今土砂降りの笠ヶ岳から帰ってきてこのブログを 書き始める前にテレビをつけたら、中央アルプスで韓国人が11人遭難していると大騒ぎになっている。中央アルプスでも今日は雨が降ったりやんだりだっただろうから、体を濡らして、風に吹かれていたとすれば、それはかなり過酷な状況だろう。無事であることを祈る。
一昨年、今回と同じ鋸岳へ向かおうと朝一番の南アルプス林道バスに乗って、北沢峠に着いたとき、一人の関西弁の男性に声を掛けられた。
「鋸ですか?同じやね。今日はぼくも六合石室に行きますから」
「そうですか、では後ほど」
そして僕らはそのまま甲斐駒ヶ岳を越え石室には午後1時半頃入った。水場に行って来てから午後4時頃から食事をしたのだが、関西おじさんはやってこない。諦めたんだなあと思っていたところ、午後5時半頃その関西おじさんが憔悴しきってやって来た。これから水場に行くのも大変そうなので水を分けてあげて、鋸は長いから明日は行かない方が良いですよと話したのだが、その関西おじさんは自分は大丈夫だと言う。それ以上は何も言わなかったのだが、翌日我々の後を歩いて来るのは最初確認できていたが、そのうち見えなくなってしまった。僕らは余り気にもせず角兵衛沢を下山したのだが、後日この男性が鹿窓ルンゼ付近で滑落死したのを新聞で知った。止めた方が良いと行ったのに。
今回の中央アルプスの遭難の詳細はまだわからないが、この二つの遭難の根底にあるものは、無知と過信であろう。高い山のない韓国の人達に、日本の3,000メートル級の稜線の過酷さは分からないだろうし、折角海を越えてやって来たと言う気持ちもあるだろう。山での強さではなくて、己を知ることがベテランであると僕は思うのだが、そういう意味ではこの二つの遭難の当事者達はまったくの初心者なんだと思う。そして彼らは、もう二度と来られないと言うような切迫感をどこか持っている登山者だ。今回はそんな鋸岳縦走である。
クリンソウ
タカネバラ
よじ登る
甲斐駒ヶ岳
鋸岳
甲斐駒ヶ岳を越えるとグッと踏み後は細くなり、生々しい靴跡が殆ど見あたらないので今シーズンはまだそれほど多くの人が歩いていないだろうと思われる。鋸岳への縦走路は僕らの他には誰もいなくて静かで快適だ。道は若干不明瞭だが、ルートファインディングをするのも楽しい。午後1時半に六号石室に到着した。五、六年前までこの石室は穴だらけのトタン屋根でテントが必要だったが今はしっかりとした屋根が着けられ、床も張られたから快適だ。
六合石室
ガイドのお宿
朝4時半に出発して鋸岳を目指した。雲は若干多めながら少しずつ良い方向へ向かっている感じがある。最初は樹林が絡んだ縦走路、所々崩壊地の縁を通るが難しい所はない。中ノ川乗越を過ぎると、ここからがいよいよ鋸岳の領域になる。第二高点へはガラガラの広いルンゼを摘め上がる。道を外すと全てが不安定なガラ場だ。高度を上げふり返れば甲斐駒ヶ岳が堂々たる風格でせまる。
第二高点からは鋸岳が直ぐ近くに見えるのだが、ここからがいよいよ岩稜帯の始まりで、ロープを使いながらの登降だから時間が掛かる。腹ごしらえをして、ヘルメットにハーネスを装着。ハーネスを絞めるとグッと気も引き締まる。
稜線上はこの先に大ギャップがあり通れないので道はいったん大ギャップ沢へ下り、それに合流してくる鹿窓ルンゼを登ることになる。とにかく、不安定な岩質なので慎重に足を進める。やたらなところを触るとボロッと岩が剥がれ落ちるからやっかいだ。鹿窓ルンゼから鹿窓へはロープの出番だ。
鹿窓ルンゼと鹿窓(あの穴を通るのだ)
凛々しき面々 いざ鹿窓へ
鹿窓直下には一応鎖があるのだが、傾斜が強いので当然ロープを使うべきだろう。しかも、岩がボロボロなので落石を避けて一人ずつ登らざるを得ない。時間は掛かるが、確実に安全を確保して鹿窓を越えた。この鹿窓は稜線直下にぽっかり空いた穴で、スーパー林道からもよく見えて、バスのドライバーさんがそのバスの運行中必ず説明をしてくれるほどの名物である。ルートはここを抜ける様になっているので、なんともドラマチックだ。
鹿窓
鹿窓を越えると次は小ギャップだ。小ギャップへの下りはスラブ(一枚岩)なのだがやはり岩は脆く、反対の登りは垂壁である。ここも迷わずロープを使う。ロープがあれば、思い切った登りも出来るし、スリルを存分に味わえるから笑顔もこぼれる。天気も良いし、最高だね。ここで、初めて二人の対向者に出会った。
小ギャップ
ここを抜ければ難しい所は終わりだ。しかし第二高点から2時間以上がかかっただろうか。しばらくのんびりしてパノラマを楽しんだ。
しかし、実はここからが本当に大変なのである。ここまでは楽しいばっかりなのだが、この先大概みんなバテバテになる。それは角兵衛沢の長い下りと、戸台川の灼熱地獄の河原歩きだ。角兵衛沢はハンパ無いガラ場で、踏み後を一歩でも外すと、いきなりそこら辺の石がガラガラ崩れ落ちるような場所だ。一歩一歩、足を置く場所を吟味しなくてはいけない。つい先日毎日ツアーではここを往復した。出来れば、んーーーーお勧めしない(笑)
この沢の中間地点には大岩小屋があって大岸壁の下部がえぐれたルーフになっていてテントを張ることが出来る。水が滴り落ちているが水を採るにはかなり苦労するだろう。ここは岩ツバメの大営巣地で、多くの岩ツバメが鳴き交わしながら空中戦をやっている。きっとそれは秋の渡りに向けての雛たちのトレーニングなのだろう。自由自在に飛ぶその姿が羨ましい。
悪名高き角兵衛沢
コオニユリ
ハナバチ
オオハナウド(蕾)
角兵衛沢の下部は普通の樹林の道だが、その下りにうんざりする頃戸台川に到着する。ポンポンと飛び石で渡って、あとはひたすら灼熱の河原を歩く。この日はまだ、風があって日が陰ったりもしていたのでまだましであったが、後半は風が止んでそこは、まるで砂漠のようであった。シナノナデシコが灼熱の河原に映える。なんで、こんな過酷な環境をわざわざ好んで暮らすのだろう?彼らは。今年は冬にもここを歩いているが、その印象はまるで違う。その時の事を思い出しながら砂漠を行く。
砂漠の民 キャラバンは続く
仙流荘にて入浴、伊那名物「ローメン」を今回のお客さんに拒否され(皆さん経験者なのだが、理解不能な微妙な食べも物なので)僕のツアーとしては珍しくチェーン店の「丸亀製麺」にて讃岐うどんを頂き伊那市駅解散。やっぱり、バテバテだわ。