キタダケソウは南アルプス北岳に特産する、キンポウゲ科キタダケソウ属の多年草である。環境省レッドデータブックⅡ類VU。近似種はあるものの、世界中でここにしかない希少種だ。それは、ハクサンイチゲの亜種だとかそんなんではなく、白い花こそ似た感じに見えるが、実際は花も葉も全てが違う別種だ。国内での近似種としては北海道アポイ岳のヒダカソウと崕山のキリギシソウがある。こちらは絶滅危惧ⅡaCR。キタダケソウよりも深刻な状況だが、キタダケソウもかなり絶滅に近い種であることは間違いない。キタダケソウが花を咲かせるのは、ツクモグサがそうであるように、他の種が開花する以前に花を咲かせ、6月中旬から7月初旬が見頃になる。生息地は北岳の某所、大体200メートル×100メートルの範囲にしかない。どういう加減なのかその生息地は歩いていくと突然始まり突然終わる。北岳の稜線直下にひっそりと、人々が訪れる前に花期は終わる。その希少性と可憐な姿は見た者全てを虜にするそんな魔力を持つ。僕も大好きな花だ。
僕はここ10年以上毎年この花を見てきた。さて今年のキタダケソウはどうだろう?毎年の事ながら、わくわくする気持ちは同じだ。群生地に近づくとそれは突然現れる。ただ、今年は様子が少し違ってハクサンイチゲがもう満開で、キタダケソウは既に終わろうとしていた。雨と風に打たれた花弁は色が抜け、まるで蝋細工のように透明になったものが殆どで、被写体になりそうな物を探すのに苦労した。しかもハクサンイチゲと混生しているのでパット見では区別がつかない。
今年一番のベッピンさん
左上のボケてるのはハクサンイチゲですね。違うでしょ?わかる?
キンポウゲの仲間なので、花弁に見えるのは実は萼で、色はハクサンイチゲよりも若干クリーム色がかってみえる。実に上品な淡いアイボリーだ。葉はこの段階では短い茎から密生して、花期が終わると次第に徒長し真夏であれば結構ビヨーんと伸びている。その様は何となくイタリアンパセリに似てるかも知れない。全く種族が違うので的を獲た例えではない、おそらく。
数年前のい撮ったもの(コンパクトカメラ)発色がちと悪いです。
同じく数年前のもの(コンパクトカメラ)
いくら見つけてもよれよれのものしか手の届くところにはなくて、お花畑の真ん中に足を踏み入れる衝動に駆られるが、それは絶対してはならない。個体数はここには結構あって頼もしささえ感じるが、盗掘などにより数は減っているらしい。南アルプス市はこのキタダケソウをあまり人々の目に触れさせたくないようで、広河原行きバスの運行を花期も終わる例年6月25日からとしている。以前は北沢峠からの林道バスは信州側とあわせて6月15日から運行していたが、これもやめてしまった。南アルプス市営山岳館館長の塩沢さんに「見せたくないんでしょ?」と聞いたことがあるが、何も言わずニヤッとした。僕も昨年は夜叉神峠から3時館半ほど歩いて広河原に入った。おまけに夜叉神峠のゲート番がどうしようもない頑固者で(管理者の県は自己責任でどうぞと言っているのに)頑として通っていいと言わない。喧嘩して入ったのを覚えている。今はインターネットの批判にさらされて、登山者に自己責任であることを一筆書かせているらしい。一本気と言えば一本気、通行止めなのは確かだからね。
話がそれてしまったが、ここでさらに以前に撮ったベッピンさんをどうぞ。
コンパクトカメラ(接写能力だけは凄い)こんなんシャッター押すだけ。
ともあれ今年もキタダケソウに会えたのはうれしかった。地球温暖化が進めば、彼らは生息域を失う運命にある。氷河期からずっと居場所を追われ、こんな高い山の稜線まで追い詰められて来たのだから。もうこれ以上高いところは無いのだ。
今日は雨が降ったり止んだり陽が出てみたりの1日だった。今晩は北岳肩の小屋に泊まる。お客さんがお一人なので節約のため僕はテントに泊まる。小屋の森本さんは「いいから、小屋泊まれよ」と言ってくれたが、ガイドは食わねど高楊枝なのだ。飲んだくれて、iPod聞いて就寝。
青の宿
北岳バットレス
小太郎尾根分岐への道すがらは見事な花畑だ。
このキノコの軒下で雨宿りしたくなるのは僕だけ?
ゴゼンタチバナ
賑やかな淑女達
三日目朝は若干ガスが切れて周りの山や中アやらも見ることが出来た。下山はまた深いガスの中を広河原へ。芦安白峰会館にて入浴。小作にて「おざら」という名の、ほうとう版のつけ麺を頂く。冷たく絞めた麺を暖かい着け汁で頂くやつだ。僕はカボチャのほうとうが苦手なのだが(なんでかぼちゃ入れるん?)、これはシコシコと麺を楽しめ美味かった。因みに僕は札幌味噌ラーメンも苦手。なぜなら、最後まで麺食ってるんだかモヤシ食ってるんだかわからないから。食事を済ませ甲府駅解散。
帰り道猛烈な睡魔に襲われ車を止めて一眠り。起きがけにモンシロチョウをパチリ。追憶のハイウェイ20号線をとろとろ走って帰宅したのだった。