《あらすじ》
テラは濡れたまま、夫のいる家へ帰った。
ゴヌクのことを考えるとなぜか胸が騒いだ。
不安で、今夜だけは、夫と一緒に眠りたいと思う。
しかし、彼は応えてはくれなかった。
ゴヌクは夜の工事現場にスタント仲間を呼び出した。
資材泥棒を捕まえるのに、協力してもらうためだ。
多少の手違いはあったが、無事に犯人を捕まえたゴヌクは、
翌朝会長に呼び出され、
功績を認められ、社員にならないか、と持ちかけられた。
ギャラリーオープンのパーティー。
テソンはゴヌクと一緒に会場に来ていた。
どうやらギャラリーのテーマは「仮面」のようで、
様々な仮面をつけた客人が、会場を歩いている。
テソンはジェインの姿を遠目に見つけ、
その様子を見たゴヌクが、彼女に声をかけた。
「ジェイン、元気か?」
親しげなふたりをちらちらと見ているテソン。
会場にはもちろんテラもいて、ゴヌクは彼女に視線を止めた。
テラも、ゴヌクを見つけ、不安げな視線をよこしている。
ゴヌクは手話で、彼女に何かを言った。
退屈したテソンは、ゴヌクにゲームを持ちかけた。
洋服を取り替えて仮面をかぶり、バレないように入れ替わろう。
「しばらくホン・テソンになれる。思い切り楽しめよ」
ひとりになったゴヌクは、皮肉に笑った。
「ホン・テソンか。久しぶりの名だ」
テソンに化けたゴヌクは、酔ったフリでグラスを割り、顰蹙を買う。
シン夫人は大事なパーティーを台無しにされかねず、イライラと怒っている。
テラは伝染したストッキングを変えようと、別室に入った。
そこには、ゴヌクが寝ていた。
テラは、弟のテソンだと思っていたのだが、彼が始めた手話を見てハッとする。
仮面を外した男の顔は、ゴヌク。
「あなた……」
「今日のあなたはこの会場で一番美しい」
見つめ合うふたり。
そこへ、モネがゴヌクを探して入ってきた。
ゴヌクはテラの腕をとり、物陰に引き込む。
抱きしめられて、テラは声も出せない。
モネが探しているとなれば、なおさらだ。
こんな状況では、出て行けない。ゴヌクに抱きとめられて。
モネがあきらめて部屋を出た。
「胸の鼓動が、聞こえる」
身体を離そうとしたテラは、ゴヌクに引き戻された。
そのまま、唇を重ねようとする彼に抵抗したが、耐えきれなかった。
夢中で、口づけを交わす。
モネたちの声が聞こえて、身体を離した。
部屋から出たテラは、夫と鉢合わせ、ぎょっとする。
「どうしたんだい?顔色が悪いぞ」
「姉さん、部屋にいたの?私の声、聞こえなかった?」
テラは動揺していた。
「テソンさん、グラスを割るなんて……」
ジェインが話しかけた。
「しっ、俺だ。テソンと入れ替わった。チャンスだぞ。料理してみろ」
ゴヌクに言われ、ジェインはテソンに近づいてゆく。
もちろん、彼をゴヌクだと信じているふりをして。
あの人が仮面をわったわけを考えてたの。
母親の気を引きたかったのね。
自分を見て欲しいのに、誰にも顧みられなかったら、つらいでしょう。
ひとりで生きていけるあんたと違って、あの人はほっておけない。
どうしても気になるの。
家族の誰かが、ご飯食べた?元気にしてる?って気にかけてあげなくちゃいけないのよ。
テソンは、ひとりになると仮面を外してにやけてしまった。
「何かやったか?」ときいた。
「叩きわって、粉々にしました」
「……どんな女だ?」
「誰?」
「ギャラリーの」
「ムン・ジェイン?」
「友達なんだろ?」
「ええ、まあ」
「しつこいって嫌がられてたぞ」
テソンは余裕の笑みを浮かべ、ジェインの首尾を感じ取ったゴヌクもふっと笑った。
ひとり、パーティーの後片付けをしているジェイン。
ゴヌクが現れて、手伝ってくれる。
「ありがと」
ゴヌクにじっと見つめられて、ジェインは「何か?」
「芝居の腕を上げたな。コーヒーをかけた時は下手くそだったのに」
ふふふと笑ってジェインは言う。
「ホン・テソンはなんて言ってた?」
「どんな女か、って」
「それだけ?」
「それで全部」
「それだけだった?じゃもう一押しかな」
ジェインは掃除の手を止めてゴヌクにもたれかかった。
「ねえ、ゴヌク、ホン・テソンは何が好きかしら?」
「さあね」
「いつも一緒にいるでしょ?」
「奴にあわせるな。奴をお前好みに染めるんだ」
「ふ~ん。
あんたがホン・テソンなら、何をしてほしい?
言ってみて。同じ男として。何して欲しい?」
少し考えて、ゴヌクは答える。
「手料理」
ジェインは笑ってしまった。
「本気?毎日シェフの料理を食べてる人が手料理?
はは、あんたにきいた私がバカだったわ」
ジェインは彼に身体を預けて、目をつぶる。
「あ~、楽だわ。片付け終わんないね」
同じようにジェインに身体を預け、目をつぶるゴヌク。
翌朝、ゴヌクはとある駐車場でわざと車をぶつけた。
身分を隠して接触したのは、ヘシンの投資顧問。
投資先を探しているといい、代車を用意し、相手を信用させる。
計画は順調だ。
会社に出社すると、テラとエレベーターで一緒になった。
「会社に何をしにきたの?」
ゴヌクは挑戦的にテラの前に立った。
「私をどうする気?」
「何を怯えてる?」
「え?」
ゴヌクはテラに口づけようとした。
彼女は抵抗しなかった。
ゴヌクは寸前で身体を離すと、彼女の耳元で囁いた。
「今日から社員なんです。よろしく、ホン・テラ専務」
エレベーターは1階に止まり、扉が開いた。
そこには、ジェインの姿があった。
思わぬところで出会った。
彼女に気付いたゴヌクは目線をさまよわせる。
「ゴヌク、あれモネのお姉さんじゃない?」
「ん」
「上で会ったの?」
「ん、上で会った」
言葉少なに返事をする。
自販機のコーヒーを奢る。
「へぇ、じゃヘシンの社員になったの?」
「ん」
「おめでと。家族に歓迎されないかと思ったけど、会社にまでいれてくれた。
気にいられたのね。じゃ、モネと結婚を?」
「いや、モネとは関係ない」
ふたりの間に微妙な空気が流れる。
「これやるよ」
ゴヌクは、ジェインに高級ジムの会員権を渡した。
今日から、テソンがそこへ通う。
「高いでしょ、これ」ジェインは驚いた。
「落としたいんだろ?じゃあな」
ジェインは、シン夫人の部屋にコーヒーを運んだ。
刑事が訪れて、話を聞いている。
テソンの恋人ソニョンは、転落死した。
ソニョンと、以前ヘシンにいた子どもが、施設で一緒に育ったという。
「捜査に協力してくださいませんか」
その子は死んだと聞いている。協力することなど、なにもない。
シン夫人は警察を追い返し、ウン刀自に電話をかけ、命じた。
20年前に追い出したあの子を、捜し出すようにと。
ウン刀自は、ゴヌクの様子を思い出す。
キャラメルを口にして、泣いていた彼を。
ジェインはジムで、テソンを待っている。
思っていたとおり、テソンは現れ、ジェインの近くをウロウロとしている。
ところが、ジェインは転んでねんざをしてしまった。
テソンは慌てて彼女をおんぶして、病院へ駆け込む。
薬をもらったり、問診票を出したり、けが人の世話はたいへんだ。
でもなんだか、うれしいのはなぜだろう?
テソンはジェインを送っていった。
「これ薬。たいへんだったけどけっこう面白かった」
「じゃ、また怪我しようかな」
ジェインの軽口に、テソンの顔が曇った。
「また行きたくはない。一度で十分だ」
なんとなく、沈黙が訪れた。
「あ、今日はありがとう」
行こうとしてジェインはよろめいて、テソンに抱き留められる。
そしてそっとキスされた。
テソンと別れ、ジェインはすぐにゴヌクに電話をかけた。
「私よ、会員証ありがとう。でもしばらくいけないわ。怪我しちゃったから」
「怪我?」
ゴヌクは心配するが、逆にジェインにのろけのような話をきかされて不機嫌になる。
「初めて介抱した相手のことは忘れないっていうよ。おめでとう」
「何よ、嫌みな言い方ね」
「切るぞ」
素っ気なく電話を切って、放り出した。
ジェインの携帯に、テソンからメールが届く。
薬を飲み忘れないように、と書いてあった。
テソンは、薬局でもらった領収書を嬉しそうに眺めている。
「ご家族ですか?」と聞かれたっけ。
ジェインから、お礼のメールが届いた。
顔がにやけるのを、止めることができなかった。
ゴヌクは、ヘシンの投資顧問カン・ユンチョルを引っかけようとしている。
彼は、ヘシン財閥の長男テギュンの裏金を管理している男なのだ。
その長男が、帰国した。
家族の親しい団らんに、ゴヌクもテソンについて同席する。
「席を外してちょうだい」シン夫人は不機嫌だ。
「彼は兄さんの秘書としてきたんじゃないわ!わたしの恋人よ。家族でしょ」
モネがゴヌクの肩を持つ。
「テソンの秘書?」
「俺は関係ないよ。オヤジが社員にしたんだ」
「私の意見も聞かずに勝手に……」
それぞれが勝手なことを言い出し、部屋の空気は一気に険悪になった。
「もう我慢できないわ。これだから女まで死なせるのよ」
シン夫人の言葉が、場を凍り付かせた。
「誰のこと?」
「テソンが連れてきた女よ。遊びもほどほどにしなさい。
振られて死ぬなんて、希望を与えすぎたのね」
テソンも、黙っていられない。
「今なんといった?」
「どう償う気?女も管理できないくせに減らず口を叩かないで!」
ソニョンの話題は、テソンの神経を逆なでする。
「全部俺のせいだ!それで満足か?
あんたたちの態度はどうだったんだ?二度と彼女のことは口に出すな!」
テソンは家族を怒鳴りつけて、出ていった。
団らんしている家族のもとへ、荷物が届いた。
エンターバイオ監査報告書。
長兄のテギョンは動揺しているようだ。
これはゴヌクの計算通りだった。
ゴヌクは庭で、ソダムと遊んでやっている。
モネも一緒で、みな楽しそうだ。
「そうだ、いいものがあるの、待ってて」
モネがソダムと部屋へ戻り、テラスにはゴヌクとテラが残された。
「ソダムはママに似てかわいいね」
隣に立つゴヌクに、テラは冷たい。
「あの日のことは過ちよ」
「過ち?本当に?」
その場を離れようとするテラを、ゴヌクが手を握り、止める。
「本心か?」
「家族がいるのよ。もう帰って」
それでもゴヌクは手を離そうとしない。
「答えてくれ」
「何が聞きたいの?」
「君の本心」
「しつこい人」
「……帰るよ」
ゴヌクは帰って行った。
その様子をウン刀自が見ている。
モネはハーモニカを持って来たのに、ゴヌクがいない。
「ゴヌクさんどこいったの?練習したのに」
「ハーモニカ?」
「最初のプレゼントだもの。がんばって練習したの」
「あの人が……そんなに好き?」
「うん」
モネはしあわせそうに微笑む。
テラの表情はいっそう険しくなった。
ウォニンは学校帰りに、気になる男の子をこっそり見ている。
そこへゴヌクが背後から近寄って、からかいだした。
「誰を見てるんだ?あいつか?協力してやろうか」
「も~!やめてよ~」
ゴヌクの携帯に電話がかかってきた。
ソニョンの飛び降りたビルの前で、テソンが酔いつぶれているという。
ゴヌクはジェインに電話をかけて情報を教えてやった。
「介抱してやれ。チャンスだろ?」
「そういう言い方やめてよ」
「切るぞ」
不機嫌に電話を切る。
ウォニンは、電話の相手が姉だとはつゆとも知らず、ニコニコとゴヌクに聞いている。
「彼女?」
ゴヌクはしぶい顔だ。
「ねえ、ほんとに協力してくれる?
人生で一番難しいのは恋だと思うんだよね」
「勉強は?」
「とっくにあきらめたよ!」
ゴヌクは思わず笑った。
「おじさん、協力してくれるの?!」
「愛なんか、信じるな」
「え?」
「信じたければ、相手に自分を愛させろ。
自分から愛さずに」
遠い目をするゴヌクに、ウォニンはきっぱりと言った。
「身勝手すぎる。
お互い愛し合わなきゃしあわせじゃないでしょーが!
まったく……」
ウォニンのまっすぐな言葉に、ゴヌクは笑顔になった。
頭をなでてやり、「じゃあな」と笑った。
ジェインはゴヌクの言った住所にお洒落をして出かけていった。
テソンが酔いつぶれているのを車にのせ、送ろうとすると、
刑事が声をかけた。
「ああ、ギャラリーに来ましたね」
話しているうちに、ジェインは思い出した。
そういえば、あの夜、このあたりで交通事故を起こした。
背の高い男の人が道路に出てきて、車にぶつかってきたのだ。
刑事に話すと、熱心に頷いている。
「でもなぜテソンさんにそんな話を聞きに?」
「ああ、住人だったので話をきいているだけなんですよ」
刑事はごまかした。
「それより、あの夜特に記憶に残ったことは?」
「ああ、その人、背中に傷跡が」
ゴヌクは部屋でひとり、ものを思っている。
ジェインとふたりで撮った写真を手に。
(つづく)
なんだよなー、ゴヌクや。
お前さん、なにをどうしたいんだい?
いやいや、もちろんわかってるつもりだよ?
両親を死なせたも同然のヘシングループのやつらに復讐したいんでしょ?
でもジェインの存在がね~。
あなた自身にもどうしようもない感じなのねぇ。
何度も、テソンを落とすチャンスを作ってあげるゴヌク。
そのくせ、ジェインとテソンのことがいちいち気になるのよ。
自分はテラとよろしくやっておいて、ジェインのことが気になる。
やんなくてもいいのに、後片付けを手伝ってやって、どうだったか聞いちゃう。
「手料理」って答えるゴヌクが子どもみたいで、
彼女の前では時々すごく素直になるゴヌクが切なくて仕方がない。
シスコンか!
この人、マジでそーなんじゃないの。
モネなんかには大人ぶってかっこつけてるけど、
しっかりもののお姉さんタイプには弱いじゃん。
ソヒョンにしろジェインにしろ……。
テラとエレベーターの中で、大人な会話を交わした後、
ジェインと遭遇してきょどってたでしょ。
イタズラを見つかった犬みたいになってましたでしょ。
その豹変ぶりに萌え萌えするんですが、
やっぱりあなた、ジェインのこと好きなんでしょう。
ポラロイドを捨てられないのが、その証拠でしょう。
策を弄して自分にぶつかってきたあの時、
なんだ、同類か?面白い女だな、と思ったでしょう?
あの時から、もう、彼女を手放すことができないんでしょう?
怪我をしたってきいて、フーッて全身逆毛を立ててましたもんね。
心配したんでしょ。
でも結局のろけで、ムカついたでしょうね~、かわいそうに。
あのこ、キスまでしてるんですよ?
言いつけてやりたいわ、ほんと。
でもね、テソンとのキスの直後にゴヌクに電話入れてるってとこが、重要だと思うんですよ。
なんか、隠してないから浮気じゃない、って言い張る女みたいなにおいを感じるんですよ。
本気じゃないから、全部報告するんだ、
わたしたち、共犯なんだ、みたいなジェイン側の気持ち。
お芝居だってわかってるでしょ、だからあんたには、話しておきたいの。
すぐに電話して、言い訳してるみたいな感じがするんだよな~。
うがちすぎかな~。
そのー、最初っから知ってるからね、ジェインは。
モネがゴヌクを好きだって。
ゴヌクも、モネとつきあうつもりなんだって。
キスしといて、私を好きなのか、ときいてもゴヌクは答えないわけだから。
そりゃ遠慮なくテソンを狙いますよ。
例のレストランで聞いた母子の会話まで利用してね。
ゴヌクは悪い男かもしれませんが、ジェインもそこそこ悪い女だと思うな。
彼らを見ちゃうと、モネの笑顔が健気すぎて泣きそう。
恋する乙女のキラキラした気持ちが、もったいない!
素性もなにも、ほぼ一目惚れ状態で、
ゴヌクのことなんてほんとはなーんにも知らないのに、夢中になってるモネ。
ゴヌクがどんな気持ちでアフリカの絵を見ていたか、
知ろうともしないんですよ、この子。
それはまさしく愛ではなくて、恋で、初恋なんだな、と思います。
シニカルなセリフを、ウォニンに一刀両断されたゴヌクは嬉しそう。
働いてお金を稼ぐことについても、
人を愛することについても、ほんとにまっすぐでまっとうなウォニン。
興味本位でタバコ買おうとして不良だけど、中身はまっすぐな高校生。
かわいい、かわいい。
ゴヌクがいじっちゃう気持ち、わかるなぁ。
おじさんやおねーさんが不毛な恋愛ごっこに興じてる間に、
あの男の子と仲良くなれるといいね。
おじさんなんかに協力してもらったらろくなことにならないからね。
んもー、テラとのシーンは相変わらず不完全燃焼。
そう思ってるのはわたしだけかもしんないけど。
誘惑されるかされないか、ってとこがいいんじゃないのー?
実力行使しちゃうといまひとつなんだよな。
それはやっぱり、ゴヌクに心がないから?
嘘だから、ラブシーンもどこか醒めた印象がぬぐえないのかな。
テラは緊張しつつもドキドキしてるみたいだけど……。
テラのスカート丈が短すぎるのもイヤだったんだよね。
既婚で子持ちが、あんな膝上ワンピはないだろ。
ストッキング換える所作が美しく見えないよ。
あそこは、ロング丈で、すーっとまくってくれないと。
そして基本、ガーターベルトでとめといてくれないと。
ベルトをはずして換えるところを見せて欲しいなぁ。
あれじゃあ、おばあちゃんの膝上ストッキング交換とかわんないじゃないか。
弟にも「見ないで」と言いながら手早くストッキングを換えるエロティシズムが
欲しいシーンだったと思う。残念。
まんまと手玉にとられてるテソンも気の毒でね~。
ゴヌクにもジェインにも、いいように転がされてる子なわけですから。
「ご家族ですか?」ってきかれて、にやぁっとしちゃう寂しい子なんですから。
テラは濡れたまま、夫のいる家へ帰った。
ゴヌクのことを考えるとなぜか胸が騒いだ。
不安で、今夜だけは、夫と一緒に眠りたいと思う。
しかし、彼は応えてはくれなかった。
ゴヌクは夜の工事現場にスタント仲間を呼び出した。
資材泥棒を捕まえるのに、協力してもらうためだ。
多少の手違いはあったが、無事に犯人を捕まえたゴヌクは、
翌朝会長に呼び出され、
功績を認められ、社員にならないか、と持ちかけられた。
ギャラリーオープンのパーティー。
テソンはゴヌクと一緒に会場に来ていた。
どうやらギャラリーのテーマは「仮面」のようで、
様々な仮面をつけた客人が、会場を歩いている。
テソンはジェインの姿を遠目に見つけ、
その様子を見たゴヌクが、彼女に声をかけた。
「ジェイン、元気か?」
親しげなふたりをちらちらと見ているテソン。
会場にはもちろんテラもいて、ゴヌクは彼女に視線を止めた。
テラも、ゴヌクを見つけ、不安げな視線をよこしている。
ゴヌクは手話で、彼女に何かを言った。
退屈したテソンは、ゴヌクにゲームを持ちかけた。
洋服を取り替えて仮面をかぶり、バレないように入れ替わろう。
「しばらくホン・テソンになれる。思い切り楽しめよ」
ひとりになったゴヌクは、皮肉に笑った。
「ホン・テソンか。久しぶりの名だ」
テソンに化けたゴヌクは、酔ったフリでグラスを割り、顰蹙を買う。
シン夫人は大事なパーティーを台無しにされかねず、イライラと怒っている。
テラは伝染したストッキングを変えようと、別室に入った。
そこには、ゴヌクが寝ていた。
テラは、弟のテソンだと思っていたのだが、彼が始めた手話を見てハッとする。
仮面を外した男の顔は、ゴヌク。
「あなた……」
「今日のあなたはこの会場で一番美しい」
見つめ合うふたり。
そこへ、モネがゴヌクを探して入ってきた。
ゴヌクはテラの腕をとり、物陰に引き込む。
抱きしめられて、テラは声も出せない。
モネが探しているとなれば、なおさらだ。
こんな状況では、出て行けない。ゴヌクに抱きとめられて。
モネがあきらめて部屋を出た。
「胸の鼓動が、聞こえる」
身体を離そうとしたテラは、ゴヌクに引き戻された。
そのまま、唇を重ねようとする彼に抵抗したが、耐えきれなかった。
夢中で、口づけを交わす。
モネたちの声が聞こえて、身体を離した。
部屋から出たテラは、夫と鉢合わせ、ぎょっとする。
「どうしたんだい?顔色が悪いぞ」
「姉さん、部屋にいたの?私の声、聞こえなかった?」
テラは動揺していた。
「テソンさん、グラスを割るなんて……」
ジェインが話しかけた。
「しっ、俺だ。テソンと入れ替わった。チャンスだぞ。料理してみろ」
ゴヌクに言われ、ジェインはテソンに近づいてゆく。
もちろん、彼をゴヌクだと信じているふりをして。
あの人が仮面をわったわけを考えてたの。
母親の気を引きたかったのね。
自分を見て欲しいのに、誰にも顧みられなかったら、つらいでしょう。
ひとりで生きていけるあんたと違って、あの人はほっておけない。
どうしても気になるの。
家族の誰かが、ご飯食べた?元気にしてる?って気にかけてあげなくちゃいけないのよ。
テソンは、ひとりになると仮面を外してにやけてしまった。
「何かやったか?」ときいた。
「叩きわって、粉々にしました」
「……どんな女だ?」
「誰?」
「ギャラリーの」
「ムン・ジェイン?」
「友達なんだろ?」
「ええ、まあ」
「しつこいって嫌がられてたぞ」
テソンは余裕の笑みを浮かべ、ジェインの首尾を感じ取ったゴヌクもふっと笑った。
ひとり、パーティーの後片付けをしているジェイン。
ゴヌクが現れて、手伝ってくれる。
「ありがと」
ゴヌクにじっと見つめられて、ジェインは「何か?」
「芝居の腕を上げたな。コーヒーをかけた時は下手くそだったのに」
ふふふと笑ってジェインは言う。
「ホン・テソンはなんて言ってた?」
「どんな女か、って」
「それだけ?」
「それで全部」
「それだけだった?じゃもう一押しかな」
ジェインは掃除の手を止めてゴヌクにもたれかかった。
「ねえ、ゴヌク、ホン・テソンは何が好きかしら?」
「さあね」
「いつも一緒にいるでしょ?」
「奴にあわせるな。奴をお前好みに染めるんだ」
「ふ~ん。
あんたがホン・テソンなら、何をしてほしい?
言ってみて。同じ男として。何して欲しい?」
少し考えて、ゴヌクは答える。
「手料理」
ジェインは笑ってしまった。
「本気?毎日シェフの料理を食べてる人が手料理?
はは、あんたにきいた私がバカだったわ」
ジェインは彼に身体を預けて、目をつぶる。
「あ~、楽だわ。片付け終わんないね」
同じようにジェインに身体を預け、目をつぶるゴヌク。
翌朝、ゴヌクはとある駐車場でわざと車をぶつけた。
身分を隠して接触したのは、ヘシンの投資顧問。
投資先を探しているといい、代車を用意し、相手を信用させる。
計画は順調だ。
会社に出社すると、テラとエレベーターで一緒になった。
「会社に何をしにきたの?」
ゴヌクは挑戦的にテラの前に立った。
「私をどうする気?」
「何を怯えてる?」
「え?」
ゴヌクはテラに口づけようとした。
彼女は抵抗しなかった。
ゴヌクは寸前で身体を離すと、彼女の耳元で囁いた。
「今日から社員なんです。よろしく、ホン・テラ専務」
エレベーターは1階に止まり、扉が開いた。
そこには、ジェインの姿があった。
思わぬところで出会った。
彼女に気付いたゴヌクは目線をさまよわせる。
「ゴヌク、あれモネのお姉さんじゃない?」
「ん」
「上で会ったの?」
「ん、上で会った」
言葉少なに返事をする。
自販機のコーヒーを奢る。
「へぇ、じゃヘシンの社員になったの?」
「ん」
「おめでと。家族に歓迎されないかと思ったけど、会社にまでいれてくれた。
気にいられたのね。じゃ、モネと結婚を?」
「いや、モネとは関係ない」
ふたりの間に微妙な空気が流れる。
「これやるよ」
ゴヌクは、ジェインに高級ジムの会員権を渡した。
今日から、テソンがそこへ通う。
「高いでしょ、これ」ジェインは驚いた。
「落としたいんだろ?じゃあな」
ジェインは、シン夫人の部屋にコーヒーを運んだ。
刑事が訪れて、話を聞いている。
テソンの恋人ソニョンは、転落死した。
ソニョンと、以前ヘシンにいた子どもが、施設で一緒に育ったという。
「捜査に協力してくださいませんか」
その子は死んだと聞いている。協力することなど、なにもない。
シン夫人は警察を追い返し、ウン刀自に電話をかけ、命じた。
20年前に追い出したあの子を、捜し出すようにと。
ウン刀自は、ゴヌクの様子を思い出す。
キャラメルを口にして、泣いていた彼を。
ジェインはジムで、テソンを待っている。
思っていたとおり、テソンは現れ、ジェインの近くをウロウロとしている。
ところが、ジェインは転んでねんざをしてしまった。
テソンは慌てて彼女をおんぶして、病院へ駆け込む。
薬をもらったり、問診票を出したり、けが人の世話はたいへんだ。
でもなんだか、うれしいのはなぜだろう?
テソンはジェインを送っていった。
「これ薬。たいへんだったけどけっこう面白かった」
「じゃ、また怪我しようかな」
ジェインの軽口に、テソンの顔が曇った。
「また行きたくはない。一度で十分だ」
なんとなく、沈黙が訪れた。
「あ、今日はありがとう」
行こうとしてジェインはよろめいて、テソンに抱き留められる。
そしてそっとキスされた。
テソンと別れ、ジェインはすぐにゴヌクに電話をかけた。
「私よ、会員証ありがとう。でもしばらくいけないわ。怪我しちゃったから」
「怪我?」
ゴヌクは心配するが、逆にジェインにのろけのような話をきかされて不機嫌になる。
「初めて介抱した相手のことは忘れないっていうよ。おめでとう」
「何よ、嫌みな言い方ね」
「切るぞ」
素っ気なく電話を切って、放り出した。
ジェインの携帯に、テソンからメールが届く。
薬を飲み忘れないように、と書いてあった。
テソンは、薬局でもらった領収書を嬉しそうに眺めている。
「ご家族ですか?」と聞かれたっけ。
ジェインから、お礼のメールが届いた。
顔がにやけるのを、止めることができなかった。
ゴヌクは、ヘシンの投資顧問カン・ユンチョルを引っかけようとしている。
彼は、ヘシン財閥の長男テギュンの裏金を管理している男なのだ。
その長男が、帰国した。
家族の親しい団らんに、ゴヌクもテソンについて同席する。
「席を外してちょうだい」シン夫人は不機嫌だ。
「彼は兄さんの秘書としてきたんじゃないわ!わたしの恋人よ。家族でしょ」
モネがゴヌクの肩を持つ。
「テソンの秘書?」
「俺は関係ないよ。オヤジが社員にしたんだ」
「私の意見も聞かずに勝手に……」
それぞれが勝手なことを言い出し、部屋の空気は一気に険悪になった。
「もう我慢できないわ。これだから女まで死なせるのよ」
シン夫人の言葉が、場を凍り付かせた。
「誰のこと?」
「テソンが連れてきた女よ。遊びもほどほどにしなさい。
振られて死ぬなんて、希望を与えすぎたのね」
テソンも、黙っていられない。
「今なんといった?」
「どう償う気?女も管理できないくせに減らず口を叩かないで!」
ソニョンの話題は、テソンの神経を逆なでする。
「全部俺のせいだ!それで満足か?
あんたたちの態度はどうだったんだ?二度と彼女のことは口に出すな!」
テソンは家族を怒鳴りつけて、出ていった。
団らんしている家族のもとへ、荷物が届いた。
エンターバイオ監査報告書。
長兄のテギョンは動揺しているようだ。
これはゴヌクの計算通りだった。
ゴヌクは庭で、ソダムと遊んでやっている。
モネも一緒で、みな楽しそうだ。
「そうだ、いいものがあるの、待ってて」
モネがソダムと部屋へ戻り、テラスにはゴヌクとテラが残された。
「ソダムはママに似てかわいいね」
隣に立つゴヌクに、テラは冷たい。
「あの日のことは過ちよ」
「過ち?本当に?」
その場を離れようとするテラを、ゴヌクが手を握り、止める。
「本心か?」
「家族がいるのよ。もう帰って」
それでもゴヌクは手を離そうとしない。
「答えてくれ」
「何が聞きたいの?」
「君の本心」
「しつこい人」
「……帰るよ」
ゴヌクは帰って行った。
その様子をウン刀自が見ている。
モネはハーモニカを持って来たのに、ゴヌクがいない。
「ゴヌクさんどこいったの?練習したのに」
「ハーモニカ?」
「最初のプレゼントだもの。がんばって練習したの」
「あの人が……そんなに好き?」
「うん」
モネはしあわせそうに微笑む。
テラの表情はいっそう険しくなった。
ウォニンは学校帰りに、気になる男の子をこっそり見ている。
そこへゴヌクが背後から近寄って、からかいだした。
「誰を見てるんだ?あいつか?協力してやろうか」
「も~!やめてよ~」
ゴヌクの携帯に電話がかかってきた。
ソニョンの飛び降りたビルの前で、テソンが酔いつぶれているという。
ゴヌクはジェインに電話をかけて情報を教えてやった。
「介抱してやれ。チャンスだろ?」
「そういう言い方やめてよ」
「切るぞ」
不機嫌に電話を切る。
ウォニンは、電話の相手が姉だとはつゆとも知らず、ニコニコとゴヌクに聞いている。
「彼女?」
ゴヌクはしぶい顔だ。
「ねえ、ほんとに協力してくれる?
人生で一番難しいのは恋だと思うんだよね」
「勉強は?」
「とっくにあきらめたよ!」
ゴヌクは思わず笑った。
「おじさん、協力してくれるの?!」
「愛なんか、信じるな」
「え?」
「信じたければ、相手に自分を愛させろ。
自分から愛さずに」
遠い目をするゴヌクに、ウォニンはきっぱりと言った。
「身勝手すぎる。
お互い愛し合わなきゃしあわせじゃないでしょーが!
まったく……」
ウォニンのまっすぐな言葉に、ゴヌクは笑顔になった。
頭をなでてやり、「じゃあな」と笑った。
ジェインはゴヌクの言った住所にお洒落をして出かけていった。
テソンが酔いつぶれているのを車にのせ、送ろうとすると、
刑事が声をかけた。
「ああ、ギャラリーに来ましたね」
話しているうちに、ジェインは思い出した。
そういえば、あの夜、このあたりで交通事故を起こした。
背の高い男の人が道路に出てきて、車にぶつかってきたのだ。
刑事に話すと、熱心に頷いている。
「でもなぜテソンさんにそんな話を聞きに?」
「ああ、住人だったので話をきいているだけなんですよ」
刑事はごまかした。
「それより、あの夜特に記憶に残ったことは?」
「ああ、その人、背中に傷跡が」
ゴヌクは部屋でひとり、ものを思っている。
ジェインとふたりで撮った写真を手に。
(つづく)
なんだよなー、ゴヌクや。
お前さん、なにをどうしたいんだい?
いやいや、もちろんわかってるつもりだよ?
両親を死なせたも同然のヘシングループのやつらに復讐したいんでしょ?
でもジェインの存在がね~。
あなた自身にもどうしようもない感じなのねぇ。
何度も、テソンを落とすチャンスを作ってあげるゴヌク。
そのくせ、ジェインとテソンのことがいちいち気になるのよ。
自分はテラとよろしくやっておいて、ジェインのことが気になる。
やんなくてもいいのに、後片付けを手伝ってやって、どうだったか聞いちゃう。
「手料理」って答えるゴヌクが子どもみたいで、
彼女の前では時々すごく素直になるゴヌクが切なくて仕方がない。
シスコンか!
この人、マジでそーなんじゃないの。
モネなんかには大人ぶってかっこつけてるけど、
しっかりもののお姉さんタイプには弱いじゃん。
ソヒョンにしろジェインにしろ……。
テラとエレベーターの中で、大人な会話を交わした後、
ジェインと遭遇してきょどってたでしょ。
イタズラを見つかった犬みたいになってましたでしょ。
その豹変ぶりに萌え萌えするんですが、
やっぱりあなた、ジェインのこと好きなんでしょう。
ポラロイドを捨てられないのが、その証拠でしょう。
策を弄して自分にぶつかってきたあの時、
なんだ、同類か?面白い女だな、と思ったでしょう?
あの時から、もう、彼女を手放すことができないんでしょう?
怪我をしたってきいて、フーッて全身逆毛を立ててましたもんね。
心配したんでしょ。
でも結局のろけで、ムカついたでしょうね~、かわいそうに。
あのこ、キスまでしてるんですよ?
言いつけてやりたいわ、ほんと。
でもね、テソンとのキスの直後にゴヌクに電話入れてるってとこが、重要だと思うんですよ。
なんか、隠してないから浮気じゃない、って言い張る女みたいなにおいを感じるんですよ。
本気じゃないから、全部報告するんだ、
わたしたち、共犯なんだ、みたいなジェイン側の気持ち。
お芝居だってわかってるでしょ、だからあんたには、話しておきたいの。
すぐに電話して、言い訳してるみたいな感じがするんだよな~。
うがちすぎかな~。
そのー、最初っから知ってるからね、ジェインは。
モネがゴヌクを好きだって。
ゴヌクも、モネとつきあうつもりなんだって。
キスしといて、私を好きなのか、ときいてもゴヌクは答えないわけだから。
そりゃ遠慮なくテソンを狙いますよ。
例のレストランで聞いた母子の会話まで利用してね。
ゴヌクは悪い男かもしれませんが、ジェインもそこそこ悪い女だと思うな。
彼らを見ちゃうと、モネの笑顔が健気すぎて泣きそう。
恋する乙女のキラキラした気持ちが、もったいない!
素性もなにも、ほぼ一目惚れ状態で、
ゴヌクのことなんてほんとはなーんにも知らないのに、夢中になってるモネ。
ゴヌクがどんな気持ちでアフリカの絵を見ていたか、
知ろうともしないんですよ、この子。
それはまさしく愛ではなくて、恋で、初恋なんだな、と思います。
シニカルなセリフを、ウォニンに一刀両断されたゴヌクは嬉しそう。
働いてお金を稼ぐことについても、
人を愛することについても、ほんとにまっすぐでまっとうなウォニン。
興味本位でタバコ買おうとして不良だけど、中身はまっすぐな高校生。
かわいい、かわいい。
ゴヌクがいじっちゃう気持ち、わかるなぁ。
おじさんやおねーさんが不毛な恋愛ごっこに興じてる間に、
あの男の子と仲良くなれるといいね。
おじさんなんかに協力してもらったらろくなことにならないからね。
んもー、テラとのシーンは相変わらず不完全燃焼。
そう思ってるのはわたしだけかもしんないけど。
誘惑されるかされないか、ってとこがいいんじゃないのー?
実力行使しちゃうといまひとつなんだよな。
それはやっぱり、ゴヌクに心がないから?
嘘だから、ラブシーンもどこか醒めた印象がぬぐえないのかな。
テラは緊張しつつもドキドキしてるみたいだけど……。
テラのスカート丈が短すぎるのもイヤだったんだよね。
既婚で子持ちが、あんな膝上ワンピはないだろ。
ストッキング換える所作が美しく見えないよ。
あそこは、ロング丈で、すーっとまくってくれないと。
そして基本、ガーターベルトでとめといてくれないと。
ベルトをはずして換えるところを見せて欲しいなぁ。
あれじゃあ、おばあちゃんの膝上ストッキング交換とかわんないじゃないか。
弟にも「見ないで」と言いながら手早くストッキングを換えるエロティシズムが
欲しいシーンだったと思う。残念。
まんまと手玉にとられてるテソンも気の毒でね~。
ゴヌクにもジェインにも、いいように転がされてる子なわけですから。
「ご家族ですか?」ってきかれて、にやぁっとしちゃう寂しい子なんですから。
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