第15話「恋愛術の定石」
エレベーターの中のジノンとヒジンを見たサムスンは、厳しい顔。
ヒジンは彼女のことが気になって、やはり帰るという。
ジノンはサムスンに事情を説明するが、受け入れられない。
彼女が一晩泊まるというなら、私も一緒につきあうから。
「何でも作ってあげるから言って」
「お願いするわ。でも明日にして」
「じゃ今日はお泊まりね。ソファで寝るけどいいでしょ?」
気まずいヒジン。やはり今から家に帰るという。
サムスンもこれ以上主張できない。
ジノンの困っている様子もわかるから。
「私が帰ります。彼女の面倒、見てあげてね」
恋は苦しいことばかり。恋なんてするもんじゃないね。
それでもジノンからのフォローの電話で少し元気が出るサムスン。
「……ま、やっぱり恋も悪くないわ」
ソファでひとり眠るジノンを見て、ヒジンは夜中に帰って行った。
翌日サムスンは、約束通りおかゆを作ってヒジンに差し入れに行く。
「ちゃんと食べてよ。食べたら帰るから」
押しつけがましいサムスンの態度に、ヒジンは内心ムカムカ。
おかゆを流しに捨ててしまう。
「あんた何様よ。拒食症なんて贅沢なんだよ!」
「いいから帰ってよ!」
ついにヒジンはサムスンの髪をつかんで引きずり出そうとする。
「離しなよ!」
「メーワクなのよ!」
つかみ合いのケンカが始まった時、ヘンリーが部屋に入ってきた。
「君たち何やってるんだ!」
点滴を打ってもらって横になるヒジンの横で、
ヘンリーとサムスンは花札の授業。
カモられそうなヘンリーを見かねて、あきれていたヒジンもゲームに参加。
ふたりでサムスンを負かす頃には、ヒジンにも笑顔が戻っていた。
「君は気づいてないんだ。僕の横で、確実にときめいていることにさ」
ヘンリーが帰った後、ヒジンはサムスンのおかゆを食べてみた。
おいしかった。意外なことに、おかゆは本当においしかった。
ヒジンは、アメリカに帰ることに決めた。
「私を送ってくれる?これが、最後だから」
ジノンはその願いを受け入れた。
ジノンはサムスンとミジュと一緒に水族館へ行くことに。
大きな水槽を見て回って、ミジュと親子のように笑いあって。
楽しい一日を過ごした夜、ジノンはヒジンのアメリカ行きを伝える。
そして、自分が彼女を送っていきたいと正直に話すのだ。
彼女の最後の頼みだから。彼女は、大事な友達だから。
サムスンは、さすがに納得できない。
「絶対に許せない。行くなら私と別れてからにしてよ!」
「バカなことを言うな!残念だよ、理解してくれると思ってた」
「彼女に直接談判してくるわ!」
「いい加減にしろよ!みっともない!」
言い争うふたりのところに、ミジュが泣きながら起きてきた。
「叔父さんなんか大嫌い!ケンカしないで、仲良くして……」
大泣きするミジュ。
彼女はずっと忘れていた言葉を取り戻したのだ。
ミジュをいとおしそうに抱きしめるジノン。
サムスンの目にも涙がにじんだ。
ジノンはサムスンを家まで送っていく。
「アメリカには行かないよ。これで満足?」
「反対しなければ行くつもりなんでしょ?
行こうと思ったこと自体不愉快よ。いつも三人でいるみたい。イヤだわ。
ほんとに気分が悪い」
サムスンは振り向きもせず、家へ入ってしまった。
ケンカ別れして以来、意地を張りながらもお互いが気になるふたり。
会いたいけれど、素直になれない。
サムスンはヒジンにもう一度会いに行った。
「彼に送ってと頼んだの?どうして?」
「理由を言うつもりはないわ。彼がイヤだというならあきらめる」
「未練があるの?彼が戻ると?」
サムスンの言葉に、静かに答えるヒジン。
「思い出は無意味だというの?でも、消えてしまうことはないわ」
ヒジンは、ふたりの思い出に敬意をはらいたいのだ。
お別れ旅行なんだと思ってくれればいい。
「は、大層な思い出でございますね。人の男を連れて行ってさ」
ぶつぶつ言うサムスンに、ヒジンはおかゆの容器を差し出した。
「キムチの容器はまだ返せません」
容器をふってみてサムスンはちょっと驚いた。
「食べたの?」
「食べました」
「捨てずに?おいしかった?」
「ええ」
「気持ちを込めたからね。
……彼は行かせない」
家に戻ると、門の前でジノンが待っていた。
「ヒジンさんのとこに行ってきた。荷造りすんでた」
「行かないよ」
「行ってほしくない」
「俺を信じろよ」
でも、もし許したら、行きたい?
私が行っていいって言えば、行きたいの?
ジノンは行きたい。ヒジンを送ってやりたい。
「1週間だけ?ほんとに1週間で戻る?行ってくれば?
私の気が変わる前にさっさといっちゃってよ」
ジノンはサムスンを抱きしめた。
「さすがキム・サムスンだ。理解してくれた。ありがとう」
「あんたのためじゃないわ。その方が私が楽だから」
「改名してもいいよ。僕はサムスンの方がいいけど」
「ヒジンさん、私のおかゆを全部食べたんだって。だから大丈夫よ」
「ありがと」
これまでことごとく邪魔されてきた改名申請。
今日はなんの妨害も入らず、問題ない。
いざ、申請書類を出そうとして、サムスンは考え込んだ。
サムスンがいいと言ってくれたジノン……。
サムスンは自分の手で、改名申請書を破り捨てた。
恋は本当にバカげてる。
ジノンがたって1週間が過ぎた。
長い長い1週間。そして彼は、帰ってこなかった。
(つづく)
心ゆれますなぁ、サムスン姐御。
自分の男を行かせたくない。
まだまだそんなヨユーはないもんね。
人の心は変わるってことはよくわかってる。
だからこそ、行かせたくないんだなー。
あんたたち、終わったんでしょ!すっぱりあきらめなさいよ!
と言いたいサムスンでしょう。
どうして昔の女にそんなに優しくしなきゃいけないのよ!
ただねー、ヒジンの気持ちもわからなくはないのよ。
負け犬みたいに惨めに帰って行きたくないんだよなー。
自分が病気と闘い尽くしたフィールドに戻って、
ほんとに心の区切りをつけてジノンと別れたいんだね。
あなたと離れていた間、ここでこんな風に生きていたの、って
自分の3年間を見てもらいたいのかもな。
どうなんだろうねぇ。
男って、別れた女と友達でいたいもの?
私はイヤかな。
できれば二度と会いたくない。
嫌いで別れたわけじゃないなら、なおさらさ。
友達でいられるんなら、最初から最後まで友達でいるっつーの。
ヒジンが気まずい思いをしているとわかっても、
ぐいぐいと踏み込んでいくのがサムスン流ですね。
このへんの図々しさは彼女の個性なのか、年の功なのか。
「体が健康であってこそ、心も健康でいられる」ってのは
健康優良児が好きなこといってら、みたいな気になるのですが、
食の大切さを知っている彼女ならではの持論でしょうか。
恋人の元カノの健康状態なんてどーでもいい、と切り捨てられないのが
サムスンの優しさなのか。
それとも、罪悪感をいくらかでも払拭したいのか。
ヒジンを元気にして、ジノンの心残りを一掃したいのか。
どの部分も少しずつあるんだろうな。
個人的にはいろいろ思うところもあるけど、
サムスンがおかゆに込めた心は本物。
それが伝わったからこそ、おかゆはおいしかったし、
全部食べられたヒジンはもう大丈夫。
それに肝心のジノンが行きたがってるんだから、
許すしかないでしょうよ。
ここで度量の大きいとこを見せとかないと、後々禍根が残るよ~。
これはわたしだって許す。
だってそのまま帰ってこないような男なら、
引き留めたって続くわけないもん。
黙って行かせて、ジノンの心もスッキリさせておきたい。
で、結局帰ってこないジノン。
いや、まさかね~。
このまま終わりってこたぁないでしょ?
次回はもう10年後とかってことはないよね?
ミジュはしゃべれるようになったし、
なんだかんだいってイ料理長とサムスン姉は会ってるし、
裏切り者のキバンはイネに猛アタックしてるし、
いろいろ進行形なんですけど。
次回最終回、どんな決着かな?
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