skier Yukiyas Matsuzawa Photo by Makoto Kroda
季節外れの大雪になった初雪山から帰って泥の様に眠った翌朝6時半、白馬の松原君から電話が入った。「滑りに行きませんか?、今年最後のパウダーかもですよ。」体は鉛の様に重い。だが、最後のパウダーと言う言葉に反応して、一気に僕の体から疲れが抜けた。そして謂われのない力がみなぎってくる。
採るものも取り敢えず、スキー道具を車に放り込んで白馬に向かった。頭の中はちょっとしたパニックになっているので、車を走らせながら忘れ物のチェックをする。スキー板、ブーツ、ストック、ゴーグル、ビーコン、ゾンデ、スコップ・・・・・・etc。滑りに出かける時はいつもこんなだ。一刻も早く現場へと心ははやり、内心は尋常ではない。
僕は登山道具を整理しておくことが苦手で、時々大きな忘れ物をする。昨年も、登山靴を忘れたり、雨合羽を忘れたり、そんな事を時々やる。だから、最近は登山道具は車に積みっぱなしが基本になっている。悪いのはわかっている。車の中はいつも陽が当たるし、高温だったり低温だったり、登山道具の為には良くない環境であることは。全てを合わせるとかなりの重量にもなるだろうから、車の燃費にも影響するし、しいては地球環境の悪化にも僕は一役も二役もかってしまっていることも。だけど、忘れ物という重大な失態を演じてしまうよりマシと思っている。流石にスキー道具は積みっぱなしだと嵩張って邪魔なので、その度車から降ろすが、次回出かける時には忘れ物が大きな問題になる。特にこの日だけは、そんなつまらないミスで一日を台無しにしたくはなかった。
Shinichiro Matsubara
Makko
そんな朝の混乱が少し落ち着く頃栂池に到着した。ゴンドラとロープウェイを乗り継いで栂池自然園まで行き、少し戻る感じで鵯峰にシールで登る。本日のメンバーは滑りには腕に覚えの有る人物ばかりだ。板を自分で作る人M氏、ガイドでカメラマンの人K氏、初めてお会いする人A氏、まっこちゃん。皆熟練のライダーだ。少し遅れて鵯峰に到着したのは元デモンストレーターの人M氏、登山ショップのオーナーの人M氏。この二人は40歳台後半にも関わらず、昨日行われた全日本山岳耐久スキーレースで4位と9位という輝かしい成績を納め、そのまま地獄の打ち上げを経てここに来たというからびっくりだ。だが、「最後のパウダー」というものを、放ってはおけないのはみな同じ。
Yukiyasu Matsuzawa
Yukiyasu Matsuzawa
Abesan
もう4月である、雪の状態は決して最高ではない。雪崩の心配もぬぐい去れない状況ではある。ビーコンをチェックし滑り込んだ。若干湿りぎみの新雪、その下にはガリガリの斜面があったりはするけれど、最後のパウダーとしては上々だ。滑り屋達は思いっきりかっ飛ばして行く。地形と雪面の陰影を見てなるべく陽射しの弱いラインを選んで滑る。雪の状態がいいからだ。派手に雪煙をあげて滑る様のなんと美しい事だろう。ハンパ無い遊び人達の味のある個性的な滑りの妙。それぞれの熟練の滑りを堪能させてもらってあっという間に親沢に滑り込んだ。
ここから一旦尾根を登り返して北斜面を黒川沢へ滑り込む。流石に標高が下がると雪は重く、足下から流れ出した雪が巨大なバームクーヘン状になってごろごろ転がっていく。白馬乗鞍スキー場が近づくと、猛烈なストップ雪に悩まされた。日影で良く滑る雪は日向では途端にブレーキがかかって、堪えきれないと前につんのめってしまうほどである。これへの対処で足がパンパンになる。営業が終わった白馬乗鞍スキー場を喘ぐように漕いでパーキングに帰りつくころ、僕等の顔は苦痛に歪んでいたのかも知れない。しかし込み上げるよう満足感もまたにじみ出ていたに違いない。新雪滑り・・・・・・それは楽しさや爽快感を越えて、もはや快楽である。上々の最後のパウダー滑り、ごちそうさまでした。
Abesan