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早朝に甲府駅にて集合し、御座石鉱泉へ向かう。天気は高曇りで悪くないって感じだ。お客様は二名様。南アルプスは北アルプスと比較すると日本海から遠く内陸にあるので、冬の積雪は格段に少ない。それが山梨側ともなると、信州側よりまた少ないのでアプローチは楽だし、駐車場から即登山道を歩けるから気分がいい。
御座石鉱泉に到着すると、早速温泉の婆ちゃんがやって来た。いつもそうなのだが、金をせびりにやって来るのだ。先ずはか弱そうな?うちのお客さんに、
「あのう、皆さんどこへお泊まり?入山料頂いてるんだけど」
「ガイドさんに聞いて下さい」
そして婆ちゃんは僕のところへやって来た。
「ガイドさん?あのお、冬期小屋にお泊まり?」
「いやあテントですよ」
「テント代頂いてるんだけど」
「テント場に泊まるかわかんないし管理人もいないのに、テント代?、入山料なんて聞いたこと無いよ。」
婆ちゃんの顔色がかわった。突然伏し目がちになって
「あら?そうなの。」
といってすごすご退散し、次は隣にいた外国人ペアに話しかけていた。彼らは日帰りだということで婆ちゃんを追い払っていた。確かに彼らは日帰りだったのだが。
朝早くから誰かが来るのを見張っている御座石小屋のばあちゃん、本日の上がりはゼロ。現在の日本ではなかなかお目に掛かれなくなった実に人間くさい場所である。恐るべし、山梨県!
さて登山道をひたすら登る。下部には雪はなく、葉が落ちた山にはまだ色味がないが、昨年の落葉が朽ち果てて足には柔らかい感触が伝わる。霜柱に持ち上げられてフンワリとなった砂道の感触も僕は好きだ。西の平からは道は急坂となる。雪が出てきたので観念してアイゼン装着。甲斐駒ヶ岳と同じで所々つるつるの氷になっている。こういうところを歩くことはアイゼンワークの良い練習になる。爪全体でキックステップね。旭岳を越しさらに急坂は続くが、早く高度が上げられるのは悪くない。
旭岳の祠、石垣まで丁寧に作ってあってミニチュアっぽいからそそられる
燕頭山まで登ると広々とした尾根にでる。今日は日差しが弱いので、気温の上がり方が少なく甲斐駒の時のように、雪穴に落っこちる様な事はあまりない。楽ちんだ。目指す地蔵岳、観音岳が栂の樹間から見え隠れしている。
なかなか良いペースで鳳凰小屋へ到着。トイレでも使えればテント代金を払っても良いと思ったが、案の定それは雪で閉ざされ使うどころではない。ばあちゃん、だめだよ。早速テントを設営し、傾きかけた日差しでひなたぼっこをしながら雪を溶かして水を作る。見た目なるたけ綺麗な雪を使ってはいるが、葉っぱやらなにやらが沢山混じる。まあそれは良いとしてもやはり油煙のようなものが今回も浮いている。PM2.5だろうか。だけどかまわず飲んでしまうのだから、これからの登山者は長生きしないような気がする。(笑)
天気は下り坂の予報なので今回も早朝の出発となった。何とか地蔵岳だけは登っておきたい。テントを出てすぐ正面の尾根に取り付き堅く締まった雪の斜面を登って行き、左側のドンドコ沢源頭の開けた谷の中へ入って行く。斜度は30度ぐらいで雪の状態が良いのでロープなども全く使わずお地蔵さんが沢山並んだコルに飛び出た。意外と天気がよいので甲斐駒ヶ岳はもちろん、北アルプスも見える。尾根を登って反対側の景色が見える瞬間っていつもながらスカッとする。見えなければガックリ。
最後の岩場をよじ登ってオベリスク基部へ到達。もちろん、オベリスクは登らず(笑)観音岳へ向かう。風が若干強まってきたが行動は出来そうだ。夜叉神峠から来たという若者三人に出会った。コルとは反対側の赤抜沢の頭は登らず東側斜面を横切る。冬山は行けると思ったところが自分たちの道になるのだ。再び稜線に飛び出すと北岳が間近に美しい。
風雪にさらされた唐松がまるで盆栽の様に、、、、いやいや、盆栽の様ではなくこれが本家で盆栽がこういう物の模倣であるのは間違いない。そもそも日本庭園自体高山の景観を模倣したものである様な気がするし。だから僕は、兼六園とかの有名な日本庭園を見てもなんか退屈で、本物である高山の景観に軍配は上げてしまうのだ。皆さんもそうだと思うが。
風は強まっているが行動には問題ない。岩と砂地と雪のミックスした稜線をたどって観音岳登。頂雲海が広がり富士山が美味しいところだけ姿を見せている。予報通り下界は曇りなんだろう。雲が低い場合山の高いところが好天である事はよくあることだ。段々霞も取れて、青空がクリアーになってきた。しばし風をよけて岩陰で休んでから下山にかかった。少し戻って赤抜沢の頭の手前から近道を小屋に向けて直接下る。若干急なところはあるが話が早い。
小屋からは昨日登った道をひたすら下る。僕は下りが嫌いだ。理由は面白くないから。膝も辛い。登りも下りもそれぞれに目的はあるのだが、登りは意欲やそこにある頂への思いがあるからみなぎった感覚が常に体の中を流れている。がしかし下山して登山口にたどり着いた喜びはやっと下りから解放されたと言う喜びでしかない。だからかなあ?、、、、、ん、待てよお客さんから解放されるって喜びもあるなあ。この開放感はなかなかのものです。「達成感」そう、それです。お客さんから離れられる喜びではなく、あくまで「達成感」ですから。
下山途中でカモシカに出会う。カモシカは目が悪い割に好奇心が旺盛で最初びっくりしてちょっとだけ逃げるが、間合いをとってこちらの様子を伺うことがよくある。15メートルぐらいの距離でしばし睨めっこ。
御座石鉱泉に下ると春が始まっていた。確か登りには見なかったはずだが水仙が開いていた。
山高神代桜が咲き始めたと地元のおじさんが言うので折角だから見に行くことに。国の天然記念物、樹齢二千年と言われるエドヒガンザクラ。幹周り11.8メートル、高さ10.8メートルの古木は圧倒的な存在感だ。近年環境変化により、急激に樹勢が衰えているとのことだ。幹は朽ち果てようとしているし、古い枝は無くなりわりと新しい枝が花を咲かせている。圧倒されつつ痛々しくもある。何とかならないものかと思う。ここで二千年を見続けてきたその気分はどんなものだろう。
稜線には雪が少なく4月末と同じようですね。御座石鉱泉から鳳凰小屋までは結構長い登りでいやになりますね。
赤沼ガイドは下りが苦手とか、意味が違いますがわたしは65歳過ぎてから下りがダメになりました。バランスが悪くなり、足の踏ん張りが弱くなりました。1年ほど前からダブルストックを使用しています。
下山後は解放感と達成感があるとのこと、全く同感で、できれば一人になりたいものですね。
下り、苦手です。全然つまらない。「俺は山下りに来たんじゃねえぞ。」って思ってしまいます。