの撤去・処分費をどのような調査および資料で見積もったのか疑問に思ったのが気になった最初です。一体どのようなゴミが地下に埋設されていたのか、どのように調査したのか、わかりません。というか、通常土地の売買では、こういった地下埋設物というものが瑕疵に該当するかどうか、その取引内容・その後の土地利用との関係で、当事者間で詰めるわけですし、当然、その前提としてボーリング調査などをして、廃棄物の性状や汚染の有無、有害性の有無程度を調査するわけで、そういったものがまったくわかりません。
記事からすると、一般廃棄物、事業系のものといったイメージもありますが、実際は、地下を掘削して、性状を確認しないとわかりません。
私自身、以前、川崎市鷺宮のマンション建設差し止め訴訟で、驚くべき経験をしました。その土地は元学校敷地で、土壌汚染対策防止法上、その利用来歴や一定の荒いボーリング調査では、廃棄物の存在は判明していなかったのです。そして、訴訟は東京地裁で本格的に争われ、現場検証を実施する計画になっていたところ、突然、業者側からすでに5階くらいまで立ち上がっていたのを中止するので訴訟を取り下げてほしいと提案されたのです。
その理由は、地下掘削工事をしていて六価クロムなど有害廃棄物が大量に発見されたということで、マンション建設を断念することになったことがわかりました。その後、売主である電鉄会社は買主の著名不動産デベロッパーに百数十億円の損害賠償をしたというニュースも報じられていました。そして今度は、その大量不法投棄されたのは、川崎市が行ったものだということで、川崎市相手に、50億円近い損害賠償を求めて、公害等調停員会に責任裁定を求め、見事に請求を勝ち取りました。ところが、川崎市がその裁定を争い、東京地裁に債務不存在の確認訴訟を提起して、今度は川崎市が逆転勝訴したという報道まではわかっています。
なぜこんなことを書くかというと、土地売買において、地下埋設物の処理責任が誰にあるかは簡単には論じられないということを、この紛争の経緯からもいえるのではと思っています。実際、土壌汚染をめぐる訴訟は、最近増えているように思います。当然、事業者同士であれば、事前に地下埋設物の有無、調査の方法、調査結果を踏まえて、どのような責任を双方が分担するかを詳細に取り決めるのが普通です(法令や文献をもとに書いていませんので、ここは大ざっぱと思ってください)。
本件の売買で、地下の廃棄物がどのようなもので、それが学校敷地として、どの程度処理しないといけないものか、どのように検討されたのか明らかでありません。というか、他のウェブ情報では、一旦、当該土地は、学校法人に代金を支払う資金がないため、10年間の定期借地権契約をして、使用を開始したというのですから、すでに工事開始した後に見積もった可能性があります。つまり、工事に入り、地下掘削をしているときに、廃棄物を発見したというのではないかとも思われます。
しかし、地下掘削したといっても、写真で見る限り、小学校の建物は2階建てか3階建てのようですので、まさに低層建物で、地盤が軟弱でなければ、地下掘削はわずかで済みます。仮に軟弱地盤で杭基礎だとしても、さほど広範囲に掘削したとは考えにくいのです。すると、廃棄物の全体像を把握できないでしょう。また、豊洲と異なり、安全・安心対策と言っても、有害性のある廃棄物の可能性は一応低い(川崎の事例では事業系廃棄物でしたがきわめて有害廃棄物が大量に埋設されていたので、それだけではわかりません)とはいいうると思います。それでもどのようにして高額の廃棄物処理費を見積もることができたのか、それを明らかにしないと、国有財産の処理としてずさんと指摘されても仕方がないでしょう。
豊洲の土地の売買における土壌汚染の扱いの不可解さ、秘密裏に行うやり方は、それ以前にも、東京都はクロム鉱滓を大量に埋設していた工場敷地を買い入れた際も、適切な土壌汚染対策について検討していなかったため、後日裁判になり、不徹底な和解解決を行い、結局、その事後処理が不完全なため、長く汚染処理対策が近隣住民との間で紛争となっています。
むろん事業者同士であっても法的処理が不完全なことが少なく、後日裁判で争われることもありますが、公共財産の場合、とりわけ随意契約などで行われる売買では、第三者の監視が不可欠ではないかと思っています。
今回の土地売買でも、では学校用地として、適切な処理が行われたのか、それは一切明らかとなっていません。売買代金の多寡といった経済的価値の問題にとどまらないのです。この学校法人には資産があまりなく、定期借地権契約にしたという経緯からすると、用地の地下にどのような廃棄物が埋設されていたか、その調査は適切に行い、また、埋設されていた廃棄物はすべてとまでいいませんが、だれもが安心できる範囲で把握し、また、適切な処理が行われたという、データ資料の開示がなされないと、安心できる内容ではないと思います。
この学校法人は、教育勅語や神道を大事するようですが、健やかな精神を育てるためにも、安心できる学校敷地を提供することがなによりも肝心だと思います。当初、風評を心配して、売買代金の公表という国有財産の管理原則に反してまで、拒否したとも言われているわけで、その公正さや真摯さに疑問を感じています。ないよりも公明正大が大事ではないかと思うのです。臭いものに蓋をといった考えでは、子供たちに健全な精神を育むこともできないおそれすらあります。今後の対応に期待したいと思うのです。そうでないと、豊洲問題の二の舞のように、いつまでも後を引きかねません。
ついでながら、学校用地の取得について、より慎重な態度が求められるのではないかと思っています。中には戦時中に爆弾が投下され、不発弾として残っているような敷地だという話も関係者から聞いたことがあります。先述の川崎のマンション敷地も、元は学校用地ですが、その取得時に、きちんと調査されないまま、長年にわたって校庭、運動場などとして、児童にとって場合によっては危険にさらす事態をまねいていたのです。
むろんクロム鉱滓やその他有害物質も、地中にある限り、あるいは地下水や他の化学物質などと触れ合うようなことがなければ、安定した状態で、危険性はさほど心配することがない場合が多いでしょう。しかし、地下をいったん掘削等で開けたりすると、大気にさらされたり、地下水脈の変動などにより、有害性が顕在化するおそれがあるわけです。
土壌汚染対策防止法では来歴調査で、過去に有害物質等を製造加工するといった工場など一定の危険性のある土地利用がされていないと、徹底した調査も行われないのが通常でしょう。しかし、実際のところは、不法投棄が各地で行われてきたのは事実であり、長年経過すると、その不法投棄の痕跡が見えなくなり、日本中、どこに爆弾というか危険物が潜んでいるかわかりません。その意味で、土地の売買は、価格や土地利用規制、土地の外観などを元に、安易に考えるべきではないと思います。
そろそろ時間となりました。文献資料をまったくチェックする余裕がなかったので、今日も大目に見ていただこうかと思っています。