《あらすじ》
ユシンが風月主になるためには、あらゆる疑いを晴らさなければならない。
復耶会とのつながりを否定できなければ、風月主の道はない。
「彼らは当家の土地を耕しているだけです」
ユシンはそう言うしかないのだが……。
状況証拠だけでこのような扱いは不当だと、ユシンはソルォンに訴える。
ソルォンは、ユシンが風月主になり、疑いも晴らせる道を探ろうと提案する。
「復耶会の首領の首をとってくれば、この問題は解決だ」
トンマンたちは再び罠にはめられたのだ。
復耶会首領の首を差し出せば、伽耶勢力の後ろ盾を失う。
彼らを守れば、風月主になれない。
このままでは、身動きが取れない。
ミシル側は、ユシンを手に入れたいのだ。
確実にユシンを手に入れるためには、状況証拠ではない確実な証拠がいる。
チュンチュは、毎日宮殿を出て遊び歩いている。
ミセンと一緒に酒を飲んだり、女性を眺めたり。
トンマンも王妃も、頭がいたい。
ムンノは、ユシンのことを心配して話を聞こうという。
ユシンは、伽耶民に無償で土地を与えたと正直に話した。
それが知られたら、はっきりした証拠になってしまう。
ユシンは、伽耶の人々が生きる道は、新羅で三韓統一の夢を
見ることだと信じ、何があっても伽耶民を売ることはない、と断言した。
ムンノは、真っ直ぐすぎるユシンが心配だ。
あきらめることもできず、降伏することもできず、
諸国を放浪するしかなかった自分の二の舞になりはしまいかと。
ピダムは、師匠ムンノの言葉を思い出し、ひとり笑う。
「一緒に発とう」と言われても、嫌だ。
ピダムは、三韓地勢を手に入れようと寺へ向かったが、すでに箱は空になっていた。
ウォルヤはソルチを伴ってユシンを訪ねた。
ソルォンの言うとおり、ソルチを差しだそうという提案だ。
風月主をあきらめれば、罪を認める事になる。
犠牲の少ない方を選ぶのが最善だ、と。
ユシンは、それではミシルと同じだと反発する。
そして風月主をあきらめると、ミシルたちに言うのだ。
「ポジョンを風月主にするおつもりでしょう?
しかし、それで皆が納得するでしょうか?
ポジョン郎は風月主として胸が張れますか?
できるというなら、私は身を引きましょう。
状況証拠だけで、私をおとしめ、どう収拾をつけるのです?」
ユシンは強気で発言するのだが、ミシルたちは決定的な証拠を握っていた。
伽耶民からの租税を取らないという証書だ。
その証書は、密偵がソヒョン公の館から盗み出し、ミシルに渡したものだった。
そのような決定的証拠があれば、ユシンは国家反逆罪ですぐさま重罪犯だ。
兵部に引き渡されても文句はない。
それをしないミシルたちの本音とは?
「彼らは、ユシン郎が欲しいのです……」
トンマンは、そんなことはとても耐えられないと心で思う。
トンマンは、復耶会の首領としてソルチを差しだそうとユシンに提案する。
「いけません。そんなことをしたら、次々に誰かを差し出さねばならなくなります」
「ええ、そうすればいい」
「王女様!おわかりになりませんか?」
ソルチを差し出せば、伽耶民と復耶会を関連づけられてしまう。
ユシンが折れなければ、伽耶民が次々に謀反の疑いをかけられて、殺されていく。
危機に陥る度に、自分の民を差しだそうというのか?
「では私に、ユシン郎を差し出せと?」
トンマンの声が震える。
「口に出さないから、ユシン郎への思いが小さいとでも?」
ユシンはトンマンの告白に一瞬目を見開くが、それでも言葉を続ける。
「これは王女様の選んだ道です。王になる道が楽だとお思いでしたか?」
王とは、自分を犠牲にしてでも民を守るもの。
他国の人間を殺しても、自分たちを守ってくれる王を民は望む。
ユシンはそうするつもりだし、トンマンにもそれを望むのだ。
「でも、私は……私は……」
トンマンは、涙をこらえられない。
「お一人で進むべき道です」
ユシンは真っ直ぐに、トンマンの目を見つめて答えた。
そのやり取りを偶然聞いていたムンノは、再びユシンと話をする。
「人を得たものが王になるとはなぜかわかるか?
得た人々が、その者を王にしてくれるからだ。一人で英雄にはなれん。
そなたが言ったことは正しい。険しいが、大義の道だ。
しかし、王女様の言った方法以外に、どんな方法があるというのだ?」
ムンノを探していたピダムも、その光景を見ていた。
トンマンの部屋を訪ねるピダム。
彼女はひとり、泣いていた。
「どうしたんです?何があったんですか?」
優しく問いかけるピダムを一顧だにせず、トンマンはただ泣いている。
「私は……ミシルじゃない……ミシルにはなれない……。
ユシン郎を手放したくない……」
「え?」
「好きだって、伝えてない……こんなに、こんなにも……」
涙を流すトンマンの肩に、戸惑いつつもそっと手やり、
慰めてやろうとするピダムだった。
ムンノは、ユシンの決心を聞き、自分の判断に迷っている。
トンマンが王になるのを反対した自分が間違っていたのか?
自分の考えとは別の運命が用意されているのだろうか?
悩みつつ歩いていて、ムンノはピダムを見つける。
「落ち着いたか?」
「私が心配で、あの本を隠したのですか?」
「また寺へ行ったのか」
「あの本は、私のものなんですか?そうではないのですか?」
「愚かなやつめ。本当に、愚かな」
ムンノはピダムの問いには答えず、行ってしまった。
一族の娘とチュンチュを結ばせようと考えているミシル。
チュンチュを自分の身内に引き込むつもりだ。
今日もミセンが、彼を連れて街中に遊びに出かけている。ついた先は、賭博場。
ところが偶然、同じ場所にムンノが入っていく。
師匠をつけていたピダムは驚いた。
チュンチュはミセンの計らいで、気分良く勝たせてもらっている。
賭博場に忍び込んだピダムは、彼が何者かは知らないが、
(おい、いかさまだぞ)とこっそり忠告してやる。
(わかっているよ)と笑顔のチュンチュ。
そのころミシルは、動かぬユシンに苛立っていた。
「こちらの意図が伝わっていないのではないか?」
「それはないでしょう」
「風月主から落とすためには、書状を公開せねばならぬ」
「その場合、我らはユシン郎を得られなくなります」
ミシルは、かつてユシンを求めた時の、彼の返事を思い出していた。
あなたが手に入れられるのは、私の遺体だけだと言い切ったユシン……。
トンマンも、部屋に閉じこもったままだった。
心配して様子を見に来たソファに、トンマンはつぶやく。
「ユシン郎は正しい。これは私が選んだ道です。
そして、ユシン郎を得るために民を捨てることはできない。
民を捨てれば、彼を得られない。そんなことをすれば、むしろ彼が私を捨てるでしょう。
それはわかっている、わかっている……」
トンマンの瞳に、またみるみる涙がたまっていく。
ソファはトンマンの手を握った。
「どうせ、もう……心の中で思うことしかできません。
ただひたすら姿を見つめ、声を聞く、それしか、できません……」
ユシン郎は、トンマンの居室の前で、長いこと立っていた。
取り次ぎを進められたが、それを断り、ひとり悩み、ミシルに会いに行く。
賭博場ではっていたピダムは、ある男がムンノと密会している様子を
盗み聞くことになった。
ムンノは、三韓地勢の最終巻を書き上げ、完成させるつもりのようだ。
「完成はまださきの予定では?」
「あの本の主が現れたのだ」
「苦労して書かれたのに、渡してしまうおつもりですか?信頼できる人物ですか?」
「あきれるほど愚直で、強情な人物だ」
「ムンノ公に似ていますね」
「いや、私の愚直さと強情さでは、人の心は動かせなかった」
きいていたピダムは、悪い予感がしている。
自分の名誉と自尊心を守りたいがために、現実から目を背けたムンノとは違い、
自分の誇りを捨ててでも、民と家門を守る男。
ピダムは、そんな人物に思い当たった。
「ユシン……ユシンか?」
ムンノは、ユシンとの会話を思い返していた。
他に方法はあるのかと問うたムンノに、ユシンは答えた。
「降伏します。いえ、這えと言われれば這い、
なめろと言われればなめます。そんな屈辱は、何でもないことです」
ユシンは、ミシルと渡り廊下で出会う。
ユシンを追ってきたトンマンは、彼とミシルの姿を目の当たりにする。
ミシルの前に、膝をつくユシン。
「何の真似だ?」と冷たく問いかけるミシル。
「助けを請うております」
ミシルはトンマンを見やり、ユシンに問いかける。
「以前言いましたね。私が獲得できるのは遺体だけだと」
「今も同じ考えです」
「ではなぜ?」
ユシンは、ミシルの伽耶民への仕打ちを申し立てる。
反乱軍として、彼らを殺すきだろうと。
自分の命は捨てられても、自分のために民を殺すわけにはいかないと。
「自分の器を知り、あふれるものは捨てます。
そして璽主の胸に飛び込みます」
ミシルは高らかに笑う。
「私が若ければ、文字通りそなたを胸に抱いたものを。
私たちの情の証として、我が一族との婚姻を受けよ」
衝撃を受けるトンマン。
「はい、そういたします」
ユシンの返事が、トンマンの胸を貫く。
勝ち誇ったようにほほえみ、トンマンを見つめるミシル。
(つづく)
こんなのやだやだ!いやだよう!絶対こんなのいやだぁぁぁぁぁ!
ごめんねごめんね、ユシン郎。
トンマンもごめんね。
そんなにふたりが愛し合ってるなんて気付いてなかったよ。
いや、ユシン郎がトンマンのこと深く思ってるのは知ってたけど、
トンマンの方がそれほどだとは思ってなかったんだ……。
口に出さないから、あんまり態度に出さないから、
もう思い出にかえて、お互いチョンミョン王女のことを心に抱いて、
覇道を歩んで行っているんだと信じていたんだよー!
こんなにトンマンが、ユシンを愛しているってしらなかった。
うううう、ほんとにごめんね……トンマナ……。
すごく耐えてたんだね……。
そして、そんなトンマンを優しく諭すソファ。
どうせ結ばれることなんて、ないんだから。
ただ側で見つめて、声を聞き、心で思うだけしか、できないんだから。
それってチルスクアジョッシのことでしょ?!
ソファもチルスクのこと、好きなんだね……。
でも、お互いに立場がある。
ソファは愛する娘の側にいることを選んだから、
チルスクはミシルの側にいるしかなくて、
ふたりは愛し合いながらも手の届かない場所にいるのね。
ソファは、しのぶ愛、耐える愛しか選べない悲しみを知っている。
自分が選んだ道を行くために、そうすることしかできなかったつらさを知っているのね。
かわいそうなトンマンと、ずっと一緒にいてあげてね。
女性として幸福になる道を捨てたトンマンと……。
なんかこないだまで、ピダムにはまったらユシン郎に悪いわ~とか
言ってましたけど、そんなことなかった!!
ユシン郎、めっちゃくちゃトンマンに愛されてるし!
そしてあろうことか!
ムンノにめちゃくちゃ信頼されて、三韓地勢託されかかってるし!
ピダムの立つ瀬がない!
なんか……ユシン郎の扱いが悪すぎると思ってたら、
全然そんなことなかった。
好きな女の心を持って行かれ(もともとユシン郎のものではあったが)
自分のためだと聞かされていた宝物は横取りされ(ムンノのせい)
父とも思い、心の奥底では慕っていた師匠の愛を持って行かれ(ピダムも愛されてはいるはず)
いいとこなしのピダム。
比才だって、いいとこ見せてやろうと思ってたのに、
全部ユシンが自力でなんとかしちゃった……。
持っていたのはユシン郎だったのか……。
でもユシン郎は、トンマンには二度と触れることはできないのよ!
ピダムは肩に手を置いてたじゃん!そこは勝ってるじゃん!
悩みに悩むユシン郎。
ここで自分を貫き通せば、風月主をあきらめることになり、
トンマン女王の道は遠のく。
しかも、それでミシルが納得するとも思えない……。
何よりミシルは、ユシン郎が欲しいんだから。
ムンノも心配してたのね。
たぶん、ミシルはムンノも欲しがったんだけど、
ムンノは嫌がって逃げたのね。それが長い放浪生活のわけだった。
ユシンは自分のようになってしまうのか?
ユシンはムンノとは違ったね。
大業のために、民のために、伽耶一族のために、自分を殺す男だった。
這えと言われれば這い、なめろと言われればなめる男だった。
そんなことさせられるユシンを見たら泣いちゃいそうだわ……。
ユシン郎、すごい。すごい男だよ。
啓示を受けたムンノは、鳳凰がマヤ妃の輿に飛び込んでいく姿を見たじゃない?
だから双子が、運命の子だと確信したわけだけど、
ユシンのお母さんも、実は夢を見て、開陽星が出現した時にユシンを出産してたでしょ。
彼もまた、運命の子なのかもしれないよね。
もうピダムが盗み聞きしながら、「ユシン?」ってつぶやくところが
つらすぎてつらすぎて……。
一緒に戦えば、最高の相棒、ユシン郎なのに……。
「三韓地勢」はピダムにとって、ただの本じゃないと思うの。
師匠ムンノが彼に注いでくれた愛情そのものだと思うの。
だからこそ、それがユシンの手に渡ることが信じられない。
トンマンの愛も、師匠の愛も、すべて持って行こうとするユシンのことを、
ピダムはどう思うのかしら?
誰のことも目に入らないように、ただ涙を流すトンマンの肩に、
そっと手を置くピダム。
「好きだって言ってない……」そう言って泣く、大好きな少女に、
そっとそっと触れるピダムは、ユシンをどうするかしら?
うあ~、わから~ん!
ミシルの前に、ズガッと膝をつくユシンはかっこいい。
その向こうに見えるトンマンを凝視しながら、ミシルは勝ち誇ったように笑うのよ。
くくく、くやしい!
こっちは見てるだけなのに、握った拳がぷるぷる震えちゃうぜ。
でもミシルが自分の年を自覚してくれててよかった~。
ユシン郎がミシルの腕に抱かれるかと思ったら、
さすがのトンマンも気が狂いそうになると思うわ……。
てか、いくらなんでもユシン郎無理だわ。
ソルォンもぎりぎりで許せないでしょ。
ポジョンがいい加減ぐれると思うし。
ユシンの嫁さんになる人が、悪い人だとも限らないしね。
トンマンを愛していると知りながら、ユシンを支えくれる人かもしれないし。
どうせ美人なんでしょ。
でもつらいな~。トンマンがすごくつらいな~。
自分が選んだ道だってわかってるけど、こんなにつらいって想像できなかったと思うの。
アルチョン郎と、ピダムが助けてくれる?
でもピダムに、優しい心とか思いやりとか期待できる?
できる、かな、今回慰めようとしてくれてたし。
トンマンの泣く姿を見て、人を好きになるってことが
すごくつらいときもあるって、わかってくれてるかな。
でもそうなると、
結局いつも身近にいてくれて、頼りになるのは近衛花郎のアルチョン郎なのか~?
彼がトンマンの一番の純粋な部下だよねぇ。
恋愛感情一切抜きに忠誠をつくしてくれてほんとに偉いわ、この人。
ユシン郎も心を鬼にして言ったとわかってるけど、
ほんとに頑固で強情な男だこと。
恋心を捨てて、主君としての愛に置き換えて、
そのかわり厳しい要求をビシバシするぞ、と言ったとおりに実行しております。
たまには甘やかすとか、絶対ないのね。命取りになるし。
なんか逃亡生活中は、惚れた弱みでユシン郎の方が力関係、しただったけど、
こうなってくると郎徒時代を思い出すわよね~。
砂袋をこれでもかっとプラスされ、しごかれてたトンマン。
あの頃より、心理的にしごかれてて、もっとつらいわよね。
何かを決意して向かった先で、非情な光景に出くわしてしまったの……。
隠れてつきあうとか、無理なんだよね、やっぱり。
そこまで自分たちを律しないと、対抗できないミシルという人は、
やっぱすごい人なんだな~。
今回、悩めるユシンが木刀を降りにいかなかったのが、ちょっと意外でした。
あの岩、割れちゃったしね。
もう一万本素振りしたから吹っ切れる、とかいう問題じゃなくなってきてるもんなー。
迷ってる場合じゃないのだ。
草をぶちぶち抜いてる場合でもないのだが。
なんかやっぱり悩み方すら不器用な、ユシン郎が好きさ。
ユシンが風月主になるためには、あらゆる疑いを晴らさなければならない。
復耶会とのつながりを否定できなければ、風月主の道はない。
「彼らは当家の土地を耕しているだけです」
ユシンはそう言うしかないのだが……。
状況証拠だけでこのような扱いは不当だと、ユシンはソルォンに訴える。
ソルォンは、ユシンが風月主になり、疑いも晴らせる道を探ろうと提案する。
「復耶会の首領の首をとってくれば、この問題は解決だ」
トンマンたちは再び罠にはめられたのだ。
復耶会首領の首を差し出せば、伽耶勢力の後ろ盾を失う。
彼らを守れば、風月主になれない。
このままでは、身動きが取れない。
ミシル側は、ユシンを手に入れたいのだ。
確実にユシンを手に入れるためには、状況証拠ではない確実な証拠がいる。
チュンチュは、毎日宮殿を出て遊び歩いている。
ミセンと一緒に酒を飲んだり、女性を眺めたり。
トンマンも王妃も、頭がいたい。
ムンノは、ユシンのことを心配して話を聞こうという。
ユシンは、伽耶民に無償で土地を与えたと正直に話した。
それが知られたら、はっきりした証拠になってしまう。
ユシンは、伽耶の人々が生きる道は、新羅で三韓統一の夢を
見ることだと信じ、何があっても伽耶民を売ることはない、と断言した。
ムンノは、真っ直ぐすぎるユシンが心配だ。
あきらめることもできず、降伏することもできず、
諸国を放浪するしかなかった自分の二の舞になりはしまいかと。
ピダムは、師匠ムンノの言葉を思い出し、ひとり笑う。
「一緒に発とう」と言われても、嫌だ。
ピダムは、三韓地勢を手に入れようと寺へ向かったが、すでに箱は空になっていた。
ウォルヤはソルチを伴ってユシンを訪ねた。
ソルォンの言うとおり、ソルチを差しだそうという提案だ。
風月主をあきらめれば、罪を認める事になる。
犠牲の少ない方を選ぶのが最善だ、と。
ユシンは、それではミシルと同じだと反発する。
そして風月主をあきらめると、ミシルたちに言うのだ。
「ポジョンを風月主にするおつもりでしょう?
しかし、それで皆が納得するでしょうか?
ポジョン郎は風月主として胸が張れますか?
できるというなら、私は身を引きましょう。
状況証拠だけで、私をおとしめ、どう収拾をつけるのです?」
ユシンは強気で発言するのだが、ミシルたちは決定的な証拠を握っていた。
伽耶民からの租税を取らないという証書だ。
その証書は、密偵がソヒョン公の館から盗み出し、ミシルに渡したものだった。
そのような決定的証拠があれば、ユシンは国家反逆罪ですぐさま重罪犯だ。
兵部に引き渡されても文句はない。
それをしないミシルたちの本音とは?
「彼らは、ユシン郎が欲しいのです……」
トンマンは、そんなことはとても耐えられないと心で思う。
トンマンは、復耶会の首領としてソルチを差しだそうとユシンに提案する。
「いけません。そんなことをしたら、次々に誰かを差し出さねばならなくなります」
「ええ、そうすればいい」
「王女様!おわかりになりませんか?」
ソルチを差し出せば、伽耶民と復耶会を関連づけられてしまう。
ユシンが折れなければ、伽耶民が次々に謀反の疑いをかけられて、殺されていく。
危機に陥る度に、自分の民を差しだそうというのか?
「では私に、ユシン郎を差し出せと?」
トンマンの声が震える。
「口に出さないから、ユシン郎への思いが小さいとでも?」
ユシンはトンマンの告白に一瞬目を見開くが、それでも言葉を続ける。
「これは王女様の選んだ道です。王になる道が楽だとお思いでしたか?」
王とは、自分を犠牲にしてでも民を守るもの。
他国の人間を殺しても、自分たちを守ってくれる王を民は望む。
ユシンはそうするつもりだし、トンマンにもそれを望むのだ。
「でも、私は……私は……」
トンマンは、涙をこらえられない。
「お一人で進むべき道です」
ユシンは真っ直ぐに、トンマンの目を見つめて答えた。
そのやり取りを偶然聞いていたムンノは、再びユシンと話をする。
「人を得たものが王になるとはなぜかわかるか?
得た人々が、その者を王にしてくれるからだ。一人で英雄にはなれん。
そなたが言ったことは正しい。険しいが、大義の道だ。
しかし、王女様の言った方法以外に、どんな方法があるというのだ?」
ムンノを探していたピダムも、その光景を見ていた。
トンマンの部屋を訪ねるピダム。
彼女はひとり、泣いていた。
「どうしたんです?何があったんですか?」
優しく問いかけるピダムを一顧だにせず、トンマンはただ泣いている。
「私は……ミシルじゃない……ミシルにはなれない……。
ユシン郎を手放したくない……」
「え?」
「好きだって、伝えてない……こんなに、こんなにも……」
涙を流すトンマンの肩に、戸惑いつつもそっと手やり、
慰めてやろうとするピダムだった。
ムンノは、ユシンの決心を聞き、自分の判断に迷っている。
トンマンが王になるのを反対した自分が間違っていたのか?
自分の考えとは別の運命が用意されているのだろうか?
悩みつつ歩いていて、ムンノはピダムを見つける。
「落ち着いたか?」
「私が心配で、あの本を隠したのですか?」
「また寺へ行ったのか」
「あの本は、私のものなんですか?そうではないのですか?」
「愚かなやつめ。本当に、愚かな」
ムンノはピダムの問いには答えず、行ってしまった。
一族の娘とチュンチュを結ばせようと考えているミシル。
チュンチュを自分の身内に引き込むつもりだ。
今日もミセンが、彼を連れて街中に遊びに出かけている。ついた先は、賭博場。
ところが偶然、同じ場所にムンノが入っていく。
師匠をつけていたピダムは驚いた。
チュンチュはミセンの計らいで、気分良く勝たせてもらっている。
賭博場に忍び込んだピダムは、彼が何者かは知らないが、
(おい、いかさまだぞ)とこっそり忠告してやる。
(わかっているよ)と笑顔のチュンチュ。
そのころミシルは、動かぬユシンに苛立っていた。
「こちらの意図が伝わっていないのではないか?」
「それはないでしょう」
「風月主から落とすためには、書状を公開せねばならぬ」
「その場合、我らはユシン郎を得られなくなります」
ミシルは、かつてユシンを求めた時の、彼の返事を思い出していた。
あなたが手に入れられるのは、私の遺体だけだと言い切ったユシン……。
トンマンも、部屋に閉じこもったままだった。
心配して様子を見に来たソファに、トンマンはつぶやく。
「ユシン郎は正しい。これは私が選んだ道です。
そして、ユシン郎を得るために民を捨てることはできない。
民を捨てれば、彼を得られない。そんなことをすれば、むしろ彼が私を捨てるでしょう。
それはわかっている、わかっている……」
トンマンの瞳に、またみるみる涙がたまっていく。
ソファはトンマンの手を握った。
「どうせ、もう……心の中で思うことしかできません。
ただひたすら姿を見つめ、声を聞く、それしか、できません……」
ユシン郎は、トンマンの居室の前で、長いこと立っていた。
取り次ぎを進められたが、それを断り、ひとり悩み、ミシルに会いに行く。
賭博場ではっていたピダムは、ある男がムンノと密会している様子を
盗み聞くことになった。
ムンノは、三韓地勢の最終巻を書き上げ、完成させるつもりのようだ。
「完成はまださきの予定では?」
「あの本の主が現れたのだ」
「苦労して書かれたのに、渡してしまうおつもりですか?信頼できる人物ですか?」
「あきれるほど愚直で、強情な人物だ」
「ムンノ公に似ていますね」
「いや、私の愚直さと強情さでは、人の心は動かせなかった」
きいていたピダムは、悪い予感がしている。
自分の名誉と自尊心を守りたいがために、現実から目を背けたムンノとは違い、
自分の誇りを捨ててでも、民と家門を守る男。
ピダムは、そんな人物に思い当たった。
「ユシン……ユシンか?」
ムンノは、ユシンとの会話を思い返していた。
他に方法はあるのかと問うたムンノに、ユシンは答えた。
「降伏します。いえ、這えと言われれば這い、
なめろと言われればなめます。そんな屈辱は、何でもないことです」
ユシンは、ミシルと渡り廊下で出会う。
ユシンを追ってきたトンマンは、彼とミシルの姿を目の当たりにする。
ミシルの前に、膝をつくユシン。
「何の真似だ?」と冷たく問いかけるミシル。
「助けを請うております」
ミシルはトンマンを見やり、ユシンに問いかける。
「以前言いましたね。私が獲得できるのは遺体だけだと」
「今も同じ考えです」
「ではなぜ?」
ユシンは、ミシルの伽耶民への仕打ちを申し立てる。
反乱軍として、彼らを殺すきだろうと。
自分の命は捨てられても、自分のために民を殺すわけにはいかないと。
「自分の器を知り、あふれるものは捨てます。
そして璽主の胸に飛び込みます」
ミシルは高らかに笑う。
「私が若ければ、文字通りそなたを胸に抱いたものを。
私たちの情の証として、我が一族との婚姻を受けよ」
衝撃を受けるトンマン。
「はい、そういたします」
ユシンの返事が、トンマンの胸を貫く。
勝ち誇ったようにほほえみ、トンマンを見つめるミシル。
(つづく)
こんなのやだやだ!いやだよう!絶対こんなのいやだぁぁぁぁぁ!
ごめんねごめんね、ユシン郎。
トンマンもごめんね。
そんなにふたりが愛し合ってるなんて気付いてなかったよ。
いや、ユシン郎がトンマンのこと深く思ってるのは知ってたけど、
トンマンの方がそれほどだとは思ってなかったんだ……。
口に出さないから、あんまり態度に出さないから、
もう思い出にかえて、お互いチョンミョン王女のことを心に抱いて、
覇道を歩んで行っているんだと信じていたんだよー!
こんなにトンマンが、ユシンを愛しているってしらなかった。
うううう、ほんとにごめんね……トンマナ……。
すごく耐えてたんだね……。
そして、そんなトンマンを優しく諭すソファ。
どうせ結ばれることなんて、ないんだから。
ただ側で見つめて、声を聞き、心で思うだけしか、できないんだから。
それってチルスクアジョッシのことでしょ?!
ソファもチルスクのこと、好きなんだね……。
でも、お互いに立場がある。
ソファは愛する娘の側にいることを選んだから、
チルスクはミシルの側にいるしかなくて、
ふたりは愛し合いながらも手の届かない場所にいるのね。
ソファは、しのぶ愛、耐える愛しか選べない悲しみを知っている。
自分が選んだ道を行くために、そうすることしかできなかったつらさを知っているのね。
かわいそうなトンマンと、ずっと一緒にいてあげてね。
女性として幸福になる道を捨てたトンマンと……。
なんかこないだまで、ピダムにはまったらユシン郎に悪いわ~とか
言ってましたけど、そんなことなかった!!
ユシン郎、めっちゃくちゃトンマンに愛されてるし!
そしてあろうことか!
ムンノにめちゃくちゃ信頼されて、三韓地勢託されかかってるし!
ピダムの立つ瀬がない!
なんか……ユシン郎の扱いが悪すぎると思ってたら、
全然そんなことなかった。
好きな女の心を持って行かれ(もともとユシン郎のものではあったが)
自分のためだと聞かされていた宝物は横取りされ(ムンノのせい)
父とも思い、心の奥底では慕っていた師匠の愛を持って行かれ(ピダムも愛されてはいるはず)
いいとこなしのピダム。
比才だって、いいとこ見せてやろうと思ってたのに、
全部ユシンが自力でなんとかしちゃった……。
持っていたのはユシン郎だったのか……。
でもユシン郎は、トンマンには二度と触れることはできないのよ!
ピダムは肩に手を置いてたじゃん!そこは勝ってるじゃん!
悩みに悩むユシン郎。
ここで自分を貫き通せば、風月主をあきらめることになり、
トンマン女王の道は遠のく。
しかも、それでミシルが納得するとも思えない……。
何よりミシルは、ユシン郎が欲しいんだから。
ムンノも心配してたのね。
たぶん、ミシルはムンノも欲しがったんだけど、
ムンノは嫌がって逃げたのね。それが長い放浪生活のわけだった。
ユシンは自分のようになってしまうのか?
ユシンはムンノとは違ったね。
大業のために、民のために、伽耶一族のために、自分を殺す男だった。
這えと言われれば這い、なめろと言われればなめる男だった。
そんなことさせられるユシンを見たら泣いちゃいそうだわ……。
ユシン郎、すごい。すごい男だよ。
啓示を受けたムンノは、鳳凰がマヤ妃の輿に飛び込んでいく姿を見たじゃない?
だから双子が、運命の子だと確信したわけだけど、
ユシンのお母さんも、実は夢を見て、開陽星が出現した時にユシンを出産してたでしょ。
彼もまた、運命の子なのかもしれないよね。
もうピダムが盗み聞きしながら、「ユシン?」ってつぶやくところが
つらすぎてつらすぎて……。
一緒に戦えば、最高の相棒、ユシン郎なのに……。
「三韓地勢」はピダムにとって、ただの本じゃないと思うの。
師匠ムンノが彼に注いでくれた愛情そのものだと思うの。
だからこそ、それがユシンの手に渡ることが信じられない。
トンマンの愛も、師匠の愛も、すべて持って行こうとするユシンのことを、
ピダムはどう思うのかしら?
誰のことも目に入らないように、ただ涙を流すトンマンの肩に、
そっと手を置くピダム。
「好きだって言ってない……」そう言って泣く、大好きな少女に、
そっとそっと触れるピダムは、ユシンをどうするかしら?
うあ~、わから~ん!
ミシルの前に、ズガッと膝をつくユシンはかっこいい。
その向こうに見えるトンマンを凝視しながら、ミシルは勝ち誇ったように笑うのよ。
くくく、くやしい!
こっちは見てるだけなのに、握った拳がぷるぷる震えちゃうぜ。
でもミシルが自分の年を自覚してくれててよかった~。
ユシン郎がミシルの腕に抱かれるかと思ったら、
さすがのトンマンも気が狂いそうになると思うわ……。
てか、いくらなんでもユシン郎無理だわ。
ソルォンもぎりぎりで許せないでしょ。
ポジョンがいい加減ぐれると思うし。
ユシンの嫁さんになる人が、悪い人だとも限らないしね。
トンマンを愛していると知りながら、ユシンを支えくれる人かもしれないし。
どうせ美人なんでしょ。
でもつらいな~。トンマンがすごくつらいな~。
自分が選んだ道だってわかってるけど、こんなにつらいって想像できなかったと思うの。
アルチョン郎と、ピダムが助けてくれる?
でもピダムに、優しい心とか思いやりとか期待できる?
できる、かな、今回慰めようとしてくれてたし。
トンマンの泣く姿を見て、人を好きになるってことが
すごくつらいときもあるって、わかってくれてるかな。
でもそうなると、
結局いつも身近にいてくれて、頼りになるのは近衛花郎のアルチョン郎なのか~?
彼がトンマンの一番の純粋な部下だよねぇ。
恋愛感情一切抜きに忠誠をつくしてくれてほんとに偉いわ、この人。
ユシン郎も心を鬼にして言ったとわかってるけど、
ほんとに頑固で強情な男だこと。
恋心を捨てて、主君としての愛に置き換えて、
そのかわり厳しい要求をビシバシするぞ、と言ったとおりに実行しております。
たまには甘やかすとか、絶対ないのね。命取りになるし。
なんか逃亡生活中は、惚れた弱みでユシン郎の方が力関係、しただったけど、
こうなってくると郎徒時代を思い出すわよね~。
砂袋をこれでもかっとプラスされ、しごかれてたトンマン。
あの頃より、心理的にしごかれてて、もっとつらいわよね。
何かを決意して向かった先で、非情な光景に出くわしてしまったの……。
隠れてつきあうとか、無理なんだよね、やっぱり。
そこまで自分たちを律しないと、対抗できないミシルという人は、
やっぱすごい人なんだな~。
今回、悩めるユシンが木刀を降りにいかなかったのが、ちょっと意外でした。
あの岩、割れちゃったしね。
もう一万本素振りしたから吹っ切れる、とかいう問題じゃなくなってきてるもんなー。
迷ってる場合じゃないのだ。
草をぶちぶち抜いてる場合でもないのだが。
なんかやっぱり悩み方すら不器用な、ユシン郎が好きさ。
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