山岳ガイド赤沼千史のブログ

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カモシカ

2015年03月06日 | 蝶よ花よ獣たちよ

 ここのところすっかり春めいて山の雪は春山のそれになりつつある。こんな時期の雪は上部の吹きだまりではパウダーであるが、吹き晒しではカリカリのハードパックとなり、標高を下げれば次第にやっかいなサンクラストやベト雪が入り交じった状態になって、山スキーを楽しむには難儀な季節である。しかし、リラックスして思い切りかっ飛ばせなくても、時に隠れたデブリにヒットして足をとられようと、刻々と変化する雪に情熱と勇気を持って取り組むのは、たまらなく楽しい事である。

 ほんの一日雪雲が沸いて新雪パウダーを楽しめそうだったので、栂池周辺に滑りに出かけた。期待していた新雪はそれほどでも無く少しがっかりだったが、板にシールを貼り付けゲレンデトップから歩き始めて小ピークへ登り上げる。そして北面に滑り込んだ。ちょっとした斜面変化で雪は刻々と変わる。勇気をもって踏んでいかないと、板は言うことを聞いてはくれず、自分の行き先さえままならぬ。恐怖とそれを乗り越えようとする自分とが交互に現れる。ワンターンで乗り遅れても次のターンで修正していかなければその先にある結果は惨めな転倒である。

  滑り込んだ谷から対岸の斜面を登りあげた。クラストした雪面を板でバンバン踏んで、氷の層を打ち破っては登る。ガスが沸いて目指す方向は肉眼では定かではないが、時々地図と睨めっこしてすすんだ。

 ふと上部からの視線を感じる。見上げると藪の向こうに黒い影が見えた。カモシカだった。カメラを取り出し、首にぶら下げゆっくりとカモシカに近づいた。カモシカはニホンジカと違って人影を見つけると直ぐに逃げてしまうような事は少なく、驚かせなければかなり接近出来る事もある。

 以前八ヶ岳で林道を歩いて居て目の前を親子のカモシカが横切ったことがあった。母親はそのまま山に入ったが、子供は林道に立ち止まって僕らに興味を持っているようだった。ゆっくり近づいても子カモシカは一向に動かず、とうとう僕は彼の鼻先に触れさせてもらう事ができた。母親はというと心配する風でもなく、10メートル程先でふり返って僕らを見つめているだけだった。そんなカモシカだから、これが狩猟の対象となっていれば、瞬く間にその数を減らしたことだろう。

 一説に因ると目が悪いのだとも言うのだが、今回のカモシカもこちらに興味津々で、僕と友人を交互に見つめてはじっとして動かない。20メートル程まで近づいて写真を撮らせてもらった。

 ガッチリした体格にキリリとした眼差し、何とも言えぬ威厳と風格が漂う。ところが正面から見る顔は意外にユーモラスで愛らしい。おそらくアブラの乗りきった牡であろう。フサフサの体毛の背中の辺りには、自らの活発な代謝に因って蒸散した汗が霧氷のように凍り付いているように見える。帰宅後写真を拡大して見たら、鼻水を垂らしていることも判明した。過酷な北アルプスの冬を彼らは何一つ所有せず、常に風雪にその身を晒して乗り切るのだ。人間の如何に弱っちいこと。真に尊敬すべきは彼らである。

静かに高揚した時間が流れた。

 10分ほど睨めっこしてとうとう僕らに飽きたのか、彼は体を翻して悠然と雪山に消えていった。カモシカと別れて尾根を越え再び北面に滑り込む。ガスが巻いてはいるが、適度に樹間の空いたブナの森は快適でパウダースノウも結構楽しめた。狭い谷底に降り立てば、ガリガリのクラストが僕らを手荒にお出迎え。必死で滑って白馬乗鞍スキー場にゴールしてハイタッチ。

 難儀だからこそ、楽しい楽しい山滑り、そして、勇者との出会いであった。

 


ツクモグサとホテイラン絶滅危惧種を巡る

2014年06月17日 | 蝶よ花よ獣たちよ

 ツクモグサとホテイランという二つの絶滅危惧種に一年に一度会いに行く。ツクモグサはキンポウゲ科の多年草、ホテイランはラン科の多年草だ。場所は敢えて言わないことにする。まあ調べれば解る事だし、近くの山荘のHPでは開花状況も掲載されているから、言ってしまっても良いのだが、これらの絶滅危惧種というのは、山野草マニアの標的にされて居るのも事実だ。特に野生ランに至っては狂信的なマニアが存在し、場所が特定されればあっという間に盗掘の憂き目に遭ってしまう。

「ナントカ山に行ってきました、登山口から少し登るとナントカランの群生地があって~~~~!」等と記載するとネット時代の恐ろしいところで、あっという間に検索され、翌日にはすっかり堀取られ・・・・・なんてことになってしまうのだ。

 僕が以前フラワーガイドとして滞在した(笑っちゃうでしょ?)礼文島にはレブンアツモリソウという固有種があって、これは今では野生種では絶滅に近いと聞く。その当時も盗掘騒ぎがあって、数十万円で取引されているとか、893が絡んでいるとかの噂もあった。レブンアツモリソウは現在「特定国内希少野生動植物種」(種の保存法)と言うものに指定されていて許可無く採取、移動、販売は出来ない。今では栽培技術が進んで特定の許可を受けた業者が培養、栽培を手がけているらしい。僕が礼文島に滞在した十数年前は、人工栽培で、花を咲かすことは不可能とされていたが、現在ではそれが可能になっている。盗掘が減るのであればそれはとても良いことだ。

 同じくアツモリソウもその群生地が周知されると、あっという間に盗掘に遭ってしまうので、これを守ろうという人達が花が咲くとそれををもいで回るとも聞く。赤い大型の花はとにかく目立つ。それが仇となって人に悪意を芽生えさせる。だからもぎ取ってしまえばその存在は隠せるというわけだ。

 ツクモグサ、ホテイランともその生育域はそう広くない場所に限られている。それは何故か突然現れ、突然消える。周りの環境が群生地とその周辺でそんなに変わっているとも思えないのだが、日当たりとか、風向きとか、地質であるとか、僕らには解らないそれぞれの微妙な都合があって、彼らの生育地は極々限定的になっているのだ。

 このツクモグサの群生も一つ小さな尾根に登り上げたところからいきなり始まる。それまでは一本も見かける事が無いのに。鳥や風が種を運べば、何処へでもいける・・・・・・そう言うわけにはいかない植物があるのだ。キタダケソウも北岳に咲く固有種だが、その生育地はほんのわずかな場所に限られている。そう言う者達を掘り取る事は当然の事ではあるがしてはいけないことである。

昨年のツクモグサ(ツバメの子)霧に濡れて美しかった。

 生命や種というものはそれぞれが平等にこの地球に存在しているはずだ。絶滅危惧種達が何故そう言う状況なのかと言えば、若しかしたらそれは自然の摂理なのかも知れないし、僕ら人間が彼らを追い込んでいるのかもしれない。強い者が弱い者を搾取し喰らう事もそれは自然であるとすれば、我が世の春を謳歌する人類も、いずれはその責任を取らざるを得ない日がやってくるだろう。こんなことを言っている僕も、紛れもなく勝手な都合ばかりを言う人類の一員だが、少なくとも何時仇を取られても仕方が無いと覚悟を決めておこうと思う・・・・・・・少し大袈裟ではあるが。

 人類にはそれらを乗り越えていく英知があると思いたいのだが、それはいったいどうなんだろう?いろんな問題が多すぎる。

タチツボスミレ

オヤマノエンドウ

 


北穂東稜の雷鳥親子

2013年09月16日 | 蝶よ花よ獣たちよ

 先日のツアーで北穂高岳東稜で雷鳥の親子に出会った。一般ルートに比べて行き交う人も少ないルートだけに、落ち着いた雰囲気の雷鳥親子だった。最初に見つけたのは母親で、僕らの右側の岩にすっくと立って、常念岳辺りを見つめている。そして「クウッ、クウッ」と雛たちを呼んでいる。3メートルぐらいの至近距離で、岩の上に立ち込んでくれて、その向こうには遠い山肌。最高のロケーションで撮影が出来た。その姿は凛々しく気高く美しい。表現しがたいが、野生の持つ力強さと言うようなものがにじみ出ている。しかもスタイル良しのかなりのベッピンさんだ。夢中でシャッターを切った。雷鳥を見る機会は結構ある。毎日見ていると言っても過言ではない。だけど、この雷鳥はちょっと違って見えた。

 そうこうしていると、後から「ピヨピヨ」言いながら、五羽の雛がやって来て、母親とは反対側、つまり、僕らが親子を隔てる様な形になってしまった。雛たちは僕らのことなんか全く気にしていない。そこら辺の草をクチバシでつまんで「ピヨピヨ」鳴いている。少し慌てた母親は、雛のところにやって来て、立ちはだかる様に僕らをキッと見据えて胸を張った。

「私の子供達に手を出さないで」

毅然とした態度で僕らを見つめる。しかしそれは、睨み付けると言うようなものではなく、とても穏やかなものだった。

 あと半月もすると、雛たちは親鳥と同じような体格まで成長する。どちらが親なのか、一見では殆ど解らない。しかしそれでも尚、雛たちは「ピヨピヨ」鳴いている。9月も後半になると、3000メートルの稜線では雪も降り始める季節だ。しかし、彼らは初めての北アルプスの冬をしかっりと乗り越えるのだ。そして大人になる。


最近見た山の花など8月

2013年08月25日 | 蝶よ花よ獣たちよ

 

アシベニイグチ 海外では食菌、日本国内では有毒説もある。ボルチーニ茸の親戚(7月 島々谷)

アリドウシラン 13年ぶりで見かけた小さなラン(折立上部)

コウジタケ 割ると途端に紫色に変色する 食べられるが美味しくないらしい(薬師沢)

ヤマイグチ 軸はスカスカして食べると酸っぱくて美味しくない(薬師沢)

ウツボグサ ウツボとは弓矢の矢を入れるケースのこと、海のウツボの由来もそこから来ている(赤木沢)

ガンタケ 有毒(薬師沢)

キンコウカ(太郎平)

クサボタン どこがボタンなんだろう?(上高地)

ヌメリスギタケモドキ 食用(上高地)

タマゴタケ テングダケ科だが食用、バター炒めなど美味い(上高地)

タカネオミナエシ(徳沢)

センジュガンピ(徳沢)

ちょうちょ(笑)・・・・勉強不足(上高地)

タマアジジサイ この左側の二つの葉先の触れそうで触れない感じが好き(新穂高)

ミヤマモジズリ なんかサイズが大きすぎる気がするのだが(徳沢)

ガマ 果たして、こいつを美味そうだなと思える日は来るのだろうか?(横尾)

アキアカネ 盛夏彼らは高原やアルプスの稜線で涼しい風に当たっている、この時期はまだ赤くない(徳沢)

ミドリヒョウモン(上高地)

 

 

 

 


カラスアゲハ

2013年08月22日 | 蝶よ花よ獣たちよ

水たまりに水を飲みに来たカラスアゲハ。

近づくと逃げる。でもまたやってくる。

どうしても水が飲みたいけど僕がいるから近づけない.

じっと座って

10分我慢して、このこは安心したのか羽を広げて水をたっぷり飲んでいった。

そこにあるものをただそのまま忠実に映しただけで充分美しい。


熊に出会える里

2013年08月08日 | 蝶よ花よ獣たちよ

 赤木沢からの帰り、折立から有峰ハウスに向かって、トロトロ車を走らせていたのだが、視界の隅にちらっと黒い影が見えたのでそちらを見ると、それはなんと熊の親子であった。有峰ハウスの直ぐ近く。慌てて車をバック。そこは、アスファルト道路脇のちょっとした空き地の奥で、熊は我々のことなんか全く意に介せず、地面をゴリゴリ掘っている。なにかの根っこでも掘り出しているんだろうか?その距離は約15メートル。まるで、サファリパーク状態だ。因みに僕はこの有峰湖周辺で車を走らせただけでかなりの確率で熊を目撃している。多分7割以上の確率。

 子熊の方は「おかあさん。なんか来たよ」と藪の中に逃げ込んでしまったが、母親は全く平気だ。小熊が自分のテリトリーの中にいるから、非常に落ち着いている。これが道を挟んで反対側に僕らがいたら、多分車に体当たりをされるだろう。熊の破壊力は尋常ではない。ものすごい腕力だし、その爪はまるで5本のナタを手に装着しているようなもんだ。ブナの木肌によく熊の爪痕を見つける。彼らがブナの実を食べようとブナの木に登っただけで、くっきりとその爪痕が残る位だ。興奮した熊に顔でも殴られたら、その半分はえぐれ無くなってしまうだろう。

 しかし、この熊は全く戦う意志などない。立ち去ろうともせず、かといって僕らの方に顔を向けてくれるわけでもない。もどかしくなった赤沼監督は、決定的写真を撮るべく「ウォー!」と奇声を上げてみた。それに興奮した熊が突進してくるのを撮り逃げしようというのだ。車のギアはドライブに入れたまま。いつでも発進してやるぜ。

 ところが熊たちは、「もう、いいとこだったのに、めんどくさいなあ」という感じで藪の中に消えていってしまった。一番興奮していたのは赤沼監督で、次が後部座席の助監督達(お客さんたち)だったのだ。

解りづらいが左側の黒いものが小熊だ

一心不乱に穴を掘る 無視され続けるのは辛い

おそらく100キロを越える巨体、巴投げなど問題外

 


最近見た山の花2

2013年08月02日 | 蝶よ花よ獣たちよ

ヤマアジサイ

タマアジサイ(もうすぐ可愛らしい花が咲く)

ノアザミ?

思わずそうめん食べたくなるこの登り旗、華奢な線が粋ってもんでしょう!(わさび平小屋)

これも思わず食べたくなりますねえ。でも、果物は誰かが剥いてくれるなら食べるのですが僕は殆ど食べない。(わさび平小屋)

んーーなんだろ?ごめんなさい。

オオバキスミレ

オオバミゾホウズキ(上のスミレと似てるでしょ?だけど、全くの別種。しかも仲良しで同じような所に生えてる。水の気配がある灌木帯など。ゴマノハグサ科)

ミヤマキンバイ(バラ科)

キヌガサソウ(最初は純白だが次第に色が変化してくる、おなごといっしょ?いや失礼!

ヨツバシオガマ

ムシトリスミレ(その名の通りの食虫植物。四つ葉に粘りがあり羽虫などを捕らえて栄養にしてる。花は噛みついたりしないのでご安心を、タヌキモ科)

コバイケイソウ大群落、7年ぐらいの周期で大開花する、今年はその表年、とにかく凄い。その大きな葉で、他の花を圧倒してしまう。因みに昨年は一つも花が咲かなかった。違う山でも。他の年はまばらに普通に咲く。場所を越えシンクロしてるのだ。不思議。

コバイケイソウと穂高岳

タカネヤハズハハコ

ササユリその1(北アルプスでは個体数は少ないと思う)

ササユリその2

オオヤマレンゲ蕾

オオヤマレンゲ開花(これも個体数は少ない、行きに蕾だったものが二日後には開花していた)

 

 

 


最近見た山の花

2013年07月23日 | 蝶よ花よ獣たちよ

ヤマオダマキ

コオニユリ(クリマユリではない)

シロバナノヘビイチゴ(これは美味、ノウゴウイチゴよりゴージャスな香りがある)

サラシナショウマの蕾に食らいつく甲虫

ウチョウランその1(環境省絶滅危惧Ⅱ類 僕は始めて見た。非常に目立つところにあったのだ)

ウチョウランその2

イチヨウランその1(紫の文様がないタイプ、長野県準絶滅危惧)

イチヨウランその2(文様があるタイプ)

キソチドリ

コフタバラン

コイチヨウラン(花は4ミリ程だ)

不思議なコイワカガミ?(なんと開いている、始めて見た)

タカネグンナイフウロ(北アルプス種は白いが、南ア、中アは美しい紫色だ)

イワベンケイその1

イワベンケイその2

ミヤマオダマキその1

ミヤマオダマキその2

シコタンソウ(花びらの赤と黄色の点々が美しい)

コカラマツ

ミヤマシオガマ

ヒメイワショウブ

マルバダケブキの怪しげな蕾(様々なタイプが個性豊か)

マルバダケブキ 母の愛

マルバダケブキ 隠れてるつもりの小悪魔(おーい、見えてるよーーー!)

ヒヨドリソウとアサギマダラ(沖縄などから渡ってくる渡り蝶だ、海面にぺたっと張り付いて休むと言う)

バイケイソウ(通常は緑色の花が殆どだが、これは白くて花らしい)

サルナシ(キウイフルーツの仲間)

トダイハハコ(南アルプス特産種)