光城山は安曇野の東側に連なる、里山にある900メートル程の山だ。松本駅から車で20分程の場所で1時間足らずで登ることが出来る。登山道にはずっと桜が植えられ、春には花見客でも賑わう。毎日登ってるような人もいて、天辺で小宴会なども楽しい山だ。ちょっとした気分転換に登るには手頃な山で、この季節は木の葉も落ちて展望が良くなる。
登山道にはドウダンツツジが美しく、クヌギの紅葉も黄金色で斜めに差す晩秋の光が透けて、辺りの空気まで染まって見える。久しぶりに快晴のこの日、安曇野越しに見える北アルプスが登るにつれて屏風のように立ち上がり、白銀の連なりはまるでヒマラヤの山々のように見える。冬はいつもそんな風に思うのだ。特に鹿島槍のあたり、堪らないのだ。
ドウダンツツジのトンネル 空気まで赤く染まっている
小一時間で頂上に到着し、景色の良い所でコーヒータイムとする。おやつは、僕の友人がやってるケーキ屋さん「NOJIRI」のアップルパイだ。このアップルパイは、地元のリンゴしか使わないので、冬限定のメニューだ。バターの薫り高く、甘さ控えめ、さくさくのアップルパイは皆さんにも大好評。買って帰れないだろうかと言う方もいたが、時間的な都合でそれは叶わぬ事だった。まあ、またここに来て食べて頂きたい。昔の人が言った、
「食は四里四方に求めよ」
僕もそう思うのだ。そこで食べるものは間違いなく新鮮で、安全で、そして本物なのだ。最近の食品偽装問題も、複雑怪奇な現代の流通システムの中で起こることだし、消費者だって本物が何かなんて殆どの人は解ってはいない。だから、あんなインチキが堂々とまかり通るのだ。そんなもの食べなくてもいいから、目の前からひっこ抜いた大根とか、ネギとか、蕎麦とか、米とかそんなものを食べていたいと僕は思う。だけど、僕の生活と来たら、山で食べるのは、インスタントラーメンに、アルファ米、山小屋の冷凍食品に、PM2,5入りの生水。しかもそんなフェイクな食べ物に結構詳しくなってしまった。
「NOJIRI」のアップルパイ、このケーキ屋さんは何でも美味しい。
はーい、コーヒーですよ
まるでヒマラヤ?
晩秋の斜光が林床を照らす。
黄金の道
唐松が落ちればいよいよ冬だね、
お客さんを温泉に案内して、その間に僕は蕎麦を打つ。今年始めて新蕎麦を打った。なるべく水分を少なめに、手早く練り上げ打ち上げる。水分が多い方が伸びが良くて、楽で打ちやすい事は確かだが、堅めに打ち上げた蕎麦は、コシがつよく切った時に角が立って喉越しが断然良くなる。今日はそんな風に出来ただろうか?納得出来る蕎麦はなかなか打てないのだ。
今日のおかずは、赤沼ツアー名物のネギコロすき焼きだ。寒くなって甘みを増した長ネギを畑から引っこ抜いて鍋一面に敷き詰めてその上に肉をのっけてすき焼き風に煮る。他の食材、椎茸とか白滝とか焼き豆腐とか入れてもいいが、ない方が僕は断然好きだ。すき焼きは基本的に肉と、長ネギさえあれば成立するので、その他は何か誤魔化されている様な気がしてならないのだ。それほど冬ネギのネギコロすき焼きはうまい。そいえばこの日はもしかしたらその誤魔化し鍋であったな。(笑)
さて、今年の新蕎麦の出来は如何に?・・・・・・・うんまい!!
翌日も見事なまでの快晴だった。気温は思ったほど寒くなくて、身軽な格好で三城牧場から登り始める。美しヶ原は、深田久弥が選んだ「日本百名山」の一つだが、大概の方は台上まで車で上がって、30分程のお散歩で王ヶ頭という頂上に立っている。
「それで登ったと言える?」
僕は意地悪にもことある毎にお客さんに言ってきた。乗鞍岳もそのひとつ。他の山はよく知らないが、そんなのは他にもあるだろうといぶかっている。そこで、考えたのがこのツアーだ。三城から木船ルートを登って約3時間、眼下に松本平が広がってくると王ヶ鼻に到着した。王ヶ鼻は最高点ではないが、松本から見える頂上らしきものはこの王ヶ鼻であり、景色もこちらの方が楽しめる。最高点の王ヶ頭はそれから車道を30分歩いた所にあって、頂上にはテレビ局の電波塔が林立し、ちょっと殺伐とした雰囲気の中にあるのだ。電波塔を建てるには最高の場所だから、まあ、仕方がないのか。
この人は天狗か南蛮人か?後のひとはどこか宣教師っぽい。
王ヶ頭
美ヶ原台上を歩いて塩くれば、そして茶臼山までを歩く。風は穏やかで積雪も5センチぐらいだろうか。雪が30センチも積もっている時もあったし、全くない時もある。北アルプス立山では既に積雪は2メートルを越えるという。そんな時でも、少し内陸に入れば、少雪傾向だったり、雪の予想はなかなか難しい。僕は山スキーをするから、雪の降り方が常に気になって、山を眺めては、その雪質と降る量を想像するのが冬の日課となって居る。その時の一番良い雪は何処なのだろうかなどといつも考えているのだ。またそんなシーズンが訪れた。僕の大好きな冬。
八ヶ岳遠望
美ヶ原ハイランドロッジ・・・・・・・廃屋だ。
鹿の足跡
これは狸か狐だろう
ウサギ(かかとの部分に先ず前足を着き、その前に後ろ足を出すんだよ)
ボタンヅル
今年は11月も半ばから日本列島に寒気の流入が続いている。山にはずっと雪雲がかかり、連日風が強い日が続いていた。松本駅でお客さんと集合して僕らが光城山を歩いた11月23日(土)、安曇野越しに見える北アルプスは眩いばかりに輝いてた。この時移動中のラジオの中で、今朝起きた立山真砂岳の雪崩遭難事故のニュースが報じられていた。七人が生き埋めとなったとのこと。うち四人は既に掘り出されたが、心肺停止の状態という。あの白銀の北アルプスで、この青い空の下で、悲惨な事故が起こっていたのだ。今年は雪がたっぷりと降って、立山周辺は山スキーには最高のシーズンと聞いていたから、僕も時間さえあれば出かけていたかもしれないと思うと、人ごとではなくて切なくなる。何人かの友人が立山に入山していたし、それは、僕にとって、とても身近な所で起きた事故だったのだ。僕ら山スキーをやるもの達は、いつもそんな危険を背中に背負っている。少し大げさかも知れないが、いつ死んでもおかしくないと言う状況がそこにはあって、僕らはそれを見ないように、考えないようにしているだけなのかも知れない。だが、山を滑ると言う衝動は抑えきれない。今年も僕は滑るのだ。青空が痛かった。
扉温泉にて入浴、松本駅解散。