前回のゼッツーとの闘いからになります。
207:
キミは不滅の栄光の公園で見た地滑りを思い出した。確率は低いが取
り敢えず他に手はない。
─やってやるさ
バーニアを使って機体を川岸の丘へ持って行く。ΖⅡは撃ってくる代
わりにジリジリと距離を詰めて来た。着地した瞬間を狙って、斬りか
かって来るつもりなのだろう。
丘の上にある公園に着地すると同時に、機体を横に倒して転がる。膝
をついて着地したΖⅡがビームサーベルを振りかぶるのが見えた。
─ダメか!
その途端、ΖⅡの足下のアスファルトが裂けた。ΖⅡの着地した丘の
端の土砂がソックリ欠け、ドニエプル川に滑り落ちて行った。その地
滑りに飲み込まれかけたΖⅡは背中の推進器を全開にして上昇しよう
とする。
「逃すか!」
少なくとも4発のビームを至近距離から喰らったΖⅡは対岸迄吹き飛
んだ。
:189
189:
降下して来たダッジに飛び乗る。
ノールカップに行くなら、下手に小細工なんかしない方が良い。
「川沿いに飛んでくれ。オレは暫く休む」
スカンジナビア山脈にノルディスカと呼ばれるエゥーゴのシャトル基
地がある。100キロに渡る山地を要塞化し、常駐兵力は7万と言う
から地球上にあるエゥーゴの拠点としては最大級のものだろう。1日
のシャトル離発着回数はジオン地上軍との戦闘が本格化するに連れて
鰻登りに増え続け、今では50とも100とも噂されている。
宇宙から送られてくる大量の物資を輸送するため、エゥーゴは度重な
る戦闘でズタズタになっていたスカンジナビア半島と中央ヨーロッパ
を結ぶ鉄道網を整備修復した。連邦との同盟が成立した今では、その
輸送網はかなりの地域に広がり、中央ヨーロッパの復興はノルディス
カからの物資なしには考えられない。
ゴーメリ駅のプラットホームに立ったキミは、首を締めつけるエゥー
ゴ地上軍士官の制服のカラーを指でくつろげつつ、目の前の列車を見
やった。ミディは呆れ顔で前方の動力車を眺めている。
「地球じゃ未だこんな原始的な輸送手段を使っているの?」
「チューブトレインでも使えって言うのか?エネルギーのコストの桁
が違うんだよ。これに乗ればマルムンスク迄行けんだから」
しかし、ミディは不満そうな顔のまま黙っている。
「何か文句でもあんのか?」
「この列車のチケットから偽造のID迄手に入れたのは流石だけど…
この服はどうにかならなかったの?」
「似合ってんじゃないか」
ミディは白のブラウスに青のフレアスカートという格好だった。長い
髪がベルトでギュッと締めたウェストの辺り迄垂れている。
自分の格好を見下ろしたミディは、溜息をついた。
「アナタにこの類のセンスは期待していなかったけど…恥ずかしいわ、
こういうの」
ネオジオン宇宙軍のド派手な軍服の方が余程恥ずかしいじゃないかと
思ったが、口に出すのは止めた。
一等車の入口には車掌が立っていた。チケットとIDを受け取り、キ
ミとミディを見較べる。
「そちらは?」
「妹。1ヶ月前に宇宙から降りて来たばかりなんだ。休暇を取って兄
妹水入らずでヨーロッパ巡りってワケさ」
「コンパートメントは5番です」
コンパートメントに入り、向かい合ってシートに腰を下ろす。暫くす
ると列車は静かに走り始めた。街を出ると車窓には森と平原が繰り返
されるだけの単調な眺めが展開される。
「ノールカップで一体誰が待っているのか…そろそろ話してくれても
良いんじゃないか?」
「アイスランドから私を迎えに来るの」
「ティターンズか!」
ティターンズは現在、アイスランドのレイキャビクに司令部を置いて
いる筈だ。
「少なくともオレの知っているティターンズは、ジオン逃亡兵を匿っ
てくれる程親切な所じゃないからな」
「私は彼らが必要としているカードを持っている─彼らは私に相応の
地位を与える─立場は同格よ」
「カード?どんなカードだ」
「彼らの計画を成功させる力となるもの─同盟に骨抜きにされて行く
のをティターンズが大人しく待っていると思う?彼らは、クーデター
を起こそうとしているのよ。ティターンズの権威が失われた今、軍は
行政府の直轄下に置かれているわ。その中でも航空隊、モビルスーツ
隊を含む最大の陸軍は、大ブリテン島のウェールズ中部山岳地帯にあ
る連邦情報部が指揮している。この情報部を制圧し、軍の主導権を握
ることがクーデターの目的よ。情報部と言えば、アナタの古巣になる
ワケね」
「ティターンズの連中が考えそうなことだよ。何にしてもオレには関
係ないね。オレの役目はノールカップ迄連れて行って差し上げること
だけだからな」
「アナタにはまだやって貰いたいことがあるの」
思わず腰を浮かせたキミは、ミディの二の腕を掴んだ。
「そいつは聞けないな。ノールカップに着いたらキーワードを教えて
貰う。それでお別れだ」
「クーデターに手を貸してくれるだけでいいの」
「ふざけるな!」
「あんな人のことはどうだって良いじゃない!」
二の腕を掴んだ手を振り払い、ミディは体毎キミに向き直った。
「アナタには力があるのよ。それは人工的に与えられた力かも知れな
いけど、他の誰にもない、アナタだけの大きな力…アナタさえその気
になれば、私たちはこの世界を変えられるかも知れない…変えられな
いかも知れないけど、そのための努力はしなくてはいけないわ。力あ
る者としての義務よ。なのにアナタはあんな人のことを…」
「世界を変える?どう変えるって言うんだ、ジオン=ダイクンって名
の神様でもでっち上げるのか?」
「そんなこと言ってない、私をあんな人たちと一緒にしないで!」
「ネオジオンも エゥーゴも私は嫌いよ。皆自分たちが地球でやって
来たことを忘れた振りをして、宇宙こそ人類の生きる場所なんて言っ
てる。ドロドロとした汚い垢を地球に置き棄て、宇宙でキレイに生き
ていけるつもりでいる」
「ノールカップに着いたら、キーワードを教えて貰う。嫌ならオレは
ここで降ろさせて貰うぜ」
「喉が乾いたわ…何か飲んで来る」
コンパートメントを出て行くミディの小さな背を見送る。
ミディの言葉に心を動かされなかったと言えば嘘になる。サザダーン
で初めて会った時もそうだったが、あの少女には不思議な魅力があっ
た。小さな体に誇大妄想的な野望を詰め込んだアンバランスさが見て
いる者に放っておけないという感情を抱かせる。
ドアがノックされる音でキミは、ハッと我に返った。
「誰だ?」
「隣のコンパートメントの方が水の出が悪いと仰るので…申し訳あり
ませんが、配管を調べさせて頂きます」
そっとロックを外し、ドアを細めに開けて外を覗こうとした時、その
隙間から拳銃が突き出され、キミの胸の辺りをピタリと狙った。
・ドアを閉める:209
・手を上げる:123
・ドアの横に隠れる:122
ピンチでございますが、次週に続きます。
次回は209から再開となります。
207:
キミは不滅の栄光の公園で見た地滑りを思い出した。確率は低いが取
り敢えず他に手はない。
─やってやるさ
バーニアを使って機体を川岸の丘へ持って行く。ΖⅡは撃ってくる代
わりにジリジリと距離を詰めて来た。着地した瞬間を狙って、斬りか
かって来るつもりなのだろう。
丘の上にある公園に着地すると同時に、機体を横に倒して転がる。膝
をついて着地したΖⅡがビームサーベルを振りかぶるのが見えた。
─ダメか!
その途端、ΖⅡの足下のアスファルトが裂けた。ΖⅡの着地した丘の
端の土砂がソックリ欠け、ドニエプル川に滑り落ちて行った。その地
滑りに飲み込まれかけたΖⅡは背中の推進器を全開にして上昇しよう
とする。
「逃すか!」
少なくとも4発のビームを至近距離から喰らったΖⅡは対岸迄吹き飛
んだ。
:189
189:
降下して来たダッジに飛び乗る。
ノールカップに行くなら、下手に小細工なんかしない方が良い。
「川沿いに飛んでくれ。オレは暫く休む」
スカンジナビア山脈にノルディスカと呼ばれるエゥーゴのシャトル基
地がある。100キロに渡る山地を要塞化し、常駐兵力は7万と言う
から地球上にあるエゥーゴの拠点としては最大級のものだろう。1日
のシャトル離発着回数はジオン地上軍との戦闘が本格化するに連れて
鰻登りに増え続け、今では50とも100とも噂されている。
宇宙から送られてくる大量の物資を輸送するため、エゥーゴは度重な
る戦闘でズタズタになっていたスカンジナビア半島と中央ヨーロッパ
を結ぶ鉄道網を整備修復した。連邦との同盟が成立した今では、その
輸送網はかなりの地域に広がり、中央ヨーロッパの復興はノルディス
カからの物資なしには考えられない。
ゴーメリ駅のプラットホームに立ったキミは、首を締めつけるエゥー
ゴ地上軍士官の制服のカラーを指でくつろげつつ、目の前の列車を見
やった。ミディは呆れ顔で前方の動力車を眺めている。
「地球じゃ未だこんな原始的な輸送手段を使っているの?」
「チューブトレインでも使えって言うのか?エネルギーのコストの桁
が違うんだよ。これに乗ればマルムンスク迄行けんだから」
しかし、ミディは不満そうな顔のまま黙っている。
「何か文句でもあんのか?」
「この列車のチケットから偽造のID迄手に入れたのは流石だけど…
この服はどうにかならなかったの?」
「似合ってんじゃないか」
ミディは白のブラウスに青のフレアスカートという格好だった。長い
髪がベルトでギュッと締めたウェストの辺り迄垂れている。
自分の格好を見下ろしたミディは、溜息をついた。
「アナタにこの類のセンスは期待していなかったけど…恥ずかしいわ、
こういうの」
ネオジオン宇宙軍のド派手な軍服の方が余程恥ずかしいじゃないかと
思ったが、口に出すのは止めた。
一等車の入口には車掌が立っていた。チケットとIDを受け取り、キ
ミとミディを見較べる。
「そちらは?」
「妹。1ヶ月前に宇宙から降りて来たばかりなんだ。休暇を取って兄
妹水入らずでヨーロッパ巡りってワケさ」
「コンパートメントは5番です」
コンパートメントに入り、向かい合ってシートに腰を下ろす。暫くす
ると列車は静かに走り始めた。街を出ると車窓には森と平原が繰り返
されるだけの単調な眺めが展開される。
「ノールカップで一体誰が待っているのか…そろそろ話してくれても
良いんじゃないか?」
「アイスランドから私を迎えに来るの」
「ティターンズか!」
ティターンズは現在、アイスランドのレイキャビクに司令部を置いて
いる筈だ。
「少なくともオレの知っているティターンズは、ジオン逃亡兵を匿っ
てくれる程親切な所じゃないからな」
「私は彼らが必要としているカードを持っている─彼らは私に相応の
地位を与える─立場は同格よ」
「カード?どんなカードだ」
「彼らの計画を成功させる力となるもの─同盟に骨抜きにされて行く
のをティターンズが大人しく待っていると思う?彼らは、クーデター
を起こそうとしているのよ。ティターンズの権威が失われた今、軍は
行政府の直轄下に置かれているわ。その中でも航空隊、モビルスーツ
隊を含む最大の陸軍は、大ブリテン島のウェールズ中部山岳地帯にあ
る連邦情報部が指揮している。この情報部を制圧し、軍の主導権を握
ることがクーデターの目的よ。情報部と言えば、アナタの古巣になる
ワケね」
「ティターンズの連中が考えそうなことだよ。何にしてもオレには関
係ないね。オレの役目はノールカップ迄連れて行って差し上げること
だけだからな」
「アナタにはまだやって貰いたいことがあるの」
思わず腰を浮かせたキミは、ミディの二の腕を掴んだ。
「そいつは聞けないな。ノールカップに着いたらキーワードを教えて
貰う。それでお別れだ」
「クーデターに手を貸してくれるだけでいいの」
「ふざけるな!」
「あんな人のことはどうだって良いじゃない!」
二の腕を掴んだ手を振り払い、ミディは体毎キミに向き直った。
「アナタには力があるのよ。それは人工的に与えられた力かも知れな
いけど、他の誰にもない、アナタだけの大きな力…アナタさえその気
になれば、私たちはこの世界を変えられるかも知れない…変えられな
いかも知れないけど、そのための努力はしなくてはいけないわ。力あ
る者としての義務よ。なのにアナタはあんな人のことを…」
「世界を変える?どう変えるって言うんだ、ジオン=ダイクンって名
の神様でもでっち上げるのか?」
「そんなこと言ってない、私をあんな人たちと一緒にしないで!」
「ネオジオンも エゥーゴも私は嫌いよ。皆自分たちが地球でやって
来たことを忘れた振りをして、宇宙こそ人類の生きる場所なんて言っ
てる。ドロドロとした汚い垢を地球に置き棄て、宇宙でキレイに生き
ていけるつもりでいる」
「ノールカップに着いたら、キーワードを教えて貰う。嫌ならオレは
ここで降ろさせて貰うぜ」
「喉が乾いたわ…何か飲んで来る」
コンパートメントを出て行くミディの小さな背を見送る。
ミディの言葉に心を動かされなかったと言えば嘘になる。サザダーン
で初めて会った時もそうだったが、あの少女には不思議な魅力があっ
た。小さな体に誇大妄想的な野望を詰め込んだアンバランスさが見て
いる者に放っておけないという感情を抱かせる。
ドアがノックされる音でキミは、ハッと我に返った。
「誰だ?」
「隣のコンパートメントの方が水の出が悪いと仰るので…申し訳あり
ませんが、配管を調べさせて頂きます」
そっとロックを外し、ドアを細めに開けて外を覗こうとした時、その
隙間から拳銃が突き出され、キミの胸の辺りをピタリと狙った。
・ドアを閉める:209
・手を上げる:123
・ドアの横に隠れる:122
ピンチでございますが、次週に続きます。
次回は209から再開となります。